異世界転職先がダンジョンな訳だが?

そーまこーた

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健全黒字経営目指します!

ヤメテー!(棒読み)

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第70話 ヤメテー!(棒読み)



 レオさんと一緒にカウンターへ戻ってくると、カウンターは豆菓子の包みだらけになってた…。

「…レオナルドさん、遅い。俺の菓子が…。」

「ニックぅ、この菓子美味えな。今度、酒場でツマミに出せよ。」

 半泣きのニックさんと豆菓子をボリボリ食う師匠。

「出しませんから! コレ、玉鳩たまばとの日(※地球の六曜や干支紀日に似た民間の古い暦)にしかでない数量限定の菓子なんですぅ! 朝から並ばないと買えない貴重な菓子! うう、やっと一箱だけ買えたのにぃ…。」

「はー、コレだからニックは。ただの豆だろ?ちょちょちょーいと真似して作れよ。」

「ちょちょちょーいで作れねえわ! ソレ、限定菓子っつーてんでしょ!」

 …無茶振りが酷いモンスタークレーマー感しかない。

「俺らは用事があるからもう行くわ。じゃあ、また夜にな。」

「ちょっとレオナルドさん! この人も連れて行って!! 野放しにしないで!!」

 ニックさんが助けを求めてきたが、レオさんは知らんぷりを決め、じゃあなと片手を上げ出口に向かって歩き出した。
 ああ、お触り禁止案件ですか。賛成です。
 俺もレオさんついて斡旋所を後にした。

 つもりだった!!

「なあなあコウちゃん、オレも一緒に行くぜ~?」

 肩をガッチリ師匠に掴まれた。
 …こ、これは、この前と同じ引き留めウザ絡みの予感!

「えっ、ちょ、師匠?」

「ふへへ、やっぱ師匠ってコウちゃんに呼ばれんのアリだわ。レオナルドぉ、オメエにあの雑魚下僕やるからコウちゃんはオレの弟子な。」

 ああああ!! うっかり師匠って言っちまったあああ!! 俺のバカああああ!!

「アホか。コウはやらん。お前、どうせ夜飲みにくんだろ? それまで黙って宿で寝てろ。お前がくっ付いてくるとトラブルしかねえんだよ。」

 ペシっと師匠の手を払い俺を引き寄せる。

「お? やんのか?」
「絡むな、バカ。」

 ゲス笑顔師匠と不機嫌顔レオさんがメンチ切りあっている。
 ああああ、カツアゲ現場でカチあったチンピラv.s.不良かよ!! ヤメテ、バイオレンス!!

「すいませ~ん、内輪での痴情のもつれは表でやって下さ~い。」

 ニックさんが帰れ帰れと言わんばかりにcloseと書いた札を掲げている。
 いかん、このままチンピラv.s.不良になったら俺まで斡旋所出禁待った無しの気配。…やるか、アレを。アレなら止められるかもしれん。


「…ワタシの為に争うのはヤメテー!(棒読み)」


 2人の間にザッと割って入り、両手で2人の間を押して広げ…、られなかった…! くっ、コイツら体幹強すぎる! なんか俺、筋肉に挟まれに行った人にみたいになったじゃん!

 が、一応静かになったようだ。

 …ふぅ、やれやれ、やはりコレは効くな。よく言い争いする山川田対策用の技で、コレをやると笑いで有耶無耶にできるんだよね。全然熱意がこもってない棒読みがポイントだ。

「「………。」」

 …あ、あれ?なんで2人共真顔で俺を見下ろしてんの? そろそろ笑うトコじゃないの…?

「…ええと、さっきのは置いといて。こう言う所で喧嘩はちょっと感じ悪いなって…。あと俺、2人には喧嘩して欲しくないな、なーんて…。」

 …あの、そろそろ無言は、スベった感が増して…、ツライです…。あとこの筋肉の隙間、狭い、タスケテ…。

「…エイトール、いいな?」
「…仕方ねえ。」

 レオさんと師匠が溜め息をつき、詰めていた間を広げる。

「ほんとコウちゃんは小悪魔だなあ。そこもたまんねえけどな。じゃあ、夜にまた会おうぜ。レオナルドぉ、酒代たんまり持ってこいよ。」

「一杯は奢ってやるさ。あとは自分で出せ。」

 イーッと歯を剥き出して首を切るポーズをし、師匠は外に出て行った。

「…はあ、相変わらず面倒な奴だ。コウ、待たせたな。一旦、俺の家に寄ったら昼メシだ。」

「レオさんの家?」

「ああ、いちに近いトコにあるから荷物置きがてら寄りてえ。いい加減着替えてえしな。それにコウも、な。」

 背負っていたバックパックを軽くポンと叩く。
 そう言えば貴族っぽくするんだっけ。すっかり忘れてた。

「オッケー。先にレオさん宅にお邪魔しますか。」

「ま、寝に帰るだけの何もねえ家だけどな。…ニック、騒がせたな。また夜に邪魔するぜ。」

「ホントにね! 次はお静かにお願いします!」

 ぷりぷりするニックさんにレオさんは、はははと笑いながら斡旋所の扉を抜けた。



 斡旋所を出てメインストリートまで戻り、馬車ロータリーの方へ歩き出す。

「あの真ん中の対になってる白い建物が街役場と教会の神殿さ。街のシンボルにとどっかの有名建築士を呼んで建てたらしいが、アレは張り切り過ぎなんだよなあ…。」

  対になる建物にはひとつずつ向かい合わせにデカいシャチホコ…いや、なんだろう、あの魚のような狛犬のような謎の生物…。デデーンと謎の生物の屋根飾りが乗っかっていた。
 前衛アート的すぎて中華系のコンセプトが全くわからない謎テーマパークみたいだ…。

「レオさん、アレはどう言う生き物?」

「アレか? キーヅゥとか言う名前らしいが俺もよくわからん。一応、その建築士が言うには無病息災とか繁栄とかのご利益があるモンらしいがな。」

 レオさんは肩をついっとあげ首を横に振った。
 いきなり流行る地球の民間伝承の神様みたいなヤツかな…?

「うちのダンジョン守護神みたいだね。」

「あー、似たようなモンかもな。」

 謎の生物キーヅゥに見下ろされながらメインストリートを進むと、あたりは街の入口とはまた違った賑やかな通りになってきた。どうやらこの辺から地元の商店街、多分いちなんだろう。道の両脇は店舗型の商店、道の真ん中は色鮮やかなタープが張られた露店が並び、賑やかな売り手の呼び込みが響く。

「お~、アジアの露店マーケットみたい!」

「田舎の割になかなか賑わってるだろ? リオガの胃袋ってとこだ。」

「すごい。俺の住んでた所にはこう言うのはあんまりなかったから食べ歩き楽しみだ~!」

「ははは、色々あるから楽しみにしてくれよ。って、楽しみのトコ悪いがまず俺の家が先だ。あっちの居住区にある。」

 いちを外れて少し静かな通りを進む。建物が二階建ての石造の建物から少しずつ木造の二階建てになっていき、その内一軒家ばかりの閑静な住宅地になってきた。庭付きのお屋敷もちらほらと出てくる。

「ああ、アレだ。あの家だ。」

「……?」

 レオさんが指差した家は、


「めっちゃお屋敷じゃん…。」


 レオさんが寝に帰るだけと言った家は庭付き一戸建て。但し、立派な門ありな煉瓦造りのデカいお屋敷であった…。

「…実家だからな。まあ、家のモンは帝都に移り住んで誰もいねえから、ガワは立派に見えても中はすっからかんさ。」

 …そう言えば、レオさんちはアーロ公家こうけの分家って言ってたわ。爵位無しの平民とか言ってたけど…。

「アパートみたいなの想像してたから驚きマシタ…。」

 俺と同じ独身貴族な慎ましいアパート住まいだと思ってましたよ…。お坊っちゃんめ…。

「ああ、いい加減手に余るからアパートに移り住んでもいいんだがな。こんな所で立ち話もなんだから入ってくれ。」

 大きな門の脇には小さな門があり、そこが普段人が出入りする門のようでそこから中に入って行った。

「ちょっと待っててくれ。コウも自由に出入りできるよう認証を替えるな。」

 レオさんが玄関の戸に付いているドアノッカーを捻る。カツンと何かが外れる音がすると、ドアノッカー部分が引き戸みたいに開いた。開いた所に丸い石が埋まっており、レオさんはそこに手を当て小さく何か呟く。

「コウ、ここに向かって『ひらけ』って言ってくれ。」

 お、これ、もしかして音声認証か。結構、コッチって音声系の技術が地味に進んでるよな。

「わかった。ええと、『開け』。」

 キリキリとドアノッカーの奥で歯車が回る音がし、チンッと昔ながらの電子レンジの温め終了音がした。

「コレで大丈夫だ。試しに開けてみるか。コウ、ドアノブに触れて『開け』と言ってみてくれ。」

 ドアノブを握り『開け』とひと声かける。

カチャリ。

 鍵が開く音が聞こえた。押してみると戸が開いた。

「ようこそ、当家へ。異国より遠路遥々当家へお越しくださり光栄でございます。…はは、なんてな。」

 胸に手を当てカッコよく紳士のお辞儀をキメるレオさん。
 …おわあ貴族! めっちゃお貴族サマだわ! 前もサマになってるなって思ったけど、元本職?だもんなあ。そりゃ、サマにもなるわ。

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