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第二十五話 最も剣聖に近い男
しおりを挟む村に足を踏み入れると、凄まじい戦闘を繰り広げたあとであろう血のにおい。
畑は農作物が掘り返されていた。
家々の外に置かれた樽もゴブリンたちが飲み水にしたのだろう。ひっくり返され、水が散乱していた。
「────はぁっ!」
「! いたぞ」
恐ろしいスピードの剣技を繰り出す、銀髪の冒険者。
探していたのは彼に違いない。
一体のゴブリンはやり返す間もなく地に伏せた。
「ルリ、川の周辺を見ていてくれないか?」
『わかったでし! ムンッ!』
俺の予想が正しければ、彼の消耗した体力が尽きる頃……。こいつらの指示役が姿を見せるだろう。
「はぁ、はぁ。…………っ?」
「いきなりすまない。俺はモルドラン、サンロゼのギルドで頼まれて、様子を見に来たんだ」
「!」
名前を告げると、銀髪の少年……いや、青年か?
驚いた様子で俺を凝視した。
「周りを見てくる」
「あぁ、頼むよ」
ゼヤは気を利かせて周辺を見ていてくれるようだ。
「はぁ、はぁ……。モルド、ラン……? あの、バカの……?」
「やっぱり、君はウォレス殿か」
アレクスの最大のライバル。
今、剣聖にもっとも近いと言われる男。
国内四つの剣術大会で優勝すると名乗れる『剣聖』という称号は、フィオルア王国剣士の最大の名誉であり憧れだ。
ウォレスは騎士系貴族の三男。
家督も継ぐことはなく、家族にも期待されてこなかったため、出奔して冒険者になっていた。
騎士の型に当てはまらない自由な剣筋が合っていたのか、みるみる頭角を現し、現在三つの剣術大会で優勝している。
「よければ、飲んでくれ」
収納魔法からポーションを取り出すと、ウォレスに差し出す。
「……」
「あ、俺は今、『滅竜』は抜けてソロ。ウィンドローズ伯の家で、魔法を教えているんだ。
だから、アレクスとはもう関係ない」
「……頂こう」
ちょっと警戒心強めなところがゼヤに似ているなと思いつつ、ポーションを手渡した。
それにしても……。
貴族出身だからか、鍛えているからか。姿勢がよく、テキパキとした動き。
おまけに金色の瞳が気を抜くことなく鋭く光っていて、まだ二十歳前のように見えるが歴戦の騎士のように感じる。
見た目だけで言えば、麗しい貴族の坊ちゃんだけど……、醸し出す雰囲気はまさに剣聖に近い男と言える。
「……何か?」
「あ、いや、すまない。きちんと話すのは初めてだなと思って」
「それはそうですね」
ポーションを飲み干すと、少し呼吸が整った気がする。
持ってきておいてよかったな。
「『滅竜』というのは低俗な集団かと思っていました」
「アハハ……」
ウォレスがこう言うのも無理はない。
彼が残す最後の剣術大会は王都主催のものだが、これまで彼が出場したことはない。
実力では確実にアレクスより上。
恐らく、王家直属の騎士家系である生家に遠慮してのことだとは思う。
……のだが、何も分かっていないアレクスは、優勝インタビューで散々ウォレスを煽りちらかした。
俺に怖気づいたのか、だのなんだの。
会場に来ていた者も苦笑い。
それもあって、冒険者ギルドで運悪く二人が顔を合わせると険悪なムードが漂い始める。
アレクスは腕が悪いわけじゃないんだが、馬鹿正直というのか、見切り易いんだよな。
俺は剣については素人だが、ウォレスが上なのは間違いない。
「もう俺は滅竜とは何も関係ないからな。気軽にモルドと呼んでくれ」
「……、僕のこともウォレスでかまいません」
「あぁ、よろしく」
改めて握手を交わすと…………。
なぜか、ウォレスは顔を背けている。
ほんのり、顔が赤い。
まさか……、照れてる!?
なんでだ。ソロが長いから?
冒険者の知り合いが少ない……とか?
分からん。
分からんが。
ここにきてツンデレ属性なのか……ッ!?
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