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健全黒字経営目指します!
契約したいの
しおりを挟む第93話 契約したいの
覆面クッキング…、なんか材料とか聞くの怖いんだが…。
「…はは、そんな難しい顔すんなって。それ、悪いモンじゃねえと思うぞ。一応、あんなナリでもあの弟子はちゃんとした神官だからよ。ほら、毒味してやるから。」
袋からひとつクッキーを取って、ぽいっと口に放り込む。クッキーはレオさんの口の中でサクリと軽い音を立てた。
「ん、ちゃんとバザーのクッキーだ。コウも一個いってみな? 結構美味いだぜ?」
ふむ、じゃあひとついってみっか。
サクリ
「お、美味いね、これ。」
軽い食感のクッキーは懐かしい甘みのするボーロみたいなクッキーだった。
「だろ? 街のガキ共はこれを楽しみに小遣い貯めてバザーの日教会に行くんだ。」
俺の小さな頃の小学校のPTAバザーみたいだな。
今は時代の流れかそう言う寄付絡みイベントやってないみたいだけど、料理上手なお母さん方が子供向けに100円くらいで手作りお菓子出品してたんだよね。ちびっ子が小銭握りしめて群がってた記憶。
「へえ、そうなんだ。レオさんも小さい頃買いに行くの楽しみだったの?」
クッキーをもぐもぐしながら聞いてみた。
お小遣い握りしめてクッキー買いに行くレオ少年。ちびっ子なレオさん、ちょっと想像したらなんか可愛いな。
「まあな。でも1人で買いに行ける頃にゃ、帝都に養子に出されちまったからそんな買いには行けなかったけどな。そのかわり大人になってから慰問で行った時に一緒に作って食った。結構簡単に出来るんだぜ、あれ。」
なんとレオさんクッキング!
マテウスさんもアレだけど、ちょっとその体格で子供に混じってちまちま小っちゃいクッキー作ってる姿が想像できませんね…。
「ふふっ、意外だな。レオさんがお菓子作るとか。」
「ははは、菓子はそのクッキーくらいしか作れねえけど、メシはある程度作れるからな? クソジジイに解体から調理まで仕込まれたからよ。」
レオさんが苦笑いしながらぽいっとクッキーを放り込む。
「え、レオさん料理出来るんだ!マジか、…って言うかジュードさん、料理も出来るの??」
「ん? 双犬亭のメシの殆どはジジイが作ってるぞ? 気づかなかったか?」
「全然気づかなかった…。」
ジュードさんはバーテンダーさん的なお酒担当だと思ってた。見た目的に。
酒飲んでてあんまり気にしてなかったけど、あの酒場メシ結構美味かったんだよな。そして斡旋所の酒場、双犬亭って言うんだ…。知らなかった…。
「あん時はただの呑んだくれジジイにしか見えねえか。まあ、趣味で酒場なんかやってんだから呑んだくれにゃ間違いねえけどよ。」
「へえ、趣味で酒場やってんだ。」
趣味で酒場かあ。その割には料理もしっかりしてるし、お客さんも結構入ってたよな。趣味の域越えてる気がするんだが。
「…あー、アレだ。趣味と実益を兼ねてだな。趣味の料理を手近な奴に食わせつつ、払い出した報酬を即日回収してんだ、アレは。はん、性根の悪いジジイだな。」
やれやれとお手上げポーズで顔を顰めるレオさん。
おふ、なんてこった! めっちゃ効率よい報酬搾取システム!
…も、もしかして異世界ファンタジーの冒険者ギルドに酒場が併設されてんのって、交流云々より実はそう言う理由なのか…?
実はあの、臨時報酬だー! 今日は俺の奢りだー!ムーブは…、やだ、ちょっと世知辛い 笑。
「いやいや、性根悪いって…。そこは商売上手だと思うよ? 多分。それにしても趣味であのレベルかぁ。ジュードさんすごいね。」
「昔からマーシナリー引退したら田舎に店出すって言ってたからなぁ。つっても未だ周りに引っ張られて引退しきれてねえけどな。ははは。」
ハッ!…こ、これは、スカウトチャンスでは?!
引退後店を出したい意思ありで、店主は二つ名持ち元マーシナリー、更に料理上手、
おおおお、きたコレぇ!!!!
有名力士の部屋直伝ちゃんこ屋…いや、眼帯イケオジ様なジュードさんは有名芸能人の隠れ家レストランだ!! めっちゃ鳴り物ジャランジャランでオープンできるヤツぅ!!
「…ジュードさんと契約したい。」
「は? い、いまなんて?」
口に放り込りこもうとしたクッキーがぽろりとベッドに落ちて行った。
「え、ジュードさんと契約したいって思ってさ。」
いずれ出店契約したいんだよねえ。コネでどうにかならんかなあ。
「じ、ジジイと契約って…、ど、どう言う事だ…?」
え? どうした? レオさんめっちゃ動揺してるけど?
「いやあ、あのジュードさんが俺のダンジョンに来てくれたら、すんごい助かるなぁって。」
「…そ、それは、俺じゃなくてジジイを護衛に取り立てるって事か…?」
あっ、そう言う心配ね!
「ごめんごめん、契約切りの話じゃないヨ! レオさんは引き続き俺の専属護衛だから。ジュードさんにはダンジョンがカタチになったら、飲食店の出店してもらいたいなって。あのダンジョン、他の町や村から離れてるから、長く楽しんでもらう為にも長期滞在者向けの宿泊施設とか飲食店とか入れたいんだ。」
「…そうか。ああ、そうか、うん。それならジジイが契約云々もありだな。うん。」
レオさんはそれはもうわかりやすくホッとした顔になり、先程放り込み損ねたクッキーを拾ってパクっと口にした。
いきなりの契約切り匂わせとかとんだブラック雇用主だよな。びっくりさせてすまん。
「でもまだダンジョン自体全然出来てないから出店は先の話かな。あはは、ジュードさんのご飯、早く食べたいんだけどね。」
「…コウのメシは俺が作ってやるから心配すんな。」
「マジで? 俺、自炊そんな得意じゃないから結構甘えちゃうよ?」
基本茶色多めずぼら男飯レベルなんで…。
「いいさ。宮廷料理作るワケでもねえからな。ま、たまにこめを出してくれると嬉しい。」
「全然オッケー!」
米いくらでも炊いちゃう!
「さあて、そろそろ寝るか。今日は休みだからな。」
クッキーの袋をとりあげたレオさんは履いてた靴をぽいっと脱ぎ捨て、俺の横に寝っころがった。添い寝の体勢である。
おっふー、またそこに戻るか!
「…大人しくしてるんで、せめてタブレットください。レオさんサマぁ…。」
「コウは少し体を労る事を覚えなきゃダメだ。ここ数日討伐やら移動やらで体を酷使してんだ。今は気分が上がりすぎて『頭』が気づいてねえ。気づいたら一気にくるぞ?」
ハッ! ランナーズハイならぬ異世界ハイか!
確かにコッチきてからテンション上がりっぱなしかも…。
「俺達マーシナリーも非常時以外は2日仕事したら休みとってんだ。コウも休みな。」
「はっ? 2日働いたら休み?!」
「ああ、しっかり休まないとな。そんな当たり前じゃねえか。」
な、な、なっ、2日勤務1休が…、許される世界、だと…? ホワイトすぎんか…?
「コウ? どうした? 魂が抜けたみたいな顔になってんぞ…?」
「…いや、何でもないよ。ちょっとホワイト異世界って言う言葉を思いついただけだから…。」
「白い異世界って、何だソレは。」
「ははは、可哀想なリーマンがいない優しい世界かな…。うん、素晴らしい事だ…。ははは、俺寝るね。」
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「お、おう。よくわからねえがいい世界って言葉なんだな。…まあ、昼くらいには起こすからゆっくり休んでくれ。おやすみ、コウ。」
「おやすみー。」
そんなに眠くはなかったが寝ると言った手前目を閉じた。横になって目を閉じるだけでも休息にはなるって昔みたサバイバル映画でも言ってた気がする。
目を閉じると布団を緩くトントン叩かれ、その心地よいリズムにいつの間にか寝落ちていた。
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