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大賢者の弟子

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 衛兵に偽造ポーションの製造者として捕まった僕は馬車の中で尋問を受けていた。
 馬車といってもただの馬車ではない。
 外見こそ普通の馬車だが、内側は乗客が逃げださないよう壁に鉄格子が仕込まれた犯罪者搬送用の牢馬車である。

 捕まった僕が町を出る時にメアリーさんが泣きながら必死に励ましてくれた。

「お父さんに頼んで、絶対に無実を証明して助け出しますから、絶対に諦めないで下さい!」

 もちろん、尋問に負けて挫けるような僕じゃない。
 散々ボーゲンやワーレン元町長に嫌がらせを受けてきたので、尋問ぐらいで心が折れてありもしない犯行を自白したりしない。
 むしろ、ふてぶてしさを身に着けた僕は尋問管を脅迫する。
 錬金術ギルド本部の幹部である尋問管が自白剤を使い尋問しようとしてきたが、逆に脅してやった。

「武闘派の町長の娘の婿となる僕に自白剤を使用して、後に無実が証明されたらどうなるかわかっててするんだよね?」

 子どもなのに凄みのある声を出すと、尋問管は怯え言葉のみの尋問となった。

「なぜに雑草からポーションを作った?」
「薬草の使用を禁止されたからだ」

「雑草からポーションを作ってなんの悪だくみを企《たくら》んでいたんだ?」
「悪だくみなんて考えていない。ただの金儲けだ」

 嘘を見破る審判の宝珠は青。
 全てが真実と示していた。
 だって、嘘を吐くような後ろめたいことはしてないしね。

 王都までの三日間の道中のうち、2日目の夕方になると飛竜がやってきた。
 クラウスさんだ。

「待たせたな。話の行き違いがあったみたいで誤解を解いてきたぞ」

 新たなエリクサーの生産者が現れたという、ギルドの最重要機密事項のせいか現場に細かい説明が出来なかったらしく、ボーゲンが出した偽造ポーションの通報とギルド幹部から出た僕への召喚令がごっちゃになっていたらしい。
 そのおかげで『偽造ポーションの生産者である僕がギルドに召喚された』という指示が『偽造ポーションの生産者を確保しろ』から『逮捕しろ』にすげ変わってしまったらしい。
 無罪が証明された僕。
 審問官だったギルド幹部は自白剤を使ってたらどんな目にあってたんだろう?と青ざめていた。

 王都につくと僕は監獄ではなく、錬金術ギルドの貴族用面会室に通された。
 見たことのない金ピカに輝く豪華なインテリアが多く、それだけで威圧されてしまう。

 面会室で出迎えてくれたのは錬金術ギルド長ガインズと大賢者マーリンだった。
 ギルド長ガインズはすぐに非礼を詫びたことで、僕は今回の誤逮捕の件は水に流すことにした。

「ほうほうほう、君が噂のアーキ君か。君と一度会ってみたかった」

 大賢者マーリンといえばこの国で王よりも偉い四賢者の一人だ。
 マーリンは長いあごひげを撫でつけて話を続ける。

「まあ、話が長くなってもダルかろう。要件を率直に話したい。君をわしの弟子にしたい」

 それを聞いた周りの人たちはざわめく。
 特にギルド長ガインズは声を上げて反対した。

「マーリン様、なんでこんな実績もなくどこの馬の骨かわからない少年を弟子にするんですか!」
「そのどこの馬の骨かわからない少年はエリクサーを作れるのだが、ガインズ君にも作れるのかね?」
「それは……」

 大賢者マーリンの後継者を狙っていたギルド長ガインズは何も言えなくなった。
 僕が大賢者マーリンの弟子となると、困ったことが起こる。
 弟子となるのだから大賢者マーリンの秘境になる家へと移り住まないといけない。
 メアリーさんと町で住むことは出来なくなり、僕の父さんの残した錬金術ギルドも空き家となり心配だ。
 僕が断ろうとすると、クラウスさんが大声で返事をした。

「ぜひともアーキを弟子にしてください」
「うむ」

 大賢者マーリンは満足げにうなづく。

「えっ?」

 なんでクラウスさんが弟子になると答えるの?
 僕は断るつもりだったんだけど。

「断ろうと思ったのになんで受けちゃうんです!」
「そりゃ、大賢者の弟子になるなんて一生に一度あるかないかのチャンスだからな!」

 僕から娘を取り返す最後のチャンスと悟ったクラウスさんは蹴り出すが如く、僕を賢者マーリンの弟子へと申し出る。
 そのチャンスって僕が大賢者に弟子になるよりも、娘を取り返すチャンスなんじゃないの?

「僕が居なくなったらギルドはどうするんです? それにメアリーさんは?」
「ギルドはリサとアンナで回しとくから心配するな。メアリーもアーキとの婚約解消して新しい婿を探しとくから心配しなくていい。まあメアリーの結婚相手は俺がなってもいいな!」

 クラウスさんが自分の娘かわいさに倫理観完全無視の近親婚的な無茶苦茶なことを言い出し始めた。
 モタモタして弟子になる話が反故にされると困るので僕を置いて早々に帰路に就くクラウスさん。
 娘の婚約を破棄できたのがよっぽど嬉しかったのか、年甲斐もなくスキップをして帰っていったのがムカつく。

 こうして僕の意思は無視され、大賢者マーリンの弟子となった。
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