上 下
26 / 35

第二十六話 村の状況

しおりを挟む

「モルド」
「ゼヤ、どうだ?」
「よくないな」
「よくない? ゴブリンの気配はしなそうだが」
「……」
「? 大丈夫か、ゼヤ。気分がわるいのか?」

 村に入った時から、念のため魔力感知を最大限に高めていた。
 魔力の流れは俺の周囲以外大きな反応はない……はず。

 ……?
 そういえば、精霊の姿がまったく見当たらないな。

『ミエーーーー!!』
「! ルリ、どうした?」

 ゼヤの様子がおかしいと思えば、今度はルリがすっ飛んできた。

『モルドー! 川の向こうの魔力残滓がひどいでし~!』
「魔力残滓ざんし……?」

 ゼヤや大精霊たちに教えてもらった、世界の魔力バランス。
 そのよどみであり、精霊たちの悩みの種である……なんだろう。パワースポットの悪い版とでも言えばいいのか。
 精霊への信仰心の不足だったり、満ちる魔力が過大で、土地の許容量を超えている場合だったり。
 いろんな事例があれど、それは魔物の活性化や天候にも影響を及ぼすという。

『ぷぅ~~。モルドの側は落ち着くでしぃ』
「……!」

 ふつうは内なる魔力に近付かないはずの魔物。
 それが活性化するというのは……。まさか、膨大な満ちる魔力を、内なる魔力で中和しようとする……?
 魔力過多による、中毒症状とでも言おうか。

「精霊ならまだしも、魔物でそれは危険だな」
「? なにかあったのですか?」
「あ、いや。俺の従魔が──」
「!?」

 きちんと挨拶できていなかったルリを紹介しようとすると、……硬直した。
 どっかで見たな。

「あ、あっ……」
「えーっと。俺の従魔で、水うさぎのルリ。風うさぎの特徴もあって、浮けるんだ。こっちはゼヤ」

 急にしどろもどろになるウォレス。ちょっと面白い。

『ぷぅ?』
「か、かわ……」
「ルリ、こちらはウォレスだ」
『よろしくでし~!』

 挨拶代わりに周囲を旋回すると、ウォレスはぐっと何かを我慢した。
 いや、分かるよ。
 俺も毎回授業中は耐えに耐えているからな。
 かわいいものを見た時の刹那的な、爆発にも似たなにか。
 分かるよ。

「そ、……それ、で?」

 プルプルと沸き上がる何かを我慢しながら、ウォレスはあくまで平静を装う。
 もはや同志だな。

「あぁ。ルリによると、川の向こうの魔力残滓がひどいらしい。
 ここで気付いたこととか、なにか……心当たりはあるか?」

 この領に精霊魔法をも扱える魔法師が少ないとはいえ、精霊への信仰心があればルリが警戒するほど肥大することはないだろう。
 でなきゃ、今頃この王国は問題だらけだ。
 何らかの原因があるとしか思えない。

「魔力残滓……? 僕は無属性しか使えませんので、魔法のことは分かりませんが。ここのギルドでも、それほどヒドイという話は──……いや? 待てよ」
「なにかあるか?」
「僕は各地を渡り歩いていますから、噂程度ですが。ここの領主がエルフの里に行っているのは、エルフたちが設置した精霊碑せいれいひを領の者が壊してしまったからだ……と」
「! ライネリオ殿は、エルフの里にいるのか」

 なるほど、通りで屋敷にいないわけだ。
 だが、それならそうとヴィクターも教えてくれていいはず。
 レイクだって、フローリアだって、屋敷の者だって、……何も言わない。
 まだなにかあるのか?

「それ以上の情報は分かりませんが、関係があるかもしれませんね」
「精霊碑……。おそらく、侵蝕で消失した精霊を奉るものだったか」

 ウィンドローズ領はエルフたちの住む深緑の森に接する場所。
 彼らがウィンドローズ領内に精霊碑を設置するとは考えにくいから、そもそも領の者が立ち入り禁止の場所にでも近付いたか?
 ライネリオ殿はその問題に対処しているんだろう。

「……来るぞ」
「ゼヤ?」
『モ、モルド! 気を付けるでし~~!』
「ルリまで──」

 突然、ピリッとした感覚が肌に刺さった。
 なんだ……?

「っ、殺気……?」

 ウォレスも臨戦態勢をとるが、汗が伝っている。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜

あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。 そんな世界に唯一現れた白髪の少年。 その少年とは神様に転生させられた日本人だった。 その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。 ⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。 ⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。

転生することになりました。~神様が色々教えてくれます~

柴ちゃん
ファンタジー
突然、神様に転生する?と、聞かれた私が異世界でほのぼのすごす予定だった物語。 想像と、違ったんだけど?神様! 寿命で亡くなった長島深雪は、神様のサーヤにより、異世界に行く事になった。 神様がくれた、フェンリルのスズナとともに、異世界で妖精と契約をしたり、王子に保護されたりしています。そんななか、誘拐されるなどの危険があったりもしますが、大変なことも多いなか学校にも行き始めました❗ もふもふキュートな仲間も増え、毎日楽しく過ごしてます。 とにかくのんびりほのぼのを目指して頑張ります❗ いくぞ、「【【オー❗】】」 誤字脱字がある場合は教えてもらえるとありがたいです。 「~紹介」は、更新中ですので、たまに確認してみてください。 コメントをくれた方にはお返事します。 こんな内容をいれて欲しいなどのコメントでもOKです。 2日に1回更新しています。(予定によって変更あり) 小説家になろうの方にもこの作品を投稿しています。進みはこちらの方がはやめです。 少しでも良いと思ってくださった方、エールよろしくお願いします。_(._.)_

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます

蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜 誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。 スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。 そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。 「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。 スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。 また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。

ボッチの少女は、精霊の加護をもらいました

星名 七緒
ファンタジー
身寄りのない少女が、異世界に飛ばされてしまいます。異世界でいろいろな人と出会い、料理を通して交流していくお話です。異世界で幸せを探して、がんばって生きていきます。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

処理中です...