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第1章
15話、月の下で(ネヴィル視点)
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「ゴホッ!!ゴホッ!!!ひ、酷い目にあいました…。」
「ロバート、可愛こぶるな。」
「いや、可愛こぶるも何もアレは酷すぎますって!!」
「おい、大きい声を出すな。此処のメイドたちにバレて騒がれでもしてみろ。僕はこの社会で生きていけなくなる。」
「いやいや、その前に独房ですって。」
僕とロバートは今、薄汚れた格好でこそこそと会話しながら木の陰に隠れているのだ。
こうなったのには理由がある。
隠し通路はあったはいいが、長らく誰にも使われていなかったのだろう。蜘蛛の巣や蝙蝠のフン、埃が 溜まっていた。
おまけに通路は細く大人一人やっと通れるほどの狭さであったのだ。
そこを通り抜けるとすれば、体が汚れることなど必然だった。
やっと通り抜けたと思えば、繋がった先は侯爵邸の広々とした庭で、昔あった筈の隠し通路の出口を囲む塀は無く、上から見れば僕達は丸見えの状態であったのだ。
慌てた僕とロバートはすぐに体勢を低くして近くにあった大きな木の陰に隠れた。
「坊ちゃん、シルフィ嬢の顔を見たいはいいですが、この後どうするつもりだっんですか?何か策がおありで?」
「策など無い、今から考える。」
「はあ?何ですか?死ぬんですか?」
「おい、お前、さっきから言葉遣いが主人に対するものじゃ無い気がするが。」
「気の所為ですよ。それより本当にどうするんですか?このままじゃ不法侵入がバレるのは時間の問題です。もう、帰りましょう。わたしめ怖くて仕方ありません。」
確かにバレるのは時間の問題だ。日が出ていれば僕等の姿ははっきりとみえただろう。
だが…。
「帰らないぞ、僕は。帰るなら一人で帰れ。此処までご苦労。」
「んな!此処まで連れて来ておいてなんて言い草ですか!それに最後までついて行くと約束したでは無いですか。ここで坊ちゃんを置いて行って後味悪くなるのはわたしが嫌なんです!兎に角今日は一旦引きましょう。」
僕達が帰る、帰らないと揉めているとガタリと音がした。
音をした方を振り向き、よく目を凝らせば暗闇でもわかる、美しい銀髪をなびかせた婦女がベランダに立っていた。
「妖精…?」
「間抜け、シルフィだ。」
しかし、見間違えるのも頷ける。あんなにも美しい人間は中々いないだろう。皆一度は彼女を妖精や天使に見間違えるに違いない。
「シルフィ嬢ですか?随分長い間お見かけしませんでしたが、たいへんお美しく成長なさりましたね…。もう、人間味を感じないほどに。」
シルフィは腰掛けてた椅子から立ち上がるとクルリと回った。その時スカートがふわりと翻り、そこからは、素足がチラチラと覗く。その艶かしさに思わず息を呑んだ。
「坊ちゃん、後少し近づけば中が見えそうです。」
「お、お前!!馬鹿か!!覗いたら殺す!!」
僕は反射的にロバートの頭を叩いた。その拍子でロバートは身体のバランスを崩し、近くの草むらに倒れこむ。
「きゃあ!!」
やってしまった。
彼女は音にビックリしたのか小さな悲鳴とともに腰を抜かしていた。もう本当に後に引けない状況になった。
「坊ちゃん、次に会えるのは天国ですね…。」
「ただでは死なんぞ!ロバート、お前は戻ってろ!」
「へ?」
「だ、だれか。そこに居ますの?」
その問いかけに僕は緊張で声と表情を強張らせながら、すくりと立ち上がるとゆっくりと隠れるものがない方へ足を進めた。
「い、いや。怪しいものではない。」
セリフこそ怪しいが仕方ないのだ。両手を頭の高さまで上げ降参の合図を取る。
そうして、彼女のいる方に近づけば月明かりがその顔を照らした。
やはり美しい。さながら彼女は月の光に咲き出た夜の花といったところだろうか。
胸が激しく波立つのを感じる。
(いや、それよりこの位置は本当に不味い。)
下から見上げる彼女は、さっきよりも余計に素足がチラチラと覗き、やけに艶かしい。
「お、お兄様!不法侵入者ですわ!曲者です!!」
見惚れていると、シルフィがか細い叫び声をあげた。まずい、手を回してるとはいえ、他の使用人達に気付かれてしまう!咄嗟に彼女を落ち着かせることを最優先にした。
「叫ばないで貰えると助かる。その、別にお、お前に危害を加えようとは思っていない…。」
しまった。またお前と言ってしまった!他に言い方があっただろう!
いつまで経っても素直になれない自分を責める。
シルフィはひどく怯えているようで、立ち上がろうとするがどうも上手く立てないようだ。
兎に角、このままにしておくのは良くない。見上げては艶かしさに耐えられないし、かといって何もしないのであれば使用人やら何やら呼び出されるに違いない。
そう考えれば、身体はすぐ動いた。ベランダに近い木に手をかけ、それを伝い彼女の目の前に降り立つ。
「何ですの!?なんですの!?こちらに来ないでくださいまし!!」
シルフィは泣きかけで、椅子を盾にして自分を守っているようだ。しかし、その姿すら麗しい。
我ながらおかしいほどに興奮するのだ。高鳴る心臓の音がはっきり自分で聞き取れる。
(その顔がもっと見たい。)
僕はつかつかと、理性が効かない一歩手前で歩み寄り被っていたフードを取った。
(よし、最終確認だ。)
「その、僕が、分かるか?」
これを聞かずにはいられなかった。答えは知っているのにだ。
シルフィは僕の顔を認識すると目を大きく見開いた。
その反応はまさか…?
「いやぁあああ!!!お兄様が追っ払った筈の不審者ですわぁあああ!!!」
彼女は耳のそばで大砲を打たれたのかのように驚き叫び、意識を手放した。
「ロバート、可愛こぶるな。」
「いや、可愛こぶるも何もアレは酷すぎますって!!」
「おい、大きい声を出すな。此処のメイドたちにバレて騒がれでもしてみろ。僕はこの社会で生きていけなくなる。」
「いやいや、その前に独房ですって。」
僕とロバートは今、薄汚れた格好でこそこそと会話しながら木の陰に隠れているのだ。
こうなったのには理由がある。
隠し通路はあったはいいが、長らく誰にも使われていなかったのだろう。蜘蛛の巣や蝙蝠のフン、埃が 溜まっていた。
おまけに通路は細く大人一人やっと通れるほどの狭さであったのだ。
そこを通り抜けるとすれば、体が汚れることなど必然だった。
やっと通り抜けたと思えば、繋がった先は侯爵邸の広々とした庭で、昔あった筈の隠し通路の出口を囲む塀は無く、上から見れば僕達は丸見えの状態であったのだ。
慌てた僕とロバートはすぐに体勢を低くして近くにあった大きな木の陰に隠れた。
「坊ちゃん、シルフィ嬢の顔を見たいはいいですが、この後どうするつもりだっんですか?何か策がおありで?」
「策など無い、今から考える。」
「はあ?何ですか?死ぬんですか?」
「おい、お前、さっきから言葉遣いが主人に対するものじゃ無い気がするが。」
「気の所為ですよ。それより本当にどうするんですか?このままじゃ不法侵入がバレるのは時間の問題です。もう、帰りましょう。わたしめ怖くて仕方ありません。」
確かにバレるのは時間の問題だ。日が出ていれば僕等の姿ははっきりとみえただろう。
だが…。
「帰らないぞ、僕は。帰るなら一人で帰れ。此処までご苦労。」
「んな!此処まで連れて来ておいてなんて言い草ですか!それに最後までついて行くと約束したでは無いですか。ここで坊ちゃんを置いて行って後味悪くなるのはわたしが嫌なんです!兎に角今日は一旦引きましょう。」
僕達が帰る、帰らないと揉めているとガタリと音がした。
音をした方を振り向き、よく目を凝らせば暗闇でもわかる、美しい銀髪をなびかせた婦女がベランダに立っていた。
「妖精…?」
「間抜け、シルフィだ。」
しかし、見間違えるのも頷ける。あんなにも美しい人間は中々いないだろう。皆一度は彼女を妖精や天使に見間違えるに違いない。
「シルフィ嬢ですか?随分長い間お見かけしませんでしたが、たいへんお美しく成長なさりましたね…。もう、人間味を感じないほどに。」
シルフィは腰掛けてた椅子から立ち上がるとクルリと回った。その時スカートがふわりと翻り、そこからは、素足がチラチラと覗く。その艶かしさに思わず息を呑んだ。
「坊ちゃん、後少し近づけば中が見えそうです。」
「お、お前!!馬鹿か!!覗いたら殺す!!」
僕は反射的にロバートの頭を叩いた。その拍子でロバートは身体のバランスを崩し、近くの草むらに倒れこむ。
「きゃあ!!」
やってしまった。
彼女は音にビックリしたのか小さな悲鳴とともに腰を抜かしていた。もう本当に後に引けない状況になった。
「坊ちゃん、次に会えるのは天国ですね…。」
「ただでは死なんぞ!ロバート、お前は戻ってろ!」
「へ?」
「だ、だれか。そこに居ますの?」
その問いかけに僕は緊張で声と表情を強張らせながら、すくりと立ち上がるとゆっくりと隠れるものがない方へ足を進めた。
「い、いや。怪しいものではない。」
セリフこそ怪しいが仕方ないのだ。両手を頭の高さまで上げ降参の合図を取る。
そうして、彼女のいる方に近づけば月明かりがその顔を照らした。
やはり美しい。さながら彼女は月の光に咲き出た夜の花といったところだろうか。
胸が激しく波立つのを感じる。
(いや、それよりこの位置は本当に不味い。)
下から見上げる彼女は、さっきよりも余計に素足がチラチラと覗き、やけに艶かしい。
「お、お兄様!不法侵入者ですわ!曲者です!!」
見惚れていると、シルフィがか細い叫び声をあげた。まずい、手を回してるとはいえ、他の使用人達に気付かれてしまう!咄嗟に彼女を落ち着かせることを最優先にした。
「叫ばないで貰えると助かる。その、別にお、お前に危害を加えようとは思っていない…。」
しまった。またお前と言ってしまった!他に言い方があっただろう!
いつまで経っても素直になれない自分を責める。
シルフィはひどく怯えているようで、立ち上がろうとするがどうも上手く立てないようだ。
兎に角、このままにしておくのは良くない。見上げては艶かしさに耐えられないし、かといって何もしないのであれば使用人やら何やら呼び出されるに違いない。
そう考えれば、身体はすぐ動いた。ベランダに近い木に手をかけ、それを伝い彼女の目の前に降り立つ。
「何ですの!?なんですの!?こちらに来ないでくださいまし!!」
シルフィは泣きかけで、椅子を盾にして自分を守っているようだ。しかし、その姿すら麗しい。
我ながらおかしいほどに興奮するのだ。高鳴る心臓の音がはっきり自分で聞き取れる。
(その顔がもっと見たい。)
僕はつかつかと、理性が効かない一歩手前で歩み寄り被っていたフードを取った。
(よし、最終確認だ。)
「その、僕が、分かるか?」
これを聞かずにはいられなかった。答えは知っているのにだ。
シルフィは僕の顔を認識すると目を大きく見開いた。
その反応はまさか…?
「いやぁあああ!!!お兄様が追っ払った筈の不審者ですわぁあああ!!!」
彼女は耳のそばで大砲を打たれたのかのように驚き叫び、意識を手放した。
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