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第1章 風の大都市

もふもふandもふもふor……

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拝啓、前世の妹。俺は今、天国にいます。
神はクソ!もふもふこそこの世の頂点だ。

そう、俺は今聖獣舎に来ている。

「スザンナちゃん、ジョンくんありがとね~聖獣の世話全然人手足りなくて。2人が来てくれて本当に良かった。」

「いえいえ俺もこんなもふもふをもふもふできて誠にもふもふです!」

「ジョンくん語彙力……」

聖獣舎のシスター曰く聖獣は風の魔力を多く持っていていざという時に共にこの都市を守ってくれる存在らしい。
俺の印象としては羽の生えた全身真っ白なサモエド犬だ。この子達はまだ子供で大きくなれば大人が余裕で乗れるサイズになるらしい。
聖獣と呼ばれているだけあってかなり特別扱いされている。俺ははじめ聖獣舎と聞いて牧場の室内を想像していたのだけど実際は超豪華な屋敷だった。教会の裏手の敷地全てがこの子達の
庭になっていて、のびのびころころと自由に過ごしている。

「わふわふ」 「ふんふん」「わんわん」

「んもーまた遊んでほしいのか?でもまずご飯食べような。」

部屋の掃除をしている間庭で聖獣の相手をしている俺はやたら彼らに好かれているのかずっともみくちゃにされている。
顔中舐められてべっちゃべちゃだし、地面に押し付けられてのっかかられてるせいで服も土まみれだけど、全身にもふもふを感じられてそんなこと全く気にならないくらい幸せだ。

匍匐前進でもふもふから抜け出してシスターさんが用意してくれていたご飯を聖獣達の元へ届ける。
聖獣達は一目散にご飯目掛けて飛びつき、がふがふと食べ始めた。
ふと、庭の隅でほかのもふもふより小さくて茶色いもふもふがしょぼんとした表情でうずくまっているのを見つけた。
俺はご飯を小さいお皿に取り分けてちび茶もふもふ(仮称)の元へ向かう。

「お前も食べよう。」

俺を見たちび茶はびっくりしたのかいくつか後ずさったが、俺がその場に座り込んでおとなしくしているのをしばらく観察すると、申し訳程度にぴょこっと生えている羽をぱたぱたと動かしよたよたと俺の手元へ近づいてくる。

「ぴ、ぴ、ぴ」

か弱い鳴き声でゆっくりゆっくりご飯を食べているちび茶を見ていると、どうしようもなく抱きしめたくなる気持ちになったけど、あまりにも弱々しくてぎゅっとしただけで潰れてしまいそうなので唇を噛んで我慢した。
かわりに小さいボールを転がして超ミニキャッチボールをして遊ぶことにした。

「そろそろ次の場所に行く時間よ。」

「はぁい!」

スザンナさんに呼ばれて急いで彼女のもとに向かおうとするが、縋るように俺を見つめるちび茶もふもふとの別れが名残惜しすぎて何度も振り返ってしまう。

「あの子と遊んでくれてありがとうね。小さくて他の子の遊びについていけないせいでいつもひとりぼっちだったから、君に構ってもらえてとても嬉しそうだったわ。良ければまた遊んであげてくれないかな?」

「ぜ……うちの猫が良いって言ったらまた遊びに行きますね。」

全力で行きたい!と言いたいところだが、テオが不機嫌になるところもあんまり見たくないんだ。でもでも、俺がいないうちはちび茶はひとりぼっちで……うう、もふもふともふもふの板挟みは辛いや。

「じゃあ次は聖歌隊、と言いたいところなんだけどごめんなさい、確認したら今日は練習日でも発表日でもないからメンバーが誰もいないみたいなの。代わりに旧聖堂に行かない?」

「旧聖堂?ガイドブックには大聖堂の事しか書いてなかった気がするけど。」

「それは当然よ。だって旧聖堂は聖エメラルディアの墓地でもあるのだもの。一般人は立ち入り禁止だから観光客が知る機会はないでしょうね。」

聖エメラルディアの眠る場所!?
一体どんなところなんだろう。きっとすごく特別で他より綺麗な装飾とかステンドグラスとかがあるのかな。

「もしかしてそこで昨日渡してくれた本の解説とかしてくれるんですか?」

「ええ、それに。」

「それに?」

「……それはついてからのお楽しみ。」

なにその引っ張り方めっちゃ気になるんですけど。
スザンナさんに着いていくといつもの中庭に出た。するとスザンナさんは突然中庭の中心にある噴水の中にずかずかと入り込む。

「確かここだったかな。」

そしてかちり、という音がしたがそれ以外に変化は特に見られない。

「なにが起こったんですか?」

「旧聖堂に入るスイッチを押したのよ。けど入口はここじゃないの、もうちょっと着いてきてね。」

やって来たのはこじんまりした部屋。部屋の中に更に扉があって人1人が入れそうなスペースで区切られている。あれは恐らく懺悔室だろうか?スザンナさんはそこの扉を開けて部屋の床を確認する。

「よし、開いた。私はここを閉めなきゃいけないからジョンくんが先に入って。」

スザンナさんが手招きした先は真っ暗な穴、マジでここはいるの?そことか全然見えないんだけど。

「大丈夫、普通の一本道の通路だから、進んでて良いからね。」

ライトを渡されながらそう言われて、恐る恐る穴の中に足を突っ込む。いざ飛び込んでみると中はひんやりとして暗いがごく一般の地下道だった。
しばらく歩いていると、後ろからスザンナさんが追いついてきた。

「もう着くのだけど、入り口の呪文は機密事項だからちょっと耳塞いでてもらえる?」
俺が大人しく両手を耳に当てたのを確認したスザンナは、木製で聖獣があしらわれた可愛らしい扉を前に呪文を唱える。

「       」

スザンナはノブを回して開いたことを確認すると、俺にもう手を外しても良いよというジェスチャーをした。

そして彼女は扉を開け、どうぞ。と俺をエスコートする。


中は小さいながらも普通の聖堂の作りをしていたが雰囲気があまりにも異様だ。
地下を真っ直ぐ通って来たはずなのにステンドグラスからは幻想的な光がさしている。
部屋中が何故か色とりどりの花に溢れており、椅子の上ではリスなどの小動物がじゃれて遊んでいる。

そして最も奇妙なのは中心にある棺らしきもの。
親戚の葬式を経験する前に自分が死んでしまったから普通の棺のカラーなんて知らないけど、目の前にある様な透明のガラスが棺として普通じゃないことは流石にわかる。

「素敵な所でしょ?お話しする前にまずはそこの中を見て。」

後ろのスザンナさんはいつも通り優しい声なのになんでだろう、すこし、テオとあった時の様な威圧感を感じる。
そもそも棺を覗くってなんだ。
聖エメラルディアはこの都市が発展する遥か前、魔道書店の店長の話を考えるなら1000年近く前の人間のはず。
骨の形に何か秘密があるとか?やだよ絵本に出てくる人の骨とか生で確認したくないよ。

憂鬱な気持ちになりながらも何故かスザンナさんの言葉に文句を言うこともできず、棺の中を覗く。


そこには、




プリオルと瓜二つの少女が静かに横たわっていた。







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