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第1章 風の大都市

台風一過

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昨日は朝に眠ってからみんなずっと起きる気配がなかったらしく、起きたのは次の日の朝だった。

「おはよ。」

テオと大蛇を連れた俺は食堂に入る。
俺の席には美味しそうな卵とソーセージ、そしてほかほかのパンだ。

「おはようございます!お兄さん。」

「おはよう、ジョンくん。」

どうやら俺が起きたことを聞いていたらしく、2人とも食べ始めるのを待っていてくれたようだ。
みんな揃ったので食事を始める。

「ごめんなさい。昨日パンフレットを作るって言ったけれど、その後ベッドに入ったら朝になってしまっていたのよ。」

申し訳なさそうに謝るプリオルに俺はとんでもない、という顔をする。

「プリオルがちゃんと休んでくれて良かったよ、俺たちも大爆睡だったもん。」

「そうですよお姉さま、お姉さまは働きすぎですから罪悪感を感じるのは間違いです。」

「それに俺が言いたかったのは俺たちの観光ツアーの企画を立てて欲しいってわけじゃなくて、プリオル自身が行きたいと思うところに一緒に行きたかったんだ。」

「私が。」

プリオルは丁寧な手つきで卵を口に運びながら黙り込む。

「お姉さまが思い浮かばないならまずはみんなでショッピングに行きませんか?まだまだ休みはあるのですし、せっかくの出会いの記念にお揃いのものが欲しいです!」

「確かに、子蛇ちゃんの外用の服も選んであげたいわね。」

「子蛇ちゃん?」

タルファちゃんが不思議そうに大蛇の方を見る。俺たちはタルファちゃんが眠った後のことを説明した。

「そんなことが、絵本のラストが現実になったなんて素敵なお話ですね。」

タルファちゃんは夢見がちな表情で大蛇を見つめる。

「フン、悪く無い表情だ。俺様の子分にしてやろうか?」

「子分になったらどうなるんですか?」

「俺様は子分には優しいからな、お前を害するものを全部破壊してやろう!それと……そうだなお前はエメラルディアの血筋じゃからな、魔法だって教えてやる。」

得意げな声で高らかに俺様の子分になれアピールをする大蛇。子分にしてはサービスいいな。

隣の俺にだけまぁ、子分なぞいたことないがな。と小声で付け足しているのが聞こえて思わずにっこりする。
名前を呼ばれる様な関係の相手を持とうとしなかった昔と比べれば良い傾向だ。

「わーい、なりますなります。えっと、子蛇……さん?」

子蛇はすっかりガキ大将みたいになっている。
見た目が同じ年くらいのちびっ子が意気投合しているのを見ると可愛らしくてつい顔が綻ぶ。まあ見た目だけなら俺もちびっ子なんだけどね。
前を向くとプリオルも俺と同じ様な顔をしていた。君はあっちに混ざっていいんだよ!?

「それは辞めろ。俺様には、その、まだ名前はないのだ。」

「え、そうなんですか?だったらブラッドはどうですか?ブラッドストーンという石からもじったものです。」

「石言葉は救済、勇気……だったかしら。これからのあなたへの戒めとしてはいいんじゃないかしら。」

「悪くはない、が。」

チラリとタルファちゃんを見る大蛇、もといブラッド。
そういや昨日儀式の為にタルファちゃんの血をとっていた話したんだよなぁ。
タルファちゃんは石から思い付いたとしても妙にその光景を連想させる名前だ。

「あっ、私過ぎたことはあんまり気にしないタイプなので!……やっぱだめですか?」

「子分がいいというなら良いじゃろう。」

うんうん、と頷くブラッド。
わいわいとした食事も終わり、ショッピングができる場所へと移動する。
今回行く場所は俺が今まで行った食べ物街や市場と違い、若い子向けの娯楽施設やファッションがメインの通りらしい。

「この様な低い目線から人の営みを見るのは初めてだ。」

「我もジョンに付き添う以前はほぼなかったな。どうだ?新鮮だろう。」

上位存在コンビが非常に興味深そうにきょろきょろしている。かわいい。

「お姉さま!見てくださいませ、この空色のワンピースはお姉さまにぴったりだわ。」

タルファがお店の中から、腰元にリボンのついた可愛らしい白と薄い水色のワンピースを掲げる。

「ちょっと丈短くないかしら。」

「それが流行りなんですってば。試着しましょ。」

「似合うと俺様は確信しているのじゃ!」

戸惑うプリオルを室に押し込むタルファちゃんとブラッド。
いつの間にか参戦しているブラッドもノリノリだ。

待っている間に俺も自分の服をいくつか選ぶ。

「テオは要らない?人型になる予定とかある?」

「要らん。人型になる気もさらさら無い。」


暫くしてパッとカーテンが開けられるとそこには年相応な雰囲気を纏ったプリオルがいた。
金髪もあいまって夏の青空の様な明るい少女に見える。
今までの落ち着いた色のドレスは、彼女を大人らしい為政者の子に見せていたが、こっちの方が俺はいいと思う。

「どうかしら。」

「我ながら最高だと思います!」

「右に同じくじゃ。」

2人仲良くビシッと手をあげてプリオルを褒めまくっている。

「うーん、こんなに明るい色の可愛い服は着ないから主観的にはよくわからないわ。ジョンくんと銀龍様はどう思う?」

「我にそういうのはわからぬ。」

「すごくいいと思うよ、せっかくだし新しいものに挑戦しようよ。」

「新しいもの、それもそうね。」

プリオルは意を決したようにそのまま会計へ向かう。小娘二人組はいつの間にか自分の服を選びに行っていたようで遠くではしゃいでるのが見えた。

そして少しして帰ってきた2人はお揃いの赤いエプロンドレスを着ていた。よく見るとブラちゃんの方が少しシュッとしたシルエットで、タルファちゃんはふんわりと裾が広がっている。

「2人もお揃いでいいね。」

俺あんまりファッション得意じゃないからすごい感想が浮かばないのは許して。

「憧れだったんですこういうの!」

「子分と似た衣装を着るのも悪くないのじゃ。」

店を出て再び通りを歩く。
美少女の行列に周りの人の目が釘付けになるが本人たちは目線に慣れているのか気にもしない。
仕方ない、代わりに可愛らしい俺がウインクのサービスをしておこう。

「さっきから何をやっておる。」

「民衆へのサービスだよ。」

テオが心底不可解だという顔で俺を見つめる。

「ほらほらテオもウインクして。」

「はぁ、こうか?」

ぎゅっと両目をを瞑るテオ。
そのかわいい光景に身悶えた俺は完全に周りから不審な目を向けられてしまうのだった。

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