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15 忘れかけていた収入源②

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「……騎士の、契約?」
「あれ、ちがうの……?」
「あーエボニー、これには色々とワケが──」

 しまった。
 魔女の事情に疎いダオに、今聞かせてはならない言葉ナンバーワンを聞かせてしまった。

「と、とりあえず! ね! 紹介させてよ。こちらは、ダオレン。ダオって呼んでる」
「……ダオだ。……ハニティに世話になってる」
「あ、はいっ! えと。エボニー、です。……薬師で、定期的にハニティから薬草を仕入れさせてもらって、ます」

 ちらちらと、こちらに助けを求めるようなエボニーの視線がいたい。
 分かる。分かるよ。
 いざ直視すると、美形すぎて眩しいよね。
 緊張するよね。分かる。

「ああ、なるほど」
「そうそう、決して不審者とかじゃないから!」
「もうっ、ハニティ先に言ってよね」
「それはごもっとも……」

 反省。ひとりに慣れ過ぎた弊害がここにも……!

「保存してるやつで必要なものがあったらと思って、家に入ってもらったの。ちょっと商売してくるね」
「……ああ、分かった」

 ダオには、乾燥が終わったレモンバーベナを細かくすり潰してもらっていた。
 クッキーに混ぜたいからね。

「なにかあれば、呼んでくれ」
「うん、そうするよ」

 食糧や植物の保存用にキッチンの横、窓で仕切らずに広めの空間を設けていて。そこにエボニーを案内する。
 魔法の氷で冷蔵保管する場所が、更に奥にある。
 わたしの氷はあんまり長持ちしないから、冷蔵の物はそんなに置かないし、適度に様子を見ないといけないんだけど。



「……本当に、騎士じゃないの?」
「違うよ。怪我をしてて、結界の魔力をたどってここに行き倒れてたの」

 厳密には怪我……とはいいがたいけど。
 まぁ、ダオに聞かずにトップシークレットの個人情報広めたら良くないよね。
 すまんエボニー。

「まぁ……。大変だったのね」
「なんか目的地あるみたいだし、体力がもどるまで居ていいよって言ったんだ」
「そっかぁ。……てっきり、裏で継承が決まったのかと」
「まだわたし、候補だからね~。一応」
「うん、……」

 あ、これは寂しがってるやつだな。

「今すぐ引っ越すとか、ないから。大丈夫」
「……そうだね、わかってる」

 実はエボニーも地の大魔女の候補のひとり。
 けど、彼女は水の魔法もある程度使える分、地を操る魔法がわたしほど得意ではない。
 一つの属性に全振りっていう魔女はそうそう居ないので、ほぼほぼわたしなんじゃないかって言われてる。
 シークイン様の、わたしの前世に気付いてそうだった意味深お言葉の件もあるし。

 お互いをよく知る隣人、その辺も互いに理解している。

「まぁ、もしかしたら超優秀な後輩が颯爽と現れるかもだしね~」
「ふふ、……そうだと……いいな」
「エボニー……」
「っあ、ジンジャーもらおうかな!」
「……うん」

 一人が好きで人見知り……とはいえ。
 歳も一緒、同じ修行中の魔女で、その過程で一定の付き合いがある。
 そんなエボニーという存在がいる分、わたしは恵まれていると思う。

 ……ダオは、祖国で。
 どうであったんだろうか。

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