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32 ご相談は薬師まで①
しおりを挟む「いらっしゃ──あ! ハニティ!」
「やっ」
魔法使いの集落は、ふつうの街より規模は小さめ。
だけど、お店や建物は魔法のおかげかけっこう充実していて、ふつうの街の中心部が全体的にあるって感じ。
その周りに地の魔法使い用の畑があったり、水の魔法使いが貯水池を作ってたり。
そのまた外側に、対魔物用の結界がある。
独立した領都って感じだ。
正直、住みやすい。
そんな街のちょい東側。
緑地に近い場所に、エボニーの薬屋がある。
自宅兼薬師の作業場とお店って感じで二階建てだ。
「あ、ダオさんも──」
「ダオでいい。邪魔するぞ」
「じゃぁ……ダオも、いらっしゃい!」
うんうん。
美形と可愛い子ちゃんが交流してるのを見るだけでほっこり。
……リチアナも美人なんだけど、どうもそういう気分にはならないのは不思議だね。
薬屋の扉を開けると、元気にエボニーが出迎えてくれた。
カウンターの向こう側に居て、在庫チェックをしていた模様。
たまに地や水の魔女が従業員として居るけど、今日は一人みたいだ。
ダオはうちを見て回ったのと同じように、物珍しそうに店内に視線を巡らせている。
「訪ねてくれるのは嬉しいけど……、突然どうしたの?」
「いや、そろそろ定期試験だなぁって」
「……そうだね? ハニティの植物と土魔法なら大丈夫じゃないかな?」
「そ、そうなんだけどさ」
「ふーん?」
わたしも、上手く言えない。
なにせ、前世の記憶が甦っての初試験。
おまけに料理で不思議なことが起きて、てんやわんや。
「へ、変なこと聞くけど……」
「あ、そこ座ろうよ。お客さんも居ないし」
店内の一角。
テーブルとチェアが四つ備わった場所に促される。
「それで?」
「ひじょーに変なこと聞くけどさ」
「うんうん」
「──魔女の定期試験で、料理を出した人って……いる?」
「…………料理?」
きょとん、と首を傾げるエボニーは可愛い。
癒し。
彼女が不思議に思うのも無理はない。
魔法使いの中にも料理を得意とする者はもちろん居る。
けど、わたし達のいう『魔法』っていうものは自然に寄せた力で、そもそも料理と魔法を結び付けることはない。
し、地の魔女が育てたものがいくら魔法使いに良いからといって、治癒の魔法は水属性と言われている。
もし自己治癒能力をアップさせる目的でつかうなら、植物をわざわざ料理にして摂るより薬の方が効く。
そういう認識だ。
だから、普段の生活で取り入れることはあっても、定期試験で料理をふるまうって……中々ないと思う。
「料理……、……居ないんじゃない?」
「だよねぇ」
ダオはエボニーの許可をとって店内を見て回っている。
わたしは一人、云々と頭を抱えた。
「料理が、どうかしたの?」
「いや……、ここだけの話なんだけどさぁ」
そして、ダオとも話し合ってエボニーの意見は聞いた方が良いだろうと判断して、彼女に事の仔細を伝えた。
呪術のことも含めて。
「!? そ、そんなことが…………」
「いや、信じられないよね……わたしも最初はびっくりした」
最初は、というか。
前世の記憶が甦った次の瞬間くらいにダオと出会って、もう頭の中はジェットコースターの気分だよ。
「……呪術のことは、……禁術のことは、大魔女の皆さまに聞くしかないよね」
「そうだね、そう思う」
「でも、ハニティの料理は正直……。度を超してると思うの」
「デスヨネェ」
現役の薬師様がいうなら、もうそうなんだろう。
今の自宅に来るまで、グランローズ様にいろいろと教えて頂いたわたし。
その時でも、料理で呪いや傷が治るなんて聞いたことはない。
「ねぇ」
「うん?」
「わたし達の知ってることって、ほんの一握りだと思うの」
「そうだね」
「大魔女にならないと分からないことが、沢山あると思う」
「……うん」
「だからさ、……ハニティ。……応援してる」
「ん?」
「大魔女、ぜったい……ハニティがなるべきだよ」
「…………そう、だね」
自分でもそう思う。
前世の記憶、料理の効果、シークイン様の託宣。
なんか、色んなことが自分に大魔女になるよう示し合わせてる気がしている。
「でもなー、いきなり料理がどうとかしちゃうと、リチアナがうるさそう。魔女の伝統ガーとか」
「! また絡まれたの?」
「そ。ダオに騎士になれって迫ってたよ」
「ええええー!?」
そうだった。
ダオに魔女の騎士についても言っておかないとだ。
わたしの認識だけだと間違いがあるかもなので、エボニーにも同席してもらうために連れてきたのだった。
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