異世界転職先がダンジョンな訳だが?

そーまこーた

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健全黒字経営目指します!

それ等価交換??

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第67話 それ等価交換??



「…はあ、ほんとクソジジイだぜ。」

 レオさんが渋々とポケットからちょっとクシャっとなってしまった緑の紙を取り出す。
 確かあれって手形だっけ?領収書かと思いきや小切手みたいに払い出しできるヤツ。

「見たら分かると思うが…、この報酬手形にとんでもねえ金額が書いてんだよ。ニックに見せる前までは偽モンだと思ってたんだがよ…。」

 手形をテーブルの上に皺を伸ばして広げた。
 あ、それ俺のハンコ押してある手形だ。

「…は?なんだコレ?」
「…何だ、コレは?」

 ジュードさんと師匠が真顔だ。…わかる、100万トニー、日本円で10億円が目の前にあったら俺もまず真顔で何これ?って聞くわ。

「ジジイ、これは間違いなく報酬手形だよな?念の為調べてくれ。」

 ジュードさんが手形を受取り執務机に向かう。机の引き出しから手形と同じサイズの板、地球のちょっとお高いレストランなんかで使ってるカバー付きの会計伝票を挟むバインダーのような物を取り出して手形を挟む。挟むとすぐリンッと鈴がなるような音がした。
 ジュードさんは手形を取り出し、一応何か起こっていないかどうか窓から入る陽の光に透かしていたが、どうやら何もなかったようでソファーに戻ってきた。

「…斡旋所発行の本物で間違いねえ。偽モンならアレに挟んだ時点で燃えカスになるからな。…それでレオナルド、お前コレどうすんだ?全額払い出しなんて帝都の斡旋所でも無理だぞ?」

「…ガキでもわかるわ、そんな事。国庫にでも押し入ればあるかも、だろ。はあ…。」

 …気まずい。めっちゃ気まずい。確かに10億はヤバいなって思ったけど、まさかの国庫レベル…。億万長者的なのぶっちぎって国だと…。
 どうりでやたら報酬の話が軽いノリだと思った。あの時は偽モンで揶揄われてるってノリだったんだな…。

「100万トニーって、酒がなんぼ飲めるか想像つかねえなあ。とりあえず今夜はレオナルドにたかるわ。」

 プカーと葉巻の煙を吐き出して適当に指折り数えるふりの師匠。
 さすがに本物の100万トニー言われても現実味ないからなあ。師匠は一体いくらの酒で換算してるかわかりませんけど、ちょろよいだったら多分一生飲んでも飲みきれないです…。

「アホに飲ます酒はねえ。…なあジジイ、これは金額訂正できんのか?」

「出来ん事もねえが…。この署名のぬしが、直に訂正せんとならん。でもこんな金額を払い出すヤツなんて、そこいらですぐ会えるような身分じゃねえだろ?スズキ=コウなんてこの辺の国じゃ聞いた事ねえ響きだが、どこの大国の王族だ?」

 師匠がグフッと葉巻の煙にせた。ゴホゴホと激しく咳き込む。…葉巻の煙は濃いから肺まで吸ったら死にそうなるもんな。そう言う俺もリンゴ水に若干咽せた。
 …大国の王族、だと…?
 …何だかヤバい事になってきてるんでは??

「…グッ、はっ、…コウって?!?!は?!コウ?!?!」

 レオさんは師匠の横っ腹に肘鉄を入れ、師匠はまた咽せた。葉巻そろそろ消した方がよいですよ、師匠…。

「…ちょっと黙っとけ。あー、もしソイツが了承したら可能って事だな。訂正は何か魔法の類は必要か?」

 ジュードさんが葉巻をとりだし、ジョキンっと口をハサミで切って火をつける。
 おお、葉巻似合う~!オジ様キャラ葉巻似合う~!
 
「訂正は斡旋所で所長の立会いだな。訂正に必要な魔法は俺達がかけるが魔法は秘匿だ。まあ、署名のぬしがいねえ事にゃ何もはじまらねえよ。はー、払い出しは月1000トニーくらいの分割にしてくれよな。斡旋所が潰れちまうぜ。この歳で無職は泣きが入るわ。」

 プカーと煙を吐き出してお手上げポーズだ。

「またマーシナリーでもやりゃあいいだろ、ジジイ。…はあ、仕方ねえ。おい、ジジイとエイトール、今からちょっと口外禁止の契約結べ。署名のぬしについてだ。」

 ふえっ、口外禁止の契約?!そんな大事になんの?!

「俺はいいぜえ?そんかわり、今日の夜はオメエの奢りだからな?なんならちまいの君と一晩しっぽり飲み明かしの権利でもいいぞ。」

 あら、意外!って、多分署名のぬしが誰かわかったからだろうなあ。めっちゃ俺をみてニヤニヤしてる。…つーか師匠、俺にも集る気なのか?一晩でどれくらい飲むつもりなんだ??

「酒ぐらい俺が奢る。ジジイ、契約はどうだ?」

「俺は訂正の時に守秘義務の契約あるから必要ねえだろ?」

「ジジイ、今回はちょっと特殊でよ。この場であった事も秘密にしてえんだ。」

「…ニックはどうすんだ?アイツも見たんだろ?」

 ジュードさんがソレと顎で手形を指した。
 うん、確かにニックさんも見たね。目が飛び出そうだった。ニックさんにも契約お願いするのかな?

「ニックは大丈夫だ。出がけに偽モン掴まされたって言やぁ、ヤツの今晩の笑い話のタネにでもなるさ。」

 レオさんは手形を取りペラペラと振る。

「まあ確かにその金額じゃ偽モンにしか見えねえからな。…ふむ、情報が少ねえが結んでもいい。ところでちまいのは全然喋らねえが、もう契約結んでんのか?それとも無理矢理結ばされてんのか?」

 ん?俺??

「ジジイ、まず契約だ。今回の罰則は…、利き手の親指。エイトールも同じだ。」

「は?代償デカくね?」

 師匠がレオさんを振り返る。
 レオさんは無表情でテーブルに手形を置く。
 しかし罰則に指詰めって…、どこのヤがつく職業なの…?ここ、実はVシネの世界なの…?

「小僧、お前俺の親指取ろうってのか。しかも剣聖サマの指までご所望たあ、随分業突ごうつく張りじゃねえか。」

 ジュードさんが葉巻をグシャリと灰皿に潰しニヤリと笑うが、それは口元だけで目は全然笑っていなかった。
 途端、真正面からとんでもなく重い得体の知れない何かが降りかかってくる。次第に俺の体が俺の意思に関係なく小刻みにガタガタと震え出した。
 あまりにも震えが止まらなさすぎて、隣りのレオさんへ隠れるように体を寄せギュッと目を閉じる。
 そんな俺の肩をレオさんがそっと抱いた。

「ジジイ、威圧すんのやめろ。怖がってる。」

 はわあああ、これがかの有名な威圧かーーーッ!!めっちゃ圧って感じ!!!!

「ん?おお、すまん。ちまいの悪かったな。ケツの青い小僧が大口叩いてんのが気に食わなくてよ。ほら、もう怖くないぞ?なんなら俺の隣りに座るか?」

 スッと重圧感が消えた。やっと震えが止まり目を開けると、先程までの射殺す様な鋭い眼光のジュードさんは消え、泣いた子供をあやすような優しい眼差しのオジ様がいらっしゃった。…お隣り、いいな。

「よお、つまんねえ茶番は終わったかぁ?そんなん喋んなきゃいいだろ?もしくはこの後チョイっと首でも落としゃいいんじゃね?」

 そして師匠は真面目な話は無理タイプのチンピラ顔でドクズ発言してらっしゃった。飽きたらしく葉巻カッターがわりのハサミでバツバツと葉巻を切って遊んでいた。すでに2本くらいカット済みである。
 ダメな方向に安定感ありすぎて、もう安心するレベルだよ。むしろ真面目な事を言い出したら疑うかもしれん。

「あんまりアホな事言うんじゃねえよ、小僧。契約違反のマーシナリーをぶちのめすのも俺の仕事って忘れたか?あとその葉巻代請求すっからな?」

 師匠はやべって顔をして灰皿の中の葉巻だった葉っぱを火魔法?で焼却処分した。なかった事にしたらしい。

「ジジイ、契約道具出してくれ。」

 レオさんが命環めいかんを3つ机に置いた。

「仕方ねえ。」

 ジュードさんが執務机の引き出しから、水晶玉の四角バージョンを持ってきた。
 ほー、あれが契約道具かあ。

「じゃあレオナルド、けいを。」

 ジュードさんが命環めいかんを水晶の上にのせ、レオさんにやれと顎で指す。

「いや、契約しゅはコッチだ。アレに手を乗せて『けいしゅコウ・スズキから、レオナルド、エイトール、ジュードへ「われの素性を他者へ口外しない」をけいくさびとす。けいに反する時、"利き手の親指"を代償とす。刻め、レクルト。』だ。」

 え?ちょっと、レオさん?
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