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【六】目的

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 改まって向き合うと、レーヴはやはり恐ろしいほどの美貌の持ち主だ。
 そんなどうでも良いことすら思い浮かぶほど、ヴィッツとルーチェから解放されたことが清々しいのだろうか。

「私とラークは魔族だ。ある事情で、我が一族の星見ほしみに視てもらい、この国で聖女と呼ばれる者を探しにきていた」

「それは……、先程の話でなんとなく、察しましたわ」

 まるでルーチェはレーヴの故郷が魔族領のような言い方をしていた。
 それはすなわち、そういうことだ。

「先にラーク……、いや。別の者に探らせていたのだが、聖女の力どころか、素質すら見られなかったと。ラークを以ってしてもそう判断したのであれば私が赴く手はずだったが」

 そう言い切ると同時に、漆黒の瞳がわたくしを射抜いた。
 視線を逸らすことも許されないほど、その深い闇はわたくしを捉えていた。

「ルナ、聖女と呼ばれる者の近くに貴女が居たんだ」

「わ、わたくし?」

「そう。探し人は恐らく、貴女のことだったんだ」

「で、ですが。わたくしは光の先天属性は持ち合わせておりませんわ」

「いや、星見の託宣はこうだ。同胞を鼓舞する力を得意とし、煌めく白を持つ者。それが契約者たる者」

「白……?」

 先程も言っていた、色を示す言葉。それは何を意味するのだろう。

「簡単に言えば、生まれ持った色だな。例えば私やラークの黒髪、黒目は黒持ち。貴女のような金や銀など白に近しい色を持つ者を白持ちという」

「それが、何か……?」

「それで人を推し量ることはもちろん、しない。生まれ持った個性だ。ただ、魔力においてはその限りでは無い。例えば茶や赤は火属性、緑を持つ者は土。人が持つ魔力は、そうしたところに表れるんだ」

「! 初めて知りましたわ」

「ヒトの世では、伝わっていないのだろうな。魔力と密接な関係を持つ魔族領では、一般的に知られている」

「えっと、白と黒は何を表すのです?」

「白は光を、黒は闇を」

「えっ?」

「つまり貴女は、闇以外の全てを先天属性を兼ね備えていると言ってもいい。そもそも補助魔法のように、強化を図る魔法は光魔法が一般的だ。……貴女は独自の魔法を編み出しているようだが」

「えぇ、空との対話儀式でも、光とは出ませんでしたから……。自然の力を模すことで、自身を強化する魔法を研究しましたの」

「ヒトの世には四属性以上を測る術がないのではないか? だから、貴女の計測では明らかにならなかったと」

「そのようなことが、あるのかしら」

「それならば、合点がいくのだがな」

 まさか、そんなことがあるのか。
 自身について、知り得ないことがまだあるのだと思うと、何だかおかしな話だ。

「……では、ラークとレーヴは闇属性をお持ちなのですか?」

「ああ。僕が身軽なのは元々の身体能力がヒトと違うからだがな。見た目はヒトと大差ないだろうが、魔族には様々な種族がいる。ヒトというのは、自分と異なるモノを易々とは受け入れられないだろうからな」

「闇属性を持てるのは、魔族の中でもある一族だけ。これはヒトの間でも伝わっているだろう。しかし色持ちの概念が無かったのは幸いしたな。恐らく他にも黒持ちを見たことがあるだろう。ヒトが知らないだけで、我らの一部の者はヒトと共存している」

「そう、だったのですね。……あら? そういえばケニスンは」

 彼は漆黒とまではいかないが、黒と茶が混じった髪色をしていた。

「生まれはこちらなのだろうが、同胞の血縁者かもしれないな」

わたくしの住む場所ですのに、知らないことが沢山あったのですね……」

 ヒトは勝手に種族の違いから、魔族を恐ろしい者と位置付けようとしていたが、実際には身近な存在であり、また彼らはそんなヒトを見限る訳でもなかった。

「知らない、ということは恐ろしいことですね」

「これから知ればいい。……それで、私がこちらに来た目的なのだが」

 星見に視てもらったという件。
 聖女に、して欲しかったこと。

 それは一体、どんなことだというのか。

「これも知られてはいると思うが、魔族の中でも一際魔力が強い種族が闇をもって生まれる者であり、それ以外の者は陽の一族ひのいちぞくと呼ばれている。ヒトが魔族と呼ぶのは基本的に我々、よるの一族であろうが、魔王の代替わりというのはこの一族間で十年ごとに治世の権利を譲渡しあっているのだ」

「それが、今回の……?」

 魔物が活性化したきっかけ。
 恐らくこれが、原因だ。

「ああ、だがーー」

 そうレーヴが言おうとした時、彼の表情が僅かに揺れた。
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