弟は僕の名前を知らないらしい。

いちの瀬

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「お!は!よ!おーきーてー!!!」

「おはよぉぉ…ふわぁぁぁぁ…くぁ、」

寝起きの悠汰に、完全に登校準備を済ませた僕が体を揺すりながら声をかける。

「悠汰?おはよ。今日の朝ご飯担当悠汰だよ。とりあえず今日は作ったけどもう次はないからね!」

そう告げると、完全にやっちまった。のポーズで悠汰がベッドの上で固まる。

「ごめ、完全ど忘れモードだったわ。」
「だと思った。もう、悠汰のことなんてすぐわかるんだからね。まぁいいよ。」

「うわぁぁぁ、雪実は天使なんじゃね!!?まじかよー、友達が天使とか自慢だわ。」
「てゆうか悠汰今まで朝ご飯用意したの何回かわかってる?」

「100回くらい?」

「ぶっぶー!!そんなわけないでしょ!100回も用意したことないでしょ!ってそんなことはいまはどうでもいいの!早く起きて!学校遅刻する!」

「え?でも結構してない?2か月に一回くらいしてない?」
「それは結構してるって言わないから!もういいよ!遅れるから早く洗面所で顔洗って!歯磨いて!制服着替えて!用意してあるから!」

急いでパジャマを脱がしていると、急に上半身裸の悠汰がほっぺをむぎゅっとつねってきた。

「ひゅーひゃ!あにひへんほ!はやふゅひゅんひひへ!!」
(ゆーや!なにしてんの!早く準備して!!)

むむ、しゃべりずらい。

「わかったよー、あと10分待ってて。10分で全部終わらすから。」

はぁ、やっとやる気になってくれたか…
悠汰は毎朝やる気になるまでが長くて毎日僕は苦労している。
やる気の波も激しすぎるし、このまま大人になったらどうなるのか心配で仕方ない。

「ちなみに悠汰忘れてると思うけど今日入学式だからきちんとネクタイ締めてね!
もう一番上の先輩になるんだから新入生にいいとこ見せないと!」

「雪がそんなに張り切ってるとこ悪いけど中等部も初等部もあるんだからいつでも先輩だっただろ?俺的には今更なに言ってんだよ。ってかんじ。」

この世で1番先輩らしくない奴がなに言ってんだか。
呆れたもんだ。

「そだ!入学式のお祝いに今日、夕食マルセで食わん?な!そーしよ!俺おごるから!」

どうせ朝食のかわりに夕食を作るのが嫌になったんだろうけど、まぁ悠汰のおごりならいっかな。

マルセは学園内にあるファミレスだ。
もっと金持ちの生徒はマルセなんてファミレスには行かないけど、安いし美味しいし、特待で入った子や僕たち庶民には結構人気だ。
それでもそういう人たちは普段外食なんてしないから常に空いていて庶民派僕たちにはぴったり。
こういう時、悠汰と育ってよかったなぁ、っ実感するんだよなぁ…

「なんのお祝いだよ。僕たちが新入生のお祝いしてどうすんの。まあいいけどさ。」

「よっしゃー、夕食作んのめんどくさくて嫌いなんだよなー」

やっぱり。こいつは節約という言葉を知らないらしい。
僕とおなじ庶民のくせに。生意気な。

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