弟は僕の名前を知らないらしい。

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学校が終わって家に帰ってくると、先に帰ってきたらしくソファでくつろぐ悠太のとなりにちょこんと座っている可愛い顔した男の子。



え…だれ？



「…悠太。だれだよその男。浮気かよっ！！！お前サイテーだな！ふざけんなぁ！」



ちょっと演技してみた。

さてさて何気に役者な悠太くん。

どう出るか？



「お、俺は…そんなつもりじゃなかったっ！

こいつが勝手に…俺は浮気なんてしてねーよ！」



ほぉ、しらばっくれ系ね。

まぁまぁいいんじゃないの？



「2人の…家に男連れ込んでる時点でもうアウトだよ…。僕が傷つかないとでも思った？」



2人にしかわからない空気にオロオロしている男の子がちょっとかわいそうになってきたからとりあえず悠太に中止の合図を伝える。



「ん"ん"っ！で、結局君だれなの？」



「雪、こいつだよ。ピザんときにお前の弟って名乗ってたやつ。」



え…？？？

どういうこと？



「俺言ったじゃんお前の弟じゃねーやつがいるって、それこいつ。」



え…？？？

理解できないんですが。



「え、でもさ、僕がチャイム出たときさ、たしかに弟くんだったよ？」



うん。確かにカメラに映ってたのはあの幸村裕一だった。

うん。間違いないよね。しっかり見たもん僕。



「なんかさ～、なんだっけ？さっき聞いたんだけど忘れた」



「あの…それは、僕があの、裕一くんの写真、カメラにかざして、あの、悠太先輩に会いたくて、ずっと、好きで、僕だってこんなので上手くいくと思わなくて、その、幸村先輩が裕一くんのこと苦手に思ってるの、知ってて、だから、」



彼の話は途切れ途切れで的を得てなかったけど、とりあえずわかった。気がする。



「んーと、つまり弟くんの写真見せれば運良ければ勘違いして悠太が僕の代わりに出て、君は悠太に会えて、で運悪くてもなんだこいつってなってまぁ悠太に会えたかと…？ってこと？」



よくわかんないかも。



え。頭よくね？なんか江戸川◯歩みたい。

江戸川乱◯読んだことないけど。

少しでもなく結構回りくどい気がするけど。

まぁ学校だと階違うし会える確率的には部屋のが高いんだろうな。

いやそもそもなんでこの子うちの部屋知ってんだ。



「え、結局はさ、僕巻き込まれただけじゃん。なんで2人の痴話喧嘩に僕が巻き込まれなきゃなんないの。」



「いやなんで俺とこいつが両想いみたいになってんの。俺も巻き込まれなんだけど。」



「えー、いっそのことさ、君たち付き合っちゃえよ。そしたら僕だって悠太宛のラブレタートイレ中に貰うことだってなくなるのに。」



僕と悠太の会話を聞きながら赤くなったり青くなったり、あわあわしている向かいの彼。



「ねぇ、そう思わない？

あ、そういえばさ、名前、聞いてなかった。

君なんていうの？」



「あ、僕粕川透（かすかわとおる）と言います。よろしくおねがいします」



そう言って礼儀正しく頭を下げられたけど、正直なにをよろしくされたかも理解してないぼくたち。



「で？どうすんの、付き合うの」



「付き合わねーよ！おっまえ、ふざけんなって、」



そんなに拒絶しなくたっていいじゃん。

可哀想だよ。





あれから、一言泣きながら「ごめんなさい」と言って帰っていった彼を見て、そんな悪いことしてないでしょって逆に罪悪感に駆られた僕と悠太。



とりあえず今日も元気に餃子を食べます。

ちょっと食欲湧かなくてお代わりはしなかった。





冷凍庫の餃子の数:残り8パック