君が僕を見つけるまで。

いちの瀬

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10話

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餌付け


やばいやばい!

マジで遅れる!

嶺が通っている保育園は職場からも家からも結構遠い。

高嶺の家も俺の家周辺も高級住宅街だから、幼稚園はたくさんあるけど、お受験?とかしないといけないようなところばっかりだったし、母親が分からないって言うのもあって、家周辺の保育園とか幼稚園には預けさせて貰えなかった。

せめて嶺が3歳になるまでは自分で育てよう。と思っていたから、随分中途半端に保育園に入ることになってしまった。

そんなこんなで保育園不足なんかも相まって、空いていた保育園が今通っているところしかなかった。

俺は今、車を持っていない。
ついでに免許ももってない。昔は高嶺がずっと運転してたから、任せっきりだった。

だけど、そろそろ必要かな。
保育園は遠いし。

でも、今の保育園は先生もいい人達だし、嶺のことを母親が居なくても大丈夫って言ってくれたし、担任の先生はよく相談に乗ってくれるし、それに、なによりも嶺が楽しそうだ。

昔、断られた幼稚園に最初の見学に行ったときに見せた表情と、今の保育園に見学に行った時の表情とでは全く違った。

今の保育園の方が、楽しそうだった。

保育園には瞬君っていうお友達も出来たみたいで、毎日保育園に行きたがる。

土日はないよっていっても、瞬君に早く会いたいみたい。

それって…………まさかね。


瞬君のお母さんは、とても良い人だ。響子さんって言って、真莉さんみたいに、すっごく美人って訳じゃないけど(あれ、失礼だったかな。)なんていうの、内側から滲み出るオーラってやつ?がすっごく澄んでいる気がする。

優しい人で、この前一緒にご飯を食べに行った。響子さんも俺と一緒で母子家庭らしい。

去り際に、「片親だけど、一緒に助け合って行きましょうね。」って言ってくれた。

でも、響子さんには彼氏がいて、一緒に住んでるんだって。
瞬が言ってたって嶺が言ってた。
その人も響子さんみたいに優しい人らしい。

でも、お酒を飲むと怒鳴るんだって。

ある日瞬君が泣いてたから聞いたら、新しいお父さんに怒られたって言ってたみたいだ。

心配だな。


とにかく今は早く、そして無事に嶺を迎えなければ……!

そう思って急いだら結構早く着いた。

よかったぁ。

「嶺!」

「あれ?お父さん?もっと遅くても良かったのに。」

あれ?あれれ?

せっかく急いで来たのに、もっと遅くても良かったのにってどういうことだよ!

「へ?なんで?」

「今ね、瞬と結婚の約束してたんだよ!お父さん邪魔だからまってて!」

ん?結婚の約束?やっぱり…嶺は瞬君のことが好きなのかな???

って邪魔って言われた。

酷い。

一人でうなだれている俺を尻目に嶺は告白?を続けている。

そんな嶺を見ていると、急に後ろからポンポンっと肩を叩かれた。

「んぎゃっ」

うわ、変な声でた。
後ろを振り返らなくてもわかる。絶対笑ってる。

こんなことなら、昨日の夜の読み聞かせを怖いもの特集にしなければ良かった。
結局嶺はケタケタ笑って、んなことあるわけないじゃん!パパなんで信じてんのー?って俺のことをバカにしてくるし…。

振り返ると、案の定爆笑している担任の先生の望月さんがいた。

「あの?」

「……っ!」

「先生?」

「あっはははは!」

「先生!?」

なかなか笑い止んでくれない先生を見て、悲しくなる。

「すっすいませ…っ!笑いがっ止まらない!んぎゃってんぎゃって!!」

「先生?そろそろ笑い止んでください。」

「す、すいませんでした。ごめんなさい、秋城さん。」

保育園で秋城さんって言われる理由は、高嶺のせいだ。なかなか離婚届けを出してくれないから、まだ俺と嶺は秋城のままだ。

「……。いいですよ。僕は向こうで待ってるんで。」

「そっそんな怒んないでくださいよぉ!ごめんなさいってばぁ~!」

「嘘です。怒ってませんよ。」

「そうですか。よかった…。
嶺くーん!パパ迎えに来たから、早く用意してー!」

「はーい!」

うむうむ。きちんと返事は出来てるの。上出来じゃ。流石俺の息子。

「パパ!用意出来たよー!帰ろ!」

「うん。帰ろっか。今日は嶺の好きな油揚げの味噌汁にしようと思うんだけど…。」

「ほんと!?やったー!!ありがとパパ!大好き!」

うむ。これで良いのじゃ。

息子の餌付けに成功したことを密かに嬉しく思う父であった。



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