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【二】王都のギルド

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『旅の目的の前に、そもそも私の実力を疑われていては、旅立つことも出来ん。先に互いの実力を把握しておこう』

 そう提言したレーヴに従い、冒険者ギルドへとやってきていた。

 勇者パーティーとして魔王討伐の依頼を受けたが、実際のところこれは王からの秘密裏な依頼で、民衆やギルドに露見している訳ではない。
 それは魔王や魔族がヒトにとってどういう存在か、という点に関わるのだが。

 そのため、ギルドに勇者パーティーご一行が来たとしても、『魔王討伐の任はいいのですか!?』という声は聞こえてこないのだ。


「おお、剣聖だ……。初めて見た」
「勇者ヴィッツ、相変わらずカッコ良いわぁ」
「あのフードの男……、誰だ?」


 ギルド内からは同業者たちの思い思いの声が聞こえてくる。
 ここ最近は王都以外の街で依頼を受けていたので、約一か月ぶりに王都のギルドに顔を出した。
 特に新入りのレーヴに視線が注目している。

 ヴィッツはギルド内の女性の目線を独占しているため、上機嫌だ。
 ルーチェはそれに反して何やら不機嫌である。

「お、シラー卿。相変わらずの冒険者人気ですねい」

「その呼び方は止めてと何度言えばいいのかしら? ケニスン」

 騎士から冒険者へと転ずる際に世話になったギルドの職員、ケニスン。
 元々は騎士として知り合ったため、その当時の呼び方が抜けないでいる。
 飄々としたどこか掴めない男だが、かつては自身も名を馳せた冒険者だ。

「王都から少し離れていたから、最近の魔物の様子を知りたいの。わたくし達に丁度いい討伐依頼はないかしら?」

「勇者パーティーの実力に見合う依頼、ねぇ。……ん? そういえば、一件手付かずがあったな」

「ランクSかしら?」

「いや、Aだったな」

 冒険者や依頼にはそれぞれランクという階級が割り当てられ、基本的に自身と同等のランクの依頼が受けれるという仕組みだ。

 わたくし達のパーティーはランクSを受けれはするが、実際のところ個人でランクSを持っているのはわたくしとラークのみ。

 ヴィッツとルーチェは基本パーティーでの活動としているため、個人ランクはAらしい。
 個人でAからSに上がるには昇格試験もあるため、受けていないだけかもしれないが。

「えーっと依頼書、依頼書……。あった、これだ。討伐対象はヘルティラノ、だな」

「炎の竜種ね」

「ヘルティラノ……!? おい、他はないのか?」

 ヴィッツは周りの冒険者に悟られないような小声で、ケニスンに問いかける。

「ヴィッツ、どうしたの?」

「ルナさんてば、分からないの? ヴィッツは炎の魔法剣が得意なんだから、色んな属性を操る魔術師の方が有利でしょ?」

「えーーーーっと」

 そもそもこれは勝負ではないのだ。
 互いの実力を互いに把握する為であり、ヴィッツが炎の魔法剣が得意であるなら、魔術師が詠唱しやすいような壁役の立ち回りを意識することだって出来る。

 パーティー全員で討伐すれば良い話だ。

「勇者殿はどうやら意味をはき違えているらしい」

「なんだと……!?」

「はぁ……、止めてちょうだい」

 レーヴとヴィッツの相性が良くなさそうなことは十分把握できる。

「ってもなぁ、今ある高ランクといやぁこれだしな」

「……ちっ。なら仕方ない。……ルーチェ、君のことは俺が守るよ」

「ヴィッツ!」

 始まった。

「えーーーー、……受けるってことでいいのかぃ?」

「え、ええ。お願いするわ」

「シラー卿も大変ですねぃ」

「彼らを宛がった貴方に、お咎めなしなだけ感謝してくださる?」

「おお、怖い怖い……」

 その場その場でパーティーを組むことはあったが、基本的にはソロで色々な依頼を受けた。
 丁度一年前に、ケニスンからパーティーの斡旋を受けたのが、前衛を欲していたヴィッツ、ルーチェ、賢者のパーティーだった。

 今思えば、前任の前衛の者も苦労していたのだろうが。

「と、ところでそちらの方は初めましてですねぇ」

 わざとらしく話を逸らしたケニスンの視線の先には、レーヴが居た。

「レーヴだ。世話になる」

 いつも通りではあるが、ヴィッツと会話するとき程の冷たさは感じられない。

「ラークも相変わらずかい? 頑張れよっ」

「……ふん」

 口数の多いとは言えないラークだが、その表情は少しばかり照れているようだ。

「それで、どこに向かえばいいのかしら?」

 ヘルティラノという魔物を知ってはいるが、討伐経験は過去に一度ほど。
 たまたま遭遇しただけなので、実際の生息地には明るくない。

「それが、この辺で見掛けられたのも最近でね。群れではないようだが……。一応地図に記しておこう」

 ケニスンに促されるまま、手持ちの地図を差し出し、王都より北西の地域に印しを施された。

「渓谷付近か……。飲み水もあるし、自身の炎で燃え広がる木々や草花も少ない。環境には適してるわね」

「移り住んだのか、何かに追われてきたのかは知らないが、鉢合わせた冒険者数人がケガをしている。討伐対象として挙がるのは仕方ないさ」

「そういう訳だから、ヴィッツ。貴方はレーヴが詠唱に集中できるよう、標的の意識を常に引付ける壁役として動いてちょうだい。実力というのは、何も派手な技を使えばいいという訳ではないのですから」

「っち。分かってるさ。一々うるさいな、ルナは」

「ヴィッツ気を付けてね、ケガしたらすぐ治すから」

「何を勘違いしているかは知らないが、聖女殿の実力も示してもらわねば困るな」

 レーヴは少しばかりきょとん、とした様子で言う。

「--わ、わたし!? 補助魔法が得意って聞いてるんでしょ? だったら、必要ないじゃない! もちろん怪我をしたら治癒魔法で治してあげるわよ」

 ルーチェは一方的にレーヴの実力だけ見れると思っていたようだが、確かに元々彼は実力を示そうと言った。
 何も間違いではない。

「治して……か。ふむ。余程、自身の能力に自信があるようだな。しかし、補助魔法ということであれば、治癒以外にもあるはず……。まさか、使えないということはあるまいな?」

「ば、バカにしないでよね! 分かったわよ、やればいいんでしょ!」

「期待しておこう」

「はぁ……」

 どうやらレーヴとルーチェも相性が良くはなさそうだった。

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