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19 お魚乱舞

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「──魚」
「え?」
「魚が、たべたーーーーい!」

 前触れもなくダオに詰め寄れば、「そ、そうか……」と引かれた。
 だって食べたいんだもん。

 干物はこの前ので最後だったし、近々集落に買いにでないといけない。
 あーあ。海産物とまではいかないから、せめて淡水魚でもいいから……。
 水魔法が、上手につかえたらなぁ。
 魚をちゃちゃっと捕まえれるのに……。

「……待てよ?」

 居るじゃない。

「ってことで、行くわよ! ……川に!」
「……!?」

 なんだこいつは、な目で見ないでくれる?





 正直地の魔女なので、魚情報については乏しい。
 前世でも同様。
 だからいつも買うばかり。

 でも、今は水魔法のエキスパートがいる。
 これだけ鮮やかな藍、……相当な使い手だと思われる。

(その水魔法のエキスパートが、治癒魔法知らないんだもんなぁ)

 やっぱり、シークイン様以外にもう使い手はいないのかな。

「結界の外は、ひさしぶりか?」
「そうねぇ、前回はいつだったかな」

 今日は結界内の敷地をでて、外出だ。
 水場はたまにあるけど、魚がいるような渓流はちょっと歩かないといけない。

「おやつにクッキーも持ったし」

 レモンバーベナの出涸らしを入れたシンプルなクッキー。
 素朴だけど、ふんわりハーブの香りがして気分がおだやかになる。
 
「もし魔物がでたら、下がってくれ」
「え? なんで?」
「? 敷地内じゃないぞ?」
「あぁ、そういうこと」

 のんびり魔女のイメージが付きすぎて、どうやら忘れられているらしい。
 わたしは、地属性に全振りだ。

「──よっ」

 地面に手を置いて、魔力を込める。
 そうすれば、ダオの行く手を阻む土壁が一瞬で隆起した。

「そんで」

 ダオを魔物に見立てて。
 こうして機動力を奪った相手に──。

「ちょ! 分かった、分かったから!」
「魔物の討伐も魔女の務めってね」

 岩でできた槍が五本。
 ダオに照準を合わせている。

「殺す気か……!」
「おほほ」

 仮にも大魔女候補。
 なめたら、いけませんことよ。

「──お、川だ~」

 三十分ほど歩いて、森にも流れる水源を辿り、地形がところどころ急流をもたらすところに来た。
 穏やかなところに居る魚でもいいけど、こういうところのが身が引き締まってそうよね。

 道がある場所から一段下がって、より川に近付いてみる。
 ふだん草木や森に囲まれて生活しているからか、今いる場所が不思議な感じに思える。

「う~ん、やっぱりわたしじゃ無理」

 魔法を使ってみる。
 川の水に手をつけ、思ったように操れるか試してみる。
 ぽちゃっ。
 手に付けた周辺。……波紋が広がる範囲は操れそう。
 でも、水のなかでとんでもないスピードで泳ぐ魚には太刀打ちできない。
 
 ダメだ……、てんでダメだ。

「本当に地属性に寄ってるんだな」
「まぁ、これでも十分なんだけどねぇ。……無い物ねだりってやつ?」
「いいじゃないか、俺がいる」
「えっ!? あ、……そ、そうだねっ!」

 びっっっくりした。
 たまに美形力を存分に発揮するから、ドキドキする。
 俺がいる、なんて言われたら……緊張するじゃないか!
 頼りにはなるけども!

「川の砂とか操ってもいいけど、疲れそうだし」
「──任せろ」

 こうなったら、植物に魔力を通して操れる釣り糸! ってしたらどうか?
 とか、釣り人に怒られそうなことを考えていたら、勇ましい掛け声。

「おおっ」

 さすが、と言わざるを得ない。
 今度はダオが水面に触れると、周辺の水は一気にダオに従い始めた。
 恐らく、生物の反応がある部分の水だけを操作するんだと思う。
 わたしが土でやってることの、水版だ。

「ここか?」

 普段そんな使い方はしないだろうし、手探りでダオが試しにやってみると……、魚が跳ねてこっちに飛んできた!
 たぶん、自分で跳ねたんじゃなくて、水に押し出されたって感じ?

 アユ……ウグイ? 体も大きくなく、眼も小さ目な川魚が飛んできた。
 こっちの世界では特に呼び名がない、よく見かける『川魚』だ。

「おー! すごい」
「まだ居るな」

 やはりというか、容量のいいダオは次々に水揚げしてくれる。
 とりあえず、干す用ふくめて十匹くらいでいいかしら。

 焼き魚用、……あ。揚げ焼きにしたのを甘酢……南蛮漬け風に食べてもいいな。
 ハーブとホイル焼き……ホイルはないから、分厚い葉っぱとかで包み焼き? でもいいし。
 あーあー、干した身をほぐしておかゆとかに入れてもよさそう。

 広がる……夢が広がるよ!

「大事に食べるからね」

 植物同様、わたしたちの血となり肉となってくれる彼らに、きちんと向き合う。
 これも生きるために必要なんだ……。

「こんなものでいいか?」
「もう、バッチリ! さすがダオ」
「水の魔物と戦う時の参考になったな」

 さ、さすが元近衛騎士。
 目の付け所が違います。

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