異世界転職先がダンジョンな訳だが?

そーまこーた

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健全黒字経営目指します!

素敵な夜に

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第75話 素敵な夜に



「いらっしゃいませ~。お連れ様には悪いんですけどテーブルは満席で、今はカウンターなら空いてますよ。」

 カフェエプロンと言うか酒屋の前掛けっぽいエプロン姿のニックさんが酒がのったトレイを片手に出迎えてくれた。
 受付側のカウンターでは額に小鬼のような角が生えた若い男性と、頭頂部が若干儚く心許ないおじさんが依頼の完了報告っぽいマーシナリーの相手を真面目にしていたが、窓際の4つあるテーブルは酒とツマミを囲む厳つい人々で溢れふざけて楽しそうな声が響く。昼間のカフェ的だった斡旋所内はもうすっかり酒場になっていた。

「カウンターか。ま、仕方ねえ。詰めりゃテーブルより見えねえからいいか。そっちに座って…、」
「いや、オレとオメエでコウちゃん挟めばいいんじゃね?」

「うわっ?!」

 俺の背後に突然の師匠!
 ケツは揉まれなかったが、肩を組まれるついでに乳は揉まれた…。器用か…。
 さすがに揉まれ続けるのはノーセンキュー! なのですぐ師匠を押し退け腕から抜け出す。

 つーか何故毎回揉みにくるんだ、師匠ッ! いくら筋肉がなくて見た目プニプニっぽいが、そこまで無駄お肉ではない…筈…、だよな…? 30代、ボディーに不安が隠せません…。
 
「チッ、いつにの間に…。」

 レオさんが師匠から俺を隠す。

「あ?いま便所行ってたわ。ほら、ここはコウちゃんの席な。レオナルド、オメエはそっちだ。」

 レオさんの隙をついて俺の手を引く。

「勝手に仕切るな。」

「さあさあ、こちらにどうぞ。つーか、その格好エロ可愛いじゃん。昼のシーカーみたいな格好よりクるわぁ。」

 …エロ可愛いくてクる、とは? もしかしてそれ褒めてんのか? 
 最近、俺の言語チートさん実はかなり意訳がすぎる翻訳をしてる気がしてならない。
 師匠、本当は直訳ではもっと真面目な事言ってるんじゃないのか…? エロ可愛いじゃなくて、身長が小さいが似合ってるとかさ…。

「うるせえぞ、小僧共。そんなとこに突っ立ってると邪魔だ。早く座って飲んだらとっとと帰れ。」

 カウンター前でワチャワチャしていたら、厨房から不機嫌顔のジュードさんが出てきた。

「あ、こんばんは、ジュードさん。飲みに来ました。」

「ようこそいらっしゃ…、って、おいレオナルド、そのは契約違反じゃねえのか?」

「妖精の寄り道(※身分を偽ってお忍び中の意。こちらの傭兵隠語)でございますのでお気になさらず。」

の妖精が夜蜜よみつをあおりに来たって、か?」

 レオさんは曖昧あいまいに微笑んでカウンター席に俺をエスコートした。…うーん、貴族の言い回しってボヤかしすぎて何言ってるかわからんな。
 席に座ると、ドスドスっと両脇に筋肉の壁ができた。狭い…。

「オヤっさーん、バレイ酒ぅ。あと適当に肉ぅ。あ、全部レオナルドにつけてくれ。コウちゃんは何飲む?甘い酒がいい?」

「ジジイ、つけは一杯だけだ。コウ、バレイ酒ひと口だけ飲んでみるか?」

 両脇から注文の催促か! そんなのまずはビールでしょ!

「あー、ビールに似たのだっけ。もしひと口貰えるなら飲んでみたいかも。あと柑橘系があればお酒薄めでお願いします。」

「じゃあ、オレンジはわかるか?こっちの柑橘類だとオレンジが有名だが。」

「オレンジなら俺のとこにもある。カシスとオレンジの割り物は俺もよく飲むよ。」

 困った時のカシオレですからね…。

「わかった。ジジイ、バレイ酒二つとオレンジ酒薄めだ。このお方のバレイ酒は小せえカップで頼む。あと、珍しいツマミがあったら出してくれ。」

「おう。久しぶりに滝エビの干物が入ったから出してやるよ。妖精のお嬢サマ、しばしお待ちを。」

 ジュードさんがニカっと笑い、厨房に戻って行った。
 お、もしかしてジュードさんが料理作るのかな? 所長兼料理人ってダブルでマスター、なんか格好いい!

 すぐニックさんが呼ばれ、厨房から酒を持って出てくる。

「はい、バレイ酒3つにオレンジ酒。お連れ様にはこちらを。サービスです。」

 酒と一緒に昼間の豆菓子が出てきた!

「おいニック! まだあの菓子あんじゃねえか!」

「こちらは尊い方にしかお出ししてませーん。食べたいならご自分でお買い上げ下さーい。」

「この性悪狐! 後で泣かせんぞ!」

 エイトールさんがギリギリしながらニックさんにお下品中指ポーズをお見舞いするが、ニックさんは全く知らん顔でごゆっくりどうぞ~とフサフサ尻尾を揺らしながらするりと行ってしまった。
 あれ? ニックさん、もしかして俺に気づいてない? …一応、この女優帽役に立ってんのか?

「まあまあ、お酒きたから飲みましょ? あ、レオさん、俺乾杯して大丈夫?」

 一応お貴族サマルールを確認だ。

「しない、が正解だ。が、あっちのテーブルからは見えねえからいいぞ。但し控えめにな。」

「オッケー。じゃあ、お二方カップを持って…、えー、本日は俺のリオガ観光にお付き合いくださり誠にありがとうございました。感謝の乾杯とさせていただきます。では、リオガの素敵な夜にカンパーイ!」

「「乾杯!!」」

コンッ! コンッ! コンッ!

 3人でカップを小さくぶつけ、グイッとバレイ酒を飲んだ。

「プハッ、ん~~! 結構濃い目~~~!」

 カップの半分を流し込んだら喉から胃が少し熱くなった。ビールよりまったりした苦味がひろがる。
 微炭酸の黒ビールだな、これ! しかもアルコール強い!

「キツかったら俺が飲むから無理すんなよ。」

「あはは、コウちゃんにはちょっと大人な味だったかぁ?」

 両脇の2人は笑いながらバレイ酒を飲む。

「まずは駆けつけ一杯のビールだから! これは全部飲む!」

「なんだそれ。コウちゃんのお国は面白え事言うんだな。」

 俺も笑いながらバレイ酒をちびちび飲んだ。

 ちびちびしている間にドンとカウンターに料理が並び始めた。赤身のステーキや滝エビと言う手のひら大のエビを焼いたもの、付け合わせっぽい茹でたジャガイモや昼間食べたしょっぱいクレープ。ちなみに青い野菜モノはなかった 笑。

「ほら、メシ食わねえと酒に負けちまうぞ。」

 ジュードさんがそう言って料理を取り分けてくれる。おふう、山盛り!

「ジジイ、やけにサービスすんじゃねえか。普段そんな事しねえだろうが。」

とテメらゴロツキが同じサービスだと思ってんのか? やれやれ、これだからケツの青い小僧は…。」

「うるせえ、ケツが青いっていつまで言ってんだ。」

「俺がおっ死ぬまでさ。悔しかったら俺をぶちのめすくらいしてみな、レオナルド坊ちゃん。」

「なんだ、レオナルド、まだオヤっさんに勝てねーの?っつーても、オレもオヤっさん超えは無理かもなぁ。広範囲の炎波えんぱかましたらいけそうだけどよぉ。」

 …なんか物騒な事言ってる人がいる。って、ジュードさんめっちゃ強い人なのか? あとレオナルド坊ちゃんって言ってるけど、もしかして昔からのお知り合い?

「ジュードさんはお二人と昔からの知り合いなんですか?」

「あれ? レオナルドから聞いてねえの?」

「黙れ、エイトール。コウ、こいつらの話は聞かなくていい。ほら、この滝エビは珍しいんだ。」

 レオさんがあからさまに話を逸らす。滝エビの殻をバリバリと無心で剥がしている。

 んんっ、これは面白そうな話の気配!

「えへへ、良かったら酒のサカナに聞きたいな~。」

 飲み会必殺技、上司の武勇伝こてんと小首をかしげおねだりだ!
 さあ、レオさんの黒歴史?カモン!

「ははは、可愛なあ、嬢ちゃんは。まあたいした面白え話じゃねえがな、この小僧は俺の教え子なのさ。」

「余計な事言ってんじゃねえ、ジジイ。あと元だ、元。もう教え子とか関係ねえだろ。」

 レオさんの手で滝エビの尻尾がぶちりと切れ、師匠がゲラゲラ笑いながら勿体ねえと剥かれた側の滝エビを掻っ攫った。

「コイツがよ、帝都にいた頃にコイツの家の指南役で雇われててな。あそこんは元武家だから、ガキにも一端いっぱしの剣術を叩き込むんだ。俺がその叩き込むお役目って、な。レオナルドがそれこそケツが青い頃からの付き合いさ。」

「剣術なんてお上品なモン、ジジイから習った覚えはねえ。何回か殺されかけたわ、クソが。」

 
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