異世界転職先がダンジョンな訳だが?

そーまこーた

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健全黒字経営目指します!

脱ぐとラク

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第73話 脱ぐとラク



 向かいの魔道具の店はぱっと見は昭和レトロな金物かなもの屋で軒先に箒や物干し竿風の棒、庭先で使うような日用品が雑多に並んでいた。

「ここ雑貨屋さん?」

「そうだな。魔道具とは言え、庶民向けだと日用品しかねえからな。だいたいこう言う店に置いてんだ。」

「へえ、魔道具ってもっと魔法使いのお店!って感じの所で売ってると思ってた。」

「そう言う店もあるぞ。魔法使い向けの魔道具を専門に扱ってんだ。リオガにも斡旋所の近くに一軒ある。だがあっちは貴族は入れねえ。」

「え?そこ入店資格とかあるの?」

 魔法使いしか入口が見えないとかかな?

「いや、そこの店主が大の貴族嫌いでな…。貴族はお断りだそうだ。実は俺も入れん。仕組みはわからんが貴族避けの魔道具が入口にあって元貴族すら弾くんだ。」

 とんでもねえヤバい魔道具屋さんきたー!
 元貴族まで自動シャットアウトする魔道具って、地球のセキュリティ以上では…?

「別な意味で凄い魔道具屋さんなんだね…。」

「ああ、本当にな…。まあ魔道具屋なら他の街に行きゃいいから入れなくても困らんが。で、魔道具は見てくのか?」

「あ、うん!」

 店内に入ると表のガチャガチャした雑多な感じはなくシンプルに整理されて、わかりやすくコーナー分けもされていた。物が少ないドラッグストアといった感じだ。
 お目当ての魔道具は店主のおじいさんが座るレジっぽい台の横のガラス戸がついた棚に並んでた。
 レオさんがひとつずつ解説をしてくれる。
 やはり庶民向けなので、ライターのような火をつける魔道具や懐中電灯のようなライトの魔道具などラインナップは生活に焦点を当てた物ばかりだった。
 ほとんどが動力の電池が魔石に変わったイメージしかない。いや、多分仕組みはアッチの科学の産物とは全然別モンなんだろうけど…、

 異世界感は薄かった! うん!

 お貴族サマが何も買わないのもアレだったので、ジッポのような形のライターの魔道具と近くにかかっていた防水加工のポンチョ(実はこれも水属性の魔道具だった!)だけ買って店を後にした。

「まだ日暮には時間があるから、一旦家に荷物を置いてから教会を見にいくか。例のダンジョン守護神の元があるぞ。」

「あはは、それは見てみたいな。」

 露店をひやかし半分に覗きながらレオさんの家へ戻る。途中、手工芸品を扱う店があり、ミサンガのような綺麗に編み込まれた飾り紐がいっぱい店先に下がっていた。どうやら命環めいかんを腰に吊るす紐がメインの商品らしい。レオさんに頼んで、緑と青のグラデーションが綺麗な紐を一本買ってもらった。後で付け方教えてもらおっと。

 レオさんの家に着くと、今回は客間ではなく2階に案内された。2階は家族のプライベートエリアで、普段使ってるリビングなど生活エリアはこちらなんだそうだ。
 リビングに通され、勧められたソファー座る。
 確かに客間より生活感あるな。案内されたリビングのテーブルには読みかけの本や封筒、封切り前の酒瓶が適当に置いてある。近くの椅子にはマントがバサリと無造作にかけられていて、少し乱雑な感じがなんだか俺の一人暮らしのアパートみたいで親近感がわく。但し、こちら俺んちとは比べ物にならないくらい広くて高級仕様ですけれど!

「さすがに疲れたろ?少し休んでから出よう。茶淹れてくっから横にでもなってな。」

 ほら、日除け帽子もとりな、と女優帽を脱がせてくれた。ふう、少しスッキリ。

「ありがと。実は結構足にきてるかも。靴も脱いで大丈夫?」

 帽子ついでに靴もお願いしてみる。人前で裸足NGの国だからお行儀悪すぎるけど…。でもちょっと足がパンパンで…。

「誰もいねえから気にすんなよ。なんならもう無理に外に出なくても構わねえからな? 夜メシも買ってきてやる。」

「んーん、大丈夫。足は少し休めば楽になる程度だから。あと夜は…、ほら師匠、じゃなくてエイトールさんと斡旋所で飲む約束してるじゃん。」

「出なくてもいいな。」

 そんな即答しなくてもいいじゃん 笑。

「俺もリオガのお酒ちょっと飲んでみたいから、ね?」

 お願いしますー、レオさん様サマー。ついでに観光の締めで夜の魅惑のリオガ的な、綺麗なおねえさんがいる店とか連れてってくださいよー。(上司にたかる目で)レオさんにお願いする。

「…っ、はあ。無理な時は言うんだぞ?とりあえず茶淹れてくるから休め。」

 やっぱり魅了眼みりょうがん持ちなのか?とかブツブツ言いながら、レオさんはリビングを出て行った。

「んふ、レオさんって結構押しに弱いよな。さ、お言葉に甘えてちょっと休むかぁ。」

 靴を脱ぎ、枕がわりにクッションもお借りしてソファーに横になる。流石にソファーに足はあげなかったが、脱ぐだけでも全然違ってじわぁ~と滞ってた血が巡る気分だ。

「はー、これ楽だわー。」

 枕にしたふかふかのクッションに癒される。ぼふっと顔を突っ込み目をつむると、クッションからレオさんの匂いがほんのりした。香水に全く詳しくないので何の香りかはよくわからないが、控えめな小さな花のような、高級な石鹸のような大人な香りだ。
 抱き寄せられると、これにほんの少しだけ汗の匂いがす…、

 ハッ?!
 
 何レオさんの匂い解析してんだ?! 抱き寄せられるとか何考えてんだ、俺?!
 …カーディガン、枕にしよ。

 落ち着く為、脱いだカーディガンをクッションに敷いた…。うん、俺の匂い…。


「…んん、」

 …はあー、この匂い結構好きかも。あと布団あったかぁー。もう少し寝たいけど、そろそろ起きないと…。

 目を開けるとそこにはレオさんの、

 …これは腹? え? いや胸??

「目が覚めたか?」

 見上げると優しく微笑んでるレオさんと目が合う。

「?!?!」

 ええええ? なんでレオさんに抱っこされてんの?!
 慌ててガバリと飛び起き、レオさんから離れる。

「どうした? そんな慌てて。悪い夢でも見たのか?」

 手紙?を読んでたらしいレオさんが、ちょっと驚いた顔で紙束をテーブルに押しやり、俺の肩をそっと摩る。

「は、え、いや、あの、いつの間に俺、レオさんに?」

「…ああ、茶を持ってきたら、上着を脱いで寝てたんで、寒くないかと声をかけたら…、まあ、ちょっと肌寒かったのかコウから抱きついてきてだな…、そのまま胸を貸したってトコだな。」

 はわああ!! 胸を貸す意味が違う方で胸を貸されてしまったああああ!!

「ご、ご、ごめんなさい!!」

 ソファーの上で土下座した! いや、これ床に降りて土下座か!!
 バッと立ち上がり、床で土下座をしようとしたら慌てたレオさんにソファーへ引き戻された。

「いやいや! コウ、そんな罪人みたいな謝罪しなくていい! …落ち着け、落ち着け。大丈夫だ、コウは何も悪い事してねえ。な?」

 ポンポンと背中を叩かれ、ほらゆっくり呼吸をしてと宥められる。

「ちょっと肌寒かっただけだろ? 俺は気にしてねえよ。むしろコウなら俺の胸くらいなんぼでも貸してやるさ。ああ、ちょっと待ってな。すぐ茶をあっためてくるから。」

「…あ、うん。」

 レオさんはニッカリ笑ってぽふりと頭をひと撫でし、テーブルの脇のワゴンからティーポットを持って部屋を出て行った。

 うああああ、恥ずかしい~!! 寝ぼけて抱きつくなんて赤ん坊かあああ!!

 クッションに突っ伏してジタジタする。
 異世界にきてからやらかしっぱなしで、穴があったら入りたいを通り越してもういっそ墓に埋めて欲しい…。次やらかしたらレオさんの土魔法で埋めて貰おうかな…。

「…はあ、記憶を消したい。」

 モダモダしているとすぐにレオさんは戻ってきた。

「山羊の乳がねえからそのままの茶で悪い。砂糖は好きにいれてくれ。」

 紅茶をティーカップに注ぎ、黒糖が入った小さな壺を出してくれた。こちらの砂糖は黒糖らしい。

「ありがとう。えっと、さっきはごめん。今度寝てたら放置して大丈夫だから。」

「もう気にすんなって。さてと、いい時間になってきたから茶のんだら出かけるか。」

「あっ! 俺、もしかして結構寝てた?」

「いや、そんな寝てねえよ。1タト半ぐれえだ。」

 おふう、1時間半も寝落ちてた!
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