11 / 35
第十一話 水うさぎの……
しおりを挟む『なにかあれば、いつでもおっしゃってください』
「あぁ、助かる」
そう言えば、微笑みながらシャウラと同じように消えていった。
ほんと神出鬼没だな。
「さて」
残された水うさぎを見る。
見下ろすとそれはやはりモフッとしていて。
やや丸い物体のように思えるが、おしりの毛がピョッと出ているのがまたかわいい。
もう一度言う。
か わ い い 。
「そうだ! 名前」
なんと呼ぼう。
目線を合わせるために屈む。
「俺の言葉は……分かってるんだよな?」
ふつう従魔契約をするには、その魔物よりも強い魔力の持ち主でなければ成立しない。
だが、大精霊の遣わす存在である聖獣が俺より魔力が低い訳ないよな……。
ということは、セイレンに託された友のような存在だと認識すればいいのだろう。
『ぷう!』
「うーん、俺の言葉は通じてるみたいだな。何を言っているかは分からない……」
従魔契約の最終段階は、『名付け』だ。
で、あれば名前を呼ぶことで分かるようになるか?
「水うさぎ……、水。うさぎ、もふもふ。銀、……うーん」
あ、そういえば眼は青色なんだよな。
宝石みたいに綺麗な色だし、……そうだな。
「ルリ……はどうだ?」
瑠璃色の海、というぐらいだ。
本物は見た事ないけど、きっと綺麗な青色をした宝石なんだろう。
『──! ~っ!』
「お」
何かを一生懸命伝えようとしている。
前足を上に挙げ、立ちながら俺に何かをアピールする。
『──リ、ルリ! ボク、ルリ! ワーイでしっ!』
「っ!?」
なんだ、この生き物は?
カワイイが……歩いているのか?
権化。かわいいの権化だ。
声が聞こえた衝撃よりも、かわいさによる衝撃の方が何倍も大きい。
俺は冷静さを取り戻すためにもルリの頭を撫でていた。
「よろしくな、ルリ」
『モルド! ボク、セイレンさまにきいたでし! キミはモルド!』
「ぐっ!」
ダメだ。冷静さを取り戻すどころか、かわいいに飲み込まれてしまう。
思考能力は奪われ、語彙力低下。
何か言うとボロがでそうだ。
もう無理。かわいい。愛でる。
「嫌だったら言うんだぞ」
『ンムッ』
口数も少ないまま一心に撫でる。
動物なんて、前世だと猫くらいしか撫でたことがない。
嫌がっていないか、気持ちよさそうか。俺はルリの様子を念入りに確認する。
『ぷぅ~~』
「気持ちいいのか?」
『でしッ!』
もふもふと、手から伝わる熱と、細められたルリの目。
なんだろう、何かが充たされる感覚。
精霊の代わりに、その力で人の世で活動するための肉体を得たのが聖獣という存在……だと聞くが、こうも温かいと神聖な存在だということを忘れてしまう。
この温かさもきっと、『守りたい』『共に居たい』と思える存在の一つなのかもしれないな。
11
お気に入りに追加
552
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。



異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~
樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。
無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。
そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。
そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。
色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。
※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!

賢者の幼馴染との中を引き裂かれた無職の少年、真の力をひた隠し、スローライフ? を楽しみます!
織侍紗(@'ω'@)ん?
ファンタジー
ルーチェ村に住む少年アインス。幼い頃両親を亡くしたアインスは幼馴染の少女プラムやその家族たちと仲良く過ごしていた。そして今年で十二歳になるアインスはプラムと共に近くの町にある学園へと通うことになる。
そこではまず初めにこの世界に生きる全ての存在が持つ職位というものを調べるのだが、そこでアインスはこの世界に存在するはずのない無職であるということがわかる。またプラムは賢者だということがわかったため、王都の学園へと離れ離れになってしまう。
その夜、アインスは自身に前世があることを思い出す。アインスは前世で嫌な上司に手柄を奪われ、リストラされたあげく無職となって死んだところを、女神のノリと嫌がらせで無職にさせられた転生者だった。
そして妖精と呼ばれる存在より、自身のことを聞かされる。それは、無職と言うのはこの世界に存在しない職位の為、この世界がアインスに気づくことが出来ない。だから、転生者に対しての調整機構が働かない、という状況だった。
アインスは聞き流す程度でしか話を聞いていなかったが、その力は軽く天災級の魔法を繰り出し、時の流れが遅くなってしまうくらいの亜光速で動き回り、貴重な魔導具を呼吸をするように簡単に創り出すことが出来るほどであった。ただ、争いやその力の希少性が公になることを極端に嫌ったアインスは、そのチート過ぎる能力を全力にバレない方向に使うのである。
これはそんな彼が前世の知識と無職の圧倒的な力を使いながら、仲間たちとスローライフを楽しむ物語である。
以前、掲載していた作品をリメイクしての再掲載です。ちょっと書きたくなったのでちまちま書いていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる