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33 ご相談は薬師まで②
しおりを挟む「ダオ~」
「うん?」
「?」
「騎士のこと、話しとこうと思って」
「ああ、そうだな」
「いいの?」
「いいよ。リチアナに迫られるくらいだから他の魔女にも言われかねないし」
「それもそうね……」
地の魔女で要注意なのはリチアナくらいだけど……。
代替わりしたばかりの風以外の大魔女候補は、きっと何人か居る。
その人らに求められないとは限らないからね。
それに、リチアナみたいにイメージ戦略を忠実にこなしている魔女にとって、美形の男というのはそれだけで需要がある。
大魔女にならなくても、手元に置いておきたいと思う魔女も少なからずいるでしょう。
「魔女の騎士……というのは、大魔女の特権なのか?」
「そっ」
ダオにも腰掛けてもらい、落ち着いて話す。
「──大魔女の魔力を受け継ぐと、とある方法で一人の魔力を奪うことで契約が出来るんだけど……」
「その奪われた者は魔力がなくなる代わりに、抗魔力っていう力が手に入るのね」
「抗魔力?」
「魔法が効かなくなるの」
「魔法が……!」
「それだけじゃないわ。その力をきちんと扱えるなら、魔力を断ち切ることが出来るの」
「なんでかっていうと、大魔女が暴走した時の保険ね」
大魔女の力は、いわば自然の力。
それが暴走するということは、大変なことだ。
一番近くに居る者がそれを止めれるよう、抗魔力が備わったと言われている。
「なるほど……、だから信頼に足る者しかなれないと」
「うん。悪いやつがなっちゃうと、大魔女の命が危ないからね」
「だから、もう一つ制約があって。魔力が大魔女の手にあるうちは、契約者は大魔女が死ぬと一緒に死んじゃうの」
「逆に、契約者が死んでも、大魔女にはなんも影響ないけどね」
「ふむ……」
「だから、基本は身寄りのない者とか、魔力がない人から突然生まれた魔法使いとか、……なんだろう。こう、魔法使いとしても自分の居場所が分からない人というか」
「そういう人に、居場所を与える意味で先代大魔女が見つけてくるのよね、普通」
自分で自分の騎士に出逢うというのは本当に稀。
今代だとシークイン様がそうだけど、契約したての頃は騎士が魔力を取り戻したくてウズウズしていたらしい。
魔法使いにとって、魔法が使えないってアイデンティティの欠如と一緒だからね。
今は信頼関係が築けているのか、そういう話は聞かないけど……。
「けど、大魔女もね。他人の人生を勝手に決めたくないからさ。契約者が望めば、いつでも魔力は返すって言うよ」
「そしたら別の者を探すのか?」
「まぁね。さすがに、抗魔力を持つ人が側にいないと、大魔女側も不安だし」
「でもそれは……」
言いたいことは分かる。
万が一暴走したとして。
長年一緒にいた、絆で結ばれる者を止めること。
場合によっては、命を奪うこと。
……それによって、自分も命を落とすかもしれないこと。
互いの信頼関係を利用した、自爆みたいなもんだ。
正直、いいシステムとは思えない。
「大魔女の力がないと契約は無効……だから、任期が終われば騎士は解放されるんだよね」
「……よほど、深い絆で結ばれる者同士なのだな」
「わたし達魔女にとっては、憧れでもあるのよ」
「……そう?」
「そうだよ!」
わたしからしたら、荷が重い。それに尽きる。
他人の命を握る訳だし。
自分が相手の人生を縛るようなもんだし。
抗魔力の件がなかったら、一人で居たいわ~。
「男性だけ、なのか?」
「特性上、男性がおおいけど……女性がなる時もあるよ」
「先代風の大魔女、ハルバーティ様の騎士は女性だったね」
「へぇ」
「お身体が丈夫でなかったから、任期が短いってのもあったと思うけど」
そう考えると、仮にわたしが地の大魔女を受け継げたとして。
代替わり順でいうと直属の先輩は、風の大魔女エルドナ様か。
「ハニティは、もう決まっているのか?」
「へ?」
「まだみたい」
「……そうか」
「まぁ、わたしが継いだら任期けっこう長いと思うからね。グランローズ様がいい感じの人見付けてくれるでしょ」
人任せとは、このことだ。
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