24 / 35
第二十四話 到着
しおりを挟む「尻が……いたい……」
『モルド~だいじょうぶでしか~?』
「……」
「到着しましたぞー!」
約一時間半ほどの馬車の旅は、たしかに揺れた。
乗り物酔いはしない方だが、何より尻が……尻がいたい。
「座布団的な何かを持ち歩こう……」
ルリはふよふよ浮いてて全く疲れた様子もない。
ゼヤは俺の向かいで足を組みながら座っていたはずなのに、痛がる様子もない。
俺だけがヨロヨロと馬車から降りた。
「ここが……」
「では、私はここで待機しております。何かあればお申し付けください」
馬車が着いたのは占拠された村と、隣の村の中間地点。
臨時で避難所となっている場所で、センバはここで待機するという。
簡易的なテントや炊き出しが行われ、よりしっかりとした造りのテントには恐らく怪我人が治療中なのだろう。
周りを見回せば、不安そうな村人と対照的に、冒険者や騎士たちが真剣に話し合っている。
「誰に事情を聞いたらいいかな」
「さあな」
『でしでし』
やはり冒険者、……いやここは領の騎士か。
「──あなたがモルドラン殿ですかな?」
「ん?」
振り返ると、がっしりとした鎧を身に纏った茶髪の騎士がいた。
「そうだが……、貴方は?」
「失礼。私はシャッド。アケド村の警護を行っていた、デュナメリ家配下の騎士だ」
ちょうどいいところに声を掛けられたな。
「シャッド殿か、よろしく頼む。俺のことはモルドでいい。こっちは従魔のルリと、ゼヤだ」
『でし~♪』
「……」
「水うさぎが従魔……ですかな? それは、珍しいというか……かわ……」
かわ……。
絶対かわいいと思ってるだろ。
「コホン、失礼。早速ですが、センバ殿にうかがっています。アケド村への増援、誠にありがとうございます」
「いえ。それで、状況は?」
「はい。簡潔に申しますと、概ね本日中には片が付くかと」
「! それはすごいな」
彼らも手伝ったのかもしれないが、それにしてもBランクの者は本当に実力者なんだな。
「……ただ、本来ゴブリンというのは知能が低く、統率力も優れているとは言えません」
「それは俺も懸念していた。……もしかすれば、他の種族、あるいは上位種に指示された可能性もある」
知能が高い魔物は、それだけで脅威だ。
友好的で従魔になることも多いが、人と慣れ合わないタイプの魔物も多い。
一番厄介なのは、好戦的なやつだ。
「ですので、村に巣食うゴブリンは彼に任せ、我々とモルド殿で周辺を警戒したいと思うのですが……」
「あぁ、それがいいだろうな」
その冒険者のことも気になるが、万が一ゴブリンたちが陽動だった時のことを考えると……、周りに気を配っておいた方がいいに違いない。
「俺も哨戒のローテーションに入れてくれ。ゼヤは冒険者ではないが、実力的にはAランクと思ってもらって構わない。人数調整は任せる」
「なんと! Aランクがお二人も……心強いですな」
「その冒険者からは、なにか異常のような報告はないのか?」
「はい。定期的に騎士団の者が連絡係として赴いておりますが……数が多い以外には、特に。
ただ、奴らは恐らく川を渡って村に侵入しました。巣があるとすれば、そちら側かと」
「ふむ。川か」
自然の要塞だと思っていたところから魔物が侵入すれば、たしかに不意を突かれるな。
「ルリ、氷魔法は使えるのか?」
『お任せでし~♪』
「そうか。もしもの時は頼むぞ」
『でし!』
氷魔法が使えれば、仮に川から渡られても対策はしようがある。
あとはゴブリンたちが村を占拠した目的。
それさえ分かれば……。
「シャッド殿。ゴブリンたちは、村の作物を目当てにやってきたのか?」
「はい。この村には女子供は少ないですから……、たんに食糧を目当てにしていたと思います。破壊衝動に任せ人を蹂躙したいのであれば、わざわざここを狙うことはないかと」
「ふむ」
そこが引っ掛かるな。
であれば、わざわざこの村に留まる必要もなさそうだ。
まるで、冒険者が来るのを待っているかのような──
「!」
「どうされましたか?」
まさか、ゴブリンたちは捨て駒か……?
「わるい、やっぱり俺たちは村の冒険者と合流する」
「そ、それは構いませんが、……」
「ゴブリンの脅威というのは、繁殖力。……つまり数だ。
ゴブリン討伐の妥当なランクは1体ならE、数体ならD。
今回は数が多くC判定。なら、Cランクのパーティが依頼を受けるとする。
……そいつらを真っ当に相手にして、疲れない冒険者なんていないだろう?」
「──! 村に留めるための、布石……?」
「そう考えると辻褄が合う」
知能があり、ゴブリンを従え、好戦的。
特に、弱い相手をわざわざ狙うのではなく、冒険者……戦える者を狙うとなると、よほどの戦闘狂だ。
いくつか候補が思い当たるが、Bランクとはいえソロでは骨が折れる相手だ。
「こちらのことはお任せください」
「あぁ、頼んだ」
『行ってくるでし~!』
「ゼヤ」
「?」
「君に万が一ってことはないだろうが、気を付けていこう」
「……あぁ」
シャッドに村の地図をもらい、ソロの冒険者がいると予想される地点をいくつか教えてもらって俺たちも向かった。
11
お気に入りに追加
553
あなたにおすすめの小説
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
転生することになりました。~神様が色々教えてくれます~
柴ちゃん
ファンタジー
突然、神様に転生する?と、聞かれた私が異世界でほのぼのすごす予定だった物語。
想像と、違ったんだけど?神様!
寿命で亡くなった長島深雪は、神様のサーヤにより、異世界に行く事になった。
神様がくれた、フェンリルのスズナとともに、異世界で妖精と契約をしたり、王子に保護されたりしています。そんななか、誘拐されるなどの危険があったりもしますが、大変なことも多いなか学校にも行き始めました❗
もふもふキュートな仲間も増え、毎日楽しく過ごしてます。
とにかくのんびりほのぼのを目指して頑張ります❗
いくぞ、「【【オー❗】】」
誤字脱字がある場合は教えてもらえるとありがたいです。
「~紹介」は、更新中ですので、たまに確認してみてください。
コメントをくれた方にはお返事します。
こんな内容をいれて欲しいなどのコメントでもOKです。
2日に1回更新しています。(予定によって変更あり)
小説家になろうの方にもこの作品を投稿しています。進みはこちらの方がはやめです。
少しでも良いと思ってくださった方、エールよろしくお願いします。_(._.)_
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます
蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜
誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。
スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。
そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。
「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。
スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。
また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。
ボッチの少女は、精霊の加護をもらいました
星名 七緒
ファンタジー
身寄りのない少女が、異世界に飛ばされてしまいます。異世界でいろいろな人と出会い、料理を通して交流していくお話です。異世界で幸せを探して、がんばって生きていきます。
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
異世界無知な私が転生~目指すはスローライフ~
丹葉 菟ニ
ファンタジー
倉山美穂 39歳10ヶ月
働けるうちにあったか猫をタップリ着込んで、働いて稼いで老後は ゆっくりスローライフだと夢見るおばさん。
いつもと変わらない日常、隣のブリっ子後輩を適当にあしらいながらも仕事しろと注意してたら突然地震!
悲鳴と逃げ惑う人達の中で咄嗟に 机の下で丸くなる。
対処としては間違って無かった筈なのにぜか飛ばされる感覚に襲われたら静かになってた。
・・・顔は綺麗だけど。なんかやだ、面倒臭い奴 出てきた。
もう少しマシな奴いませんかね?
あっ、出てきた。
男前ですね・・・落ち着いてください。
あっ、やっぱり神様なのね。
転生に当たって便利能力くれるならそれでお願いします。
ノベラを知らないおばさんが 異世界に行くお話です。
不定期更新
誤字脱字
理解不能
読みにくい 等あるかと思いますが、お付き合いして下さる方大歓迎です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる