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1 猫目令嬢はピンチです

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  私は今、黒髪美丈夫の腕の中にいる。
  年若い少女であるなら頬を染め、下ろしてよ!なんて言うところだが、それは叶うまい。
  なんて言ったって私ベイビーですから…

  ぶっちゃけ私自身も付いていけてない状況なので、混乱しまくりだけど、ここに至るまでの経緯をお話しましょう!

  


  目が覚めた時、そこはもう私の知っている世界ではなかった。
 
  「私生きてる……」

 確か高校の帰り道、携帯を見ながら電車を待っていると、弟の彼女と遭遇して、お前が弟に色目をつかってる浮気女かとか、弟が自分と別れようとするのはお前がいるからだとか、とんと見当違いな暴言を散々吐かれた。

 私は弟と仲が良く、2人で彼方此方に遊びに行ったりしてたから、どこかで私たちを見かけた彼女が勘違いしたのだと解釈する。
 悔しい事に、弟は女の子からモテモテだったので、こういうのは何度かあったから慣れていた。
 まぁまぁと、いつものように誤解を解こうとしたけれど、女の子は聞く耳も持たず、そのまま私を線路に突き落とした。
 すぐそこまで迫る電車が目に飛び込む。
 あ……終わった……
 走馬灯が走る間もなく、死を決意したんだけれど……

それがどうしてこんな事に……え?生き返った??

  仰天して飛び上がりたいところだったけど、身体は思うように動かなかった。
  取り敢えず手を思いっ切り伸ばしてみると違和感に気づいた。

  あれ?わたし手、短くない?

  一体全体どうしてと、辺りを目でぐるりと見渡して、自分が粗末な籠に入っている事と、よく分からん不気味な森の中にいる事が分かった。上空を見上げれば翼の大きな、ドラゴン?が飛んでる……?

   ふと頭をよぎったのは、異世界転生。
 その手の小説は読み込んでいたから、そりゃ血が湧き上がりましたよ。

  この世界には魔法とかあるわけ!?もしそうだとしたら最高じゃん!死にたかったわけじゃないけど、神様ありがとう御座います!!

  しかし喜んだのもつかの間、もう一度状況確認して冷静になった。

  もし転生していたとしてもこの状況は良くないんじゃない!?私完全に捨て子なんじゃない??

  薄暗い森で動くこともままならぬ赤子が一人……

  恰好の餌食!!! 取り敢えず助けを呼ばないと!!!

  「おぎゃぁぁぁぁああああ!!」

  あ、助けてって叫べないんだった。
 これじゃあ自分はここに居るから、喰ってくれって言ってるようなもん…

  あたふたしていると、少し遠くの草木がガサリと揺れて、赤色の鱗に覆われた……
 さ、サラマンダー???

  「キシャァァアアアアアアア!!」

  でっ、でたぁぁあーーーーー!!死ぬ死ぬ、死んじゃうぅぅ!!転生して即死ぬとかどゆこと!無理、バカ、アホ、マヌケ!!来ないデェええ!

  ソイツは尾を左右に揺らし涎を垂らしながら、私の方に向かって這ってきた。
  その頭でっかちな顔が徐々に近づき、鋭い牙が光る大きな口を開け───

  詰んだな…今世グッバイ。

  グッと目を閉じて、体を丸めて、容赦なく襲ってくるであろう痛みを待ち受ける……

 しかしどうした事か、来るはずの激痛が全くない。
 おっかしいなぁ……

  身体の力が一気に抜けた途端、耳をつんざく衝撃音と、自分の入ってる籠がボンっと一度跳ね上がった。

  な、何事っ……!?サラマンダーちゃんが倒された……?一体誰が?サラマンダーより強いやつ?もしかして次は私を……

  思考がぐるぐると巡り、恐ろしくなり粗相しかける。

  もしかしたらと、来るかもしれない衝撃に身構えているとヒョイっと身体が宙に浮いた。

  「小汚い赤子だな…」

  ひ、人の声!!

  驚きと歓喜で小汚いなんて言われてることも耳に入らずパッと瞼を開いた。
  
  んまぁ!!び、美人さん!

  快晴を思わせる透き通った青色の瞳に、夜空を写した艶やかで、長い黒髪を腰近くで軽く結わえた色気むんむんの男。

  私の視界いっぱいに人間離れした美貌のドアップが映り込み、ほへぇとダラシなくも口を開けてしまう。

  「はぁ、何故こんな森に赤ん坊が……捨てるにしても場所があるだろう」

  色男は頭をがしがしと搔きまわすと呆れたようにして私を睨んだ。

  いやぁ、美人は睨んでも様になるなぁ……なんて呑気に手足をだらんとさせて……
 ってなんて持ち方してんよ!いくら美しくても赤ん坊にその持ち方は許されんぞ!

  信じられないことに、男は私の首根っこをむんずと摘み上げていた。

 許すまじ。これは幾ら何でも赤子に対して鬼畜すぎるだろう。

   ねぇ!と反抗しようとするも男は空にポイっと私を投げ捨てた。
 重要なことなのでもう一度言う。
 私を投げ捨てたのだ!ぽいっとな!!

  「おんぎゃあ!!」

  思わず叫んで、着地の衝撃を待ち構えるように体を丸め備えた。
 しかし、浮遊感の途中、身体が地面につく前にピタッと空で止まった。

  なんと言うことか。私は浮いていたのです。

  「お、おぎゃ…」

  もう何が何だかで、パッと男の方を見ると男は片方の口角をあげてニヤリと笑っていた。

  やだ、キモい…

  「面白い、無意識に防御魔法を使えるとは中々に見込みがありそうではないか」

 男はふむと考え込むと、見殺しにするには勿体ないかもと不穏な言葉を吐いて私に向き直った。

  色々言いたいことはある。あるのだが、一つの単語が気になってそれどころではなかった。

  魔法……やっぱりあるんだ、この世界に!

  や、やばい、さっきとは別の意味でドキドキして死にそう。

  あれこれと想像を膨らませ内心ニヤニヤしていると、油断した。
 またもや首根っこが、グイッと摘み上げられた。

  もしかして首根っこ摘んだまま連れてく気?なんて乱暴な!鬼畜野郎!

 あまりの乱暴ぶりに怒りが沸き上がった。
 こうなったら思いっきり暴れてやろうと手を振り上げたが、宙に浮いていた手足がすぽっと男の腕の中におさまり、一気に溜飲が下がった。

  く、くるしゅうないわい!!初めからその様に扱えば良いものを!大事に抱えい!

  意外にも優しく抱えられて、これまでの乱暴さが嘘のようである。
 思わず殿様口調になってしまいました。

  そうよ、可愛い可愛い赤子を乱暴に扱う人間なんで居るはずないじゃない。赤ちゃんは宝なんだから。
 うんうんと頷いたけど、そういえば私、誰かに捨てられて森の中にいたのでは……?と思い返す。
 ま、まぁ、それは置いとくとして、赤ちゃんなんて見たら猫可愛がりしたくなるもんでしょ!きっとこの人もそのうちデレデレし始めるはずよ。

  一安心一安心と、顔を緩ませていると色男が私に目を合わせてきた。 

  なに?ベイビーのぷにぷにキュートな愛らしさに惚れた?なんだったら少しだけ撫でてもいいよの?

  「泣いたら殺すぞ、私は子供が嫌いなんだからな」

  はい、ぷっちーーん、なにコイツなにコイツ!??最低!腐れ外道!!

  
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