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第1章 風の大都市

昔話絵本 エメラルディアと悪いおおへび

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昔々のセレスは、大きなもりの中に小さな集落があっただけでした。

集落の中心には今のセレス城と同じ真っ白なお城がありましたが、今よりもずっとずーっと小さいお城でした。

そのお城にはエメラルディアという緑の目をしたおてんばなお姫さまがいて、毎日のように平民の格好をしては集落のみんなとおしゃべりをしたり、気まぐれにお仕事を手伝ったりしていました。

集落にはのんびりとした時間が流れ、いつもみんな笑顔で幸せそうでした。
しかしある日、そんな日々を揺るがす恐ろしいことが起こりました。

畑の作物が一夜にしてほとんど枯れてしまったのです。畑の土はガサガサで栄養も全く感じられませんでした。まるでそこだけ命をまるごと奪われてしまったかのようです。

慌て嘆く住民にエメラルディアはいつもと変わらない笑顔で安心してよ、と言って呪文を唱えました。

すると、白い光とともにあっという間に土はふかふかになって、枯れかけていた作物は何事もなかったかのようにみずみずしく葉を天に向けていました。

住民達は涙を流しながら大喜び。
既に枯れていた植物は治せないのごめんね。と謝るエメラルディアにみんな口々にいいんだよ、ありがとう。とお礼を言います。

そんな喜びも束の間、突然当たりが闇に覆われ、エメラルディア達の前に集落ごと丸呑みできそうなおおきくて真っ黒なへびが現れました。へびは不機嫌そうにきりきりと怒鳴りつけます。

せっかくこの地の生命力を奪ったのにお前達は絶望するどころか元に戻してしまった。このような屈辱は許されぬ、みんなまとめて食ってしまおう。

地をぬるぬると這うような恐ろしい声と言葉に住民は恐怖でその場から動けなくなってしまいました。でも、1人だけ希望を胸に灯して堂々とへびの前に立った少女がいました。

エメラルディアです。

彼女が再び呪文を唱えるとなんとへびの周りで風がぐるぐると渦を巻き始めたではありませんか。

エメラルディアは大きく手を広げてへびに言い放ちます。

ここは私の集落よ、絶対に誰一人貴方に食べさせないわ。わるいへびさん、あっちへ行って。

そうして巨大な竜巻に巻き込まれた蛇はぐるぐると目を回して動かなくなってしまいました。

エメラルディアはへびに近づいて封印の魔法をかけます。

姫さま、このへびは殺さないのですか?

この子は確かに悪いへびさんだけど、いつかはいい子になれる日が来るかもしれないでしょう?だからそれまで森で眠っていてもらいましょう。

住民たちはエメラルディアの慈悲深さに感動して、彼女が亡くなった後もこの功績が世界から忘れられないように、集落で最も貴き聖女エメラルディアとして祀ることにしました。

聖エメラルディア教会にはおてんばなお姫さまが静かに眠っています。彼女はきっと今でもわたしたちを優しく見守ってくれているでしょう。




















すごく……模範的な優しさと勇気を伝えるストーリーだった。歴史にしてはあまりにも都合のいい物語になっているからきっとそこそこ脚色されているんだろうな。
というか言葉がちょくちょく難しくて子供の口だと詰まりまくったんだけど、これ本当に子供向けの絵本なのか?

とりあえず明日スザンナに質問する為にいくつか疑問をピックアップして今日は寝る事にした。

その夜、金髪で緑の目をした少女が倒れた大蛇に自分の血を垂らしているという奇妙な夢を見た。そしてその場面は急にぐるりと変わり、何人かに囲まれた、同じく金髪だがこちらはとても幼い少女が血を垂れ流している様子に切り替わる。その血が垂れた先は真っ黒でよく見えないが、薄明かりの反射か、鱗の様なナニカがキラリと光ったことだけは印象に残っていた。
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