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犬も喰わない!~バカップルの痴話喧嘩編~
別れ話のABC/パターンA-②
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次に会うとき、どんな顔して会ったら良いか解らなかった。
無視するしかないと決意して迎えに来たバンへ乗り込む。当然だけどサトルが先に乗ってて「おはよう」と挨拶された。
さすがに完全な無視は良くない。無視すればマネージャーに気を使わせるから。そう思って「おはよー」明るい声で挨拶した。ニコヤカを装っても目は合わせない。心は完全に閉ざしておく。
無言のまま車は進む。挨拶はしたしマネージャーは気にならないだろう。あと5分も耐えれば次のメンバーが乗り込んでくる。もう少しだけ我慢すれば。もう少しだけ、この沈黙に耐えればいい。
目を閉じて寝たふりする事にした。マネージャーが「サトルさん眠れましたか」と話しかけている。「あー、あんま寝れなくて」と返事が聞こえた。
サトルのことだ。また夜遊びでもしてたんだろう。寝れなかった理由が容易に想像できてしまい心底嫌な気持ちになった。こんな感情とオサラバしたくて終わらせたのに。別れたくせに相手の夜遊びに文句を言いたくなっている。俺ってどこまでも嫌なヤツ。
ジリジリと心臓がイヤな匂いを漂わせ焦げていく気がする。今はサトルの声を聞くのもキツくて、逃げるようにカバンからイヤホンを取り出した。
「眠れなかったなんて、珍しいですね~」
「なんか・・・、・・・」
運転してるマネージャーと話してたはずのサトルの声が急にうわずってギョッとして見てしまった。
どう見ても泣いてる。泣いてる原因に思い当たるフシはあるけどまさか俺な訳ないよね???と思うと声を掛けられない。
呆然としつつ、いやきっと俺には関係ない事で泣いてるんだと音楽を聴く事にする。
右耳かけて左耳も付け終わり座り直して窓の外を眺める。
スマホで操作して大音量でEDMを流した。これでもう何も聞こえない。音楽以外の世界が遮断された。一息ついて、安心からか深いため息が出た。
そして、グッと、腕に違和感。
目線だけ動かして様子を伺うとサトルが俺の腕を掴んでいる。涙を零した強い眼差しとかち合った。サトルが左側のイヤホンを勝手に外して「終わってない」と訴えてきた。艶のある低い涙声が右側のEDMとミックスされる。
サトルの行動が想定外で頭の中が真っ白になった。この状況が把握出来ない。
終わってないって、別れ話のこと?
今泣いてんのは、俺と別れたことが原因ってこと?
俺の想像の中にいるサトルは、こんな風に泣いて俺に伝えてくる事は無かった。
別れ話後のこんな状況でも、毅然とした態度で俺のことなんて見向きもしないと思ってたのに。
サトルは目から涙を流したまま、ハッキリと「やだ」と言った。
「・・・・・・、そっ、っか・・・」
ただそう言ってしまって、他に返事が見つかんない。サトルは顔を伏せたけど、掴んだ腕を離さない。
「え・・・・・・、サトルさん?どうしました?」
マネージャーが慌てた声を出す。ミラーを通して目が合った。サトルが泣いてる事にマネージャーも気付いたらしい。
「あー!だいじょぶだいじょぶ、ときどきあるから・・・、」
慌てた俺も良く解らない返事をしてしまった。ときどきなんて無い、初めてだ。サトルがこんなふうに泣きながら訴えてくるなんて思いもしなかった。サトルにとって俺は、そんなに泣いてすがるほどの存在じゃ無いって思ってた。
俺の腕を懸命に掴む小さな身体をぽんぽんとあやし、「気にしないで!」と大きめの声でマネージャーに伝えた。サトルはズッと鼻をすすってから、マネージャーに向かって弱々しい声を出した。
「コンビニ・・・」
「えっ?」
「コンビニ寄って下さい、そこの」
「ああ、っはい」
マネージャーは言われるままに車を止めた。そして「水」と俺に指示した。
「・・・・・・ハイ。」
指示されるがままバスを降りて水を買い車内へ戻る。手渡すと「ありがと」とサトルは言った。それから水を二口飲んで一息ついて、キッとこっちを見て「終わってない」と低い声でハッキリ言った。
「・・・・・・ハイ。」
サトルは、不安げな目をしてる。
どうやら俺は、ハイと言う事しか出来ないのかもしれない。
だってやっぱり好きな子が言う事ですから、言う事聞きたくなっちゃうんだよね。あとで気づいたことだけど、ラインにも『まだ別れたつもりない』とメッセージが入っていた。
次のメンバーが車に乗ってくる頃、サトルはすっかりいつもの調子に戻っていた。さっきまで泣いてたなんて考えられないぐらい明るかった。まるで無かったことみたいに振る舞っている。しかし俺の脳裏にはしっかりと『やだ』と泣く瞳が焼き付いていて。そんなに別れたくないんだと思うと無駄にニヤけてしまう。
ピカピカの良品は、なんでこんなに綺麗なんだろう。俺が隣にいたら汚れちゃうって思って離れたのに。俺が離れたら汚れてしまうなんて都合の良いことを考える。涙だって美しいものに見えた。
もう俺の悩みなんてどこかに飛んでいって、可愛いなぁってばっかり考える。
無視するしかないと決意して迎えに来たバンへ乗り込む。当然だけどサトルが先に乗ってて「おはよう」と挨拶された。
さすがに完全な無視は良くない。無視すればマネージャーに気を使わせるから。そう思って「おはよー」明るい声で挨拶した。ニコヤカを装っても目は合わせない。心は完全に閉ざしておく。
無言のまま車は進む。挨拶はしたしマネージャーは気にならないだろう。あと5分も耐えれば次のメンバーが乗り込んでくる。もう少しだけ我慢すれば。もう少しだけ、この沈黙に耐えればいい。
目を閉じて寝たふりする事にした。マネージャーが「サトルさん眠れましたか」と話しかけている。「あー、あんま寝れなくて」と返事が聞こえた。
サトルのことだ。また夜遊びでもしてたんだろう。寝れなかった理由が容易に想像できてしまい心底嫌な気持ちになった。こんな感情とオサラバしたくて終わらせたのに。別れたくせに相手の夜遊びに文句を言いたくなっている。俺ってどこまでも嫌なヤツ。
ジリジリと心臓がイヤな匂いを漂わせ焦げていく気がする。今はサトルの声を聞くのもキツくて、逃げるようにカバンからイヤホンを取り出した。
「眠れなかったなんて、珍しいですね~」
「なんか・・・、・・・」
運転してるマネージャーと話してたはずのサトルの声が急にうわずってギョッとして見てしまった。
どう見ても泣いてる。泣いてる原因に思い当たるフシはあるけどまさか俺な訳ないよね???と思うと声を掛けられない。
呆然としつつ、いやきっと俺には関係ない事で泣いてるんだと音楽を聴く事にする。
右耳かけて左耳も付け終わり座り直して窓の外を眺める。
スマホで操作して大音量でEDMを流した。これでもう何も聞こえない。音楽以外の世界が遮断された。一息ついて、安心からか深いため息が出た。
そして、グッと、腕に違和感。
目線だけ動かして様子を伺うとサトルが俺の腕を掴んでいる。涙を零した強い眼差しとかち合った。サトルが左側のイヤホンを勝手に外して「終わってない」と訴えてきた。艶のある低い涙声が右側のEDMとミックスされる。
サトルの行動が想定外で頭の中が真っ白になった。この状況が把握出来ない。
終わってないって、別れ話のこと?
今泣いてんのは、俺と別れたことが原因ってこと?
俺の想像の中にいるサトルは、こんな風に泣いて俺に伝えてくる事は無かった。
別れ話後のこんな状況でも、毅然とした態度で俺のことなんて見向きもしないと思ってたのに。
サトルは目から涙を流したまま、ハッキリと「やだ」と言った。
「・・・・・・、そっ、っか・・・」
ただそう言ってしまって、他に返事が見つかんない。サトルは顔を伏せたけど、掴んだ腕を離さない。
「え・・・・・・、サトルさん?どうしました?」
マネージャーが慌てた声を出す。ミラーを通して目が合った。サトルが泣いてる事にマネージャーも気付いたらしい。
「あー!だいじょぶだいじょぶ、ときどきあるから・・・、」
慌てた俺も良く解らない返事をしてしまった。ときどきなんて無い、初めてだ。サトルがこんなふうに泣きながら訴えてくるなんて思いもしなかった。サトルにとって俺は、そんなに泣いてすがるほどの存在じゃ無いって思ってた。
俺の腕を懸命に掴む小さな身体をぽんぽんとあやし、「気にしないで!」と大きめの声でマネージャーに伝えた。サトルはズッと鼻をすすってから、マネージャーに向かって弱々しい声を出した。
「コンビニ・・・」
「えっ?」
「コンビニ寄って下さい、そこの」
「ああ、っはい」
マネージャーは言われるままに車を止めた。そして「水」と俺に指示した。
「・・・・・・ハイ。」
指示されるがままバスを降りて水を買い車内へ戻る。手渡すと「ありがと」とサトルは言った。それから水を二口飲んで一息ついて、キッとこっちを見て「終わってない」と低い声でハッキリ言った。
「・・・・・・ハイ。」
サトルは、不安げな目をしてる。
どうやら俺は、ハイと言う事しか出来ないのかもしれない。
だってやっぱり好きな子が言う事ですから、言う事聞きたくなっちゃうんだよね。あとで気づいたことだけど、ラインにも『まだ別れたつもりない』とメッセージが入っていた。
次のメンバーが車に乗ってくる頃、サトルはすっかりいつもの調子に戻っていた。さっきまで泣いてたなんて考えられないぐらい明るかった。まるで無かったことみたいに振る舞っている。しかし俺の脳裏にはしっかりと『やだ』と泣く瞳が焼き付いていて。そんなに別れたくないんだと思うと無駄にニヤけてしまう。
ピカピカの良品は、なんでこんなに綺麗なんだろう。俺が隣にいたら汚れちゃうって思って離れたのに。俺が離れたら汚れてしまうなんて都合の良いことを考える。涙だって美しいものに見えた。
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