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第六話 清風の森①
しおりを挟む「ここか」
「し、静かだ……」
最寄りの街道まで馬車に乗り、森の入り口までを徒歩で進む。
次の街への道との反対側にあたる森は、爽やかな風が吹き抜けていた。
清風の森と呼ばれる所以だろう。
風の音。植物の音。鳥の鳴き声に、なにかの生き物の声。
音がしないというよりは、人気がないと言った方が正しい。
少しだけ森に足を踏み入れると、どこか外界と隔絶されたような気分だ。
「ソードプラントがいるようには思えないな」
「あいつら、森からは出ないからな。先客がいないんだろう」
「ふむ、好都合か」
「落ち着いてるなぁ……」
「俺たちの依頼は魔物の討伐じゃない、採取だ────」
無駄な争いは避けるに限る。
内なる魔力を研ぎ澄ませれば、そこかしこから魔力の存在を感じた。
感じるだけではなく、そこに『在る』と確かに認識すれば──その存在が現れた。
『おやぁ?』
『ヒトだー。もしかして、みえてる~?』
「やぁ、見えているよ」
風の精霊だろう。
心地よい風と一緒に踊るかのように漂っていた精霊がふたり。
小さい男の子と女の子に見える彼らは、掌ほどのサイズだ。
「? 誰かいるのか?」
「風の精霊だ」
「ええ!? さ、さすがだな」
『姿みせたほうがいい?』
「お願いできるか?」
『いいよー』
そう言えば、ふたりはギースにも見えるよう配慮した。
「う、うわぁ!? はっ、はじめてみた!」
『やっほー』
『あはは、おもしろーい』
ギースが驚くのも無理はない。
俺だって初めて精霊の姿を見たときは驚いた。
精霊たちはギースの反応を面白がっている。
「俺たち、風舞の花を探しているんだ。花びら部分も緑色をした花なんだが……」
『みどりー?』
『うーん。アレかなー?』
『でもねー、アレはねー』
「? なにかあるのか?」
心当たりはあるようだが、どこか乗り気ではない。
『おやすみだもんねー』
『ねー』
「? 精霊たちの……休憩所ということか?」
『んー』
『まーキミなら怒られないかもー?』
「怒られる場合もあるのか……!?」
「高位の精霊がいるのか? ……君たちには迷惑をかけないようにする。
案内してもらえるか?」
『『いいよー』』
渋った割には頼めばあっさり了承してくれた。
風の精霊が気まぐれというのは、本当のようだ。
◆
『ついたー』
「なにも、……ない?」
「そう見えているだけだろう」
精霊たちに案内されたのは、少し小高い場所にある開けた場所だった。
木々に囲まれたそこは、何もない方が不自然なほど。
だが、魔力感知を働かせている俺でも見える気配がしない。
……どういうことだ?
『やっぱりおやすみなのー』
『まものがあらすからー』
「魔物が?」
魔物が風舞の花を荒らすから、精霊が隠しているのだろうか。
「! ──構えろ、ギース!」
「え?」
『『キャー!』』
不穏な気配を察知して、ギースに警戒するよう呼びかける。
俺よりも早くに察知した精霊ふたりは姿を消していった。
「う、わぁ……ソードプラント?」
「ギースはDランクだったか。初めてか?」
「そりゃぁ、もう!」
囲われた木々の合間から、蔓の長い魔物が出てきた。
こいつは恐らくオス。体はヤシの木の葉のような、大きめの葉がキャベツのように何層にも巻かれている。本体ってどんな姿なんだろうな。
大きさは縦に人間二人分、横に三人分ってとこか。
「ギース、言ったことは覚えているな?」
「な、なんだっけー!」
「自分の身は、自分で守れ──だ!」
警告はした。
あとは自分でどうにかしてもらおう。
「──、無詠唱っ!?」
つららをイメージした、氷の魔法。
森の中で火を使うには別の危険もある。
風で切り刻むか、大地に力を借りるかだが、この森に住むからには魔法への耐性があるかもしれない。
というわけで、一番効果的な魔法を発動させた。
突然現れた氷に貫かれたソードプラントは、声にならない声をあげた。
驚いた付近の鳥たちが、一斉に空へと逃げる。
「や、やっぱり魔導師ってすげー!」
「おい、油断するなよ。……後ろだ」
「ぃっ!?」
反対の木々の合間からは、目の前のよりも小柄なソードプラント。
恐らくメス。
魔法が得意なメスが相手では、ギースには分が悪い。
「のわあぁぁぁ!!」
オスの悲鳴を聞きつけたのだろう。
すでに怒っている様子のメスの個体は、短い蔓からビュンビュンと風の刃を繰り出す。
それを紙一重で避けるギース。
……身体能力は高そうだな。
「ちょ、見てないで助けてくれええぇぇ!!」
「仕方ない」
ひとまずギースを防御魔法で覆ってやろう。
そう考えた時だった。
「「!?」」
一面、土と草だけだった地面が、色とりどりの花で溢れかえる。
それは一瞬の出来事だった。
『────騒がしいわぁ』
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