1 / 2
1 八乙女桜子でございます
しおりを挟む私が前世の記憶を思い出したのは可愛い可愛い妹(ヒロイン)と出会った瞬間だ。
頭に雷が落ちたかのような衝撃が走って、たくさんの情報が脳に流れてくるものだから、私はパニック状態になりその場で意識を失ってしまった。
次に目を覚ましたのは三日ほど経ってから。そしてわたしは目を開けた際にも驚かされることになる。なにせ鼻と鼻とが触れ合う距離に妹の顔がドアップであったからだ。
「…おはようございます」
「お、おはよう…」
いや、近いのだけれど…てか、なんで私の部屋に…ほぼ初対面のはずなのに
私が目線をキョロキョロさせていると、妹は私から顔を遠とおざけ一礼し、部屋を出て行ってしまった。
あまりにあっさりし過ぎて今の距離は何だったのかと首を傾げる。
寝ぼけ眼を擦っていると部屋のドアが開かれた。
「お嬢様!目覚めました!?よかった。今、妹君がすれ違いざまに、あなたの目が覚めたと一言かけてくれて──」
「春雄!なんであの子が私の部屋にいるのよ!!」
「え?駄目でした?」
「だ、ダメとかじゃなくて、ちょっと意味がわかんないじゃない?私の部屋に来る理由なんてないし…その前に無断で入ってきてるじゃない!」
「無断じゃなくて、私が入れたんですよー。お嬢様の部屋の前で彼女、うろちょろしていたもんだから、入るか聞いたら頷いたんで」
「あんたの仕業!?へんな寝顔見られたじゃない!」
「貴女もおかしなところ気にしますねぇ」
このおバカなまいき従者!!乙女をなんだと思ってるのよ!
私はふつふつと湧いてくる怒りを抑えようと一つ溜息をついた。少し冷静さを取り戻すと、重大な出来事が自分の身に起こっていることを思い出し、動揺でベッドから転がり落ちて、私を助け起こそうとした春雄の胸倉を掴んだ。
「はるお!聞きなさい!!私、前世の記憶を思い出したようなの!!」
「近い近い近い近い近い!お嬢様、ちょっと離れてください!」
なにげ耳を赤くする春雄の事は気にせず、より距離を詰めた。
「だから、前世の記憶が!」
「取り敢えず落ち着いて下さい、お願いですから!!オレの心臓が死にます!」
私より春雄がパニックになっている状況に冷静な心を少し取り戻した。
人間、自分より慌てる人を見るとどうしてか冷静になれるものだ…
私は自分の身体を春雄の身体におしつけているこの体勢は確かにマズイと、襟を掴んでいた手をパッと離し、春雄から距離をとった。
「…ゴホン、恥じらいのないお嬢様?変な夢でも見たんですか?」
その言葉にムッとする。私は決して恥じらいがないわけではないし、変な夢を見たわけでもないのだから。
「さっきから言ってるじゃない。前世の記憶を思い出したと」
私がそう言うと、春雄は馬鹿にしたようにハッと口角を上げた。
「なによその馬鹿にしたような顔は。死にたいの?分かったわ。貴方は殉職したとお父様に言っておきますからここで死になさい」
「馬鹿になんてしてませんよー。一応話は聞きますから、終わったら一緒に病院行きましょうね」
やっぱり馬鹿にしてる春雄に、これ以上信じろなんて言えず、私は取り敢えず話だけは聞いてもらおうと、椅子をすすめ口を開いた。
まずここは私が前世で読んでいた「純愛ラヴァーズ」通称、純ラヴァの世界なのだと…思う?というのも、今の私が意識として強いから、前世の私と言うのも完全に他人感覚なのだ。
どの様に死んだとか、何歳だったとかも分からない。分かっているのは前世の私がこの本を読んでいたと言う事実だけ。
主人公は私の妹である八乙女 林檎で、内容はご都合主義もいい所の乙女ゲームのような学園恋愛小説。
八乙女林檎が度重なる逆境に揉まれながらもヒーロー達を虜に手玉に学園を謳歌するストーリーである。
そして私、八乙女 桜子のは言わずもがな妹をいじめる高飛車、性悪悪役令嬢ポジション
おお、神よ、なんと無慈悲な。
私がこの様に嘆くのは仕方のない事。なんせ、この物語の途中で八乙女桜子は死ぬ。前世の私がネタバレサイトで確認したから多分間違いない。
じつは全五巻まで出ていた純ラヴァだけど、私は三巻までしか読んでいないのだ。途中で飽きて読むのやめたっぽいんだよなぁ…心の底から読んどけば良かったと今になって後悔してる。
だが、四か五巻の間で私、桜子は死ぬことは分かっている。
なんとか死亡回避したい所だ。で、何に気を付ければいいのか。そんなの一つ、妹を虐めなければいいのだ。多分。
私が死んだ原因って妹虐めが大きく関わってる気がするのよね。桜子殺しときゃ、読者スッキリするんだろ?的に作者に殺された気がしてならない。
桜子が林檎を虐めた理由は父の愛情が突然現れた義理妹の林檎に向いていたことが最大の理由…妹と出会ったことで色々と汚い大人の事情を知る事となった桜子はそのうち…
私は色々と要約して春雄に話した。話しているうちに、本の内容を先駆けて知った事で父がどうして愛情が薄いのかとか、これから死ぬかもしれない事を思い出してポロリポロリと涙が溢れ出てしまい、しっかり彼の耳に届いたのか分からないが一生懸命伝えた。
私が俯きがちで話し終えるとそっと頭に大きな手のひらが置かれた。その手はゆっくりと優しく動き、髪を優しく撫でた。
「嘘、の様な話ですけど、お嬢様がここまで取り乱して話す事だから、信じずにはいられませんね…」
私はその言葉に安心するとともに、自分が取り乱していると言う事実にとたん恥ずかしくなり、頭に置かれた春雄の手を払いのけ、腕で顔をおおい隠した。
「春雄、命令よ。水を持ってきてちょうだい」
「嫌です、と言ったら?」
「貴方、主人の命令が聞けないの?」
泣き顔を見られるのが恥ずかしいから早く部屋から出て行って欲しいのに春雄はなかなか出ていかない。私がもう一度命令!と指示すると春雄は諦めてスクリと立ち上がった。
てか、私、主人よね?なんで従者は言うこと聞かないのよ。そんなに私威厳ない?
「もうちょいオレに甘えてもいいのに…」
「何か言った?」
よく聞こえなかったけど、もし、不平不満言ってたら噛み付いてやる…
「いーえ、何にも。鈍感お嬢様の耳には通らない話ですから」
「何が鈍感よ!早く持ってきなさい!」
「はいはい、仰せのままに」
私が顔から腕を離すと、もう春雄の姿は無かった。良かったと思う反面少し寂しさも感じその矛盾に眉をひそめてしまう。
なんだか、春雄に話して気持ちが落ち着いた。前世の記憶なんて思い出してそりゃ驚きまくったけど、不思議なことにすんなりと受け入れられてる。色々ショッキングな事実も知ったのにね…やっぱ春雄のおかげかも。
それに、お父様への期待をほんの少し捨てれたわ…
私は八乙女桜子。前世の記憶がほんの少しあっても私は私。何も変わらない。
しかもこれはチャンスと言える。なんせ私は前世の記憶という力で未来予測ができるのだから。
そうすれば、死ぬのを回避することなんて容易いはずだわ
見ていなさいこの世界の神!運命なんて私の手でぶち壊してあげるわ!オーッホッホッホッホ、ングっ、ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ!
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄中に思い出した三人~恐らく私のお父様が最強~
かのん
恋愛
どこにでもある婚約破棄。
だが、その中心にいる王子、その婚約者、そして男爵令嬢の三人は婚約破棄の瞬間に雷に打たれたかのように思い出す。
だめだ。
このまま婚約破棄したらこの国が亡びる。
これは、婚約破棄直後に、白昼夢によって未来を見てしまった三人の婚約破棄騒動物語。

学園にいる間に一人も彼氏ができなかったことを散々バカにされましたが、今ではこの国の王子と溺愛結婚しました。
朱之ユク
恋愛
ネイビー王立学園に入学して三年間の青春を勉強に捧げたスカーレットは学園にいる間に一人も彼氏ができなかった。
そして、そのことを異様にバカにしている相手と同窓会で再開してしまったスカーレットはまたもやさんざん彼氏ができなかったことをいじられてしまう。
だけど、他の生徒は知らないのだ。
スカーレットが次期国王のネイビー皇太子からの寵愛を受けており、とんでもなく溺愛されているという事実に。
真実に気づいて今更謝ってきてももう遅い。スカーレットは美しい王子様と一緒に幸せな人生を送ります。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!


【完結】離縁など、とんでもない?じゃあこれ食べてみて。
BBやっこ
恋愛
サリー・シュチュワートは良縁にめぐまれ、結婚した。婚家でも温かく迎えられ、幸せな生活を送ると思えたが。
何のこれ?「旦那様からの指示です」「奥様からこのメニューをこなすように、と。」「大旦那様が苦言を」
何なの?文句が多すぎる!けど慣れ様としたのよ…。でも。

悪役令嬢に転生したら病気で寝たきりだった⁉︎完治したあとは、婚約者と一緒に村を復興します!
Y.Itoda
恋愛
目を覚ましたら、悪役令嬢だった。
転生前も寝たきりだったのに。
次から次へと聞かされる、かつての自分が犯した数々の悪事。受け止めきれなかった。
でも、そんなセリーナを見捨てなかった婚約者ライオネル。
何でも治癒できるという、魔法を探しに海底遺跡へと。
病気を克服した後は、二人で街の復興に尽力する。
過去を克服し、二人の行く末は?
ハッピーエンド、結婚へ!

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる