60 / 101
健全黒字経営目指します!
大きい
しおりを挟む第60話 大きい
黒騎士は店舗前の歩道、馬車道と分けるよう敷いてある石畳を無視し広場を真っ直ぐ抜けようとしている。
うわ、広場入口まで最短距離ってどんだけ効率厨だよ…。馬車きたら危ないじゃん…。
と、思ったら真ん中の駐車場の馬車に来て熊車の御者に声を掛けた。ビシィッと直立不動で黒一色の自衛隊っぽい服が軍人さんっぽい。…黒、ま、まさか…!
「準備を始めろ。」
「ハッ!直ちに準備致します、将軍閣下!」
…軍関連だった!!お触り禁止案件じゃん!!
しかもラノベ騎士団長じゃねえ、将軍様だった!確かに我が祖国の時代劇じゃ将軍様がお忍びで街のその辺ウロウロしてるけどさぁ!!
将軍って異世界もその辺うろつく職業なのかよ…。ううう、暴れん坊じゃない事を願う…。
コンコンコンッ
「キアニグ皇子、例の者でございます。」
「おお、待っていたぞ!」
バアアアンッ!
中東の王子様風のヒラヒラした白い服を靡かせてキアニグ皇子様とやらがドアをぶち破る勢いで熊車から飛び出て来た。…あ、あの時目が合った気がした金髪の人だ。
皇子が飛び出た勢いを殺し切れず、ドア付近にいた俺の方へ抱きつくようにつんのめる。
ドフッ
「…ウグッ!!」
が、間一髪黒騎士将軍様が俺に激突寸前の皇子を救出。ちょっとゴンと鈍い音がした気もするが、俺と一緒に地面に転がるよりはマシだろ…。
「キアニグ皇子、戸は従者が開けるまで勝手に開けてはなりません。本日の護衛は私しかおりませんので、御身を市井に晒すのはお控えください。あと不埒な行為もこの様な往来では慎みください。」
保護と言うか捕獲した皇子を熊車に淡々と押し込む黒騎士将軍様。有無を言わさない感じで手際が良いな。さすが効率厨、じゃなくて軍人さんって感じ。
コホンとひとつ咳払いが聞こえ皇子がドアから黒騎士将軍様に声をかける。どうやら仕切り直しのようだ。
「ハロルド、その者を中へ。侍る事を許す。」
「承知致しました。しばしお待ちください。」
黒騎士将軍様改めハロルド将軍がドアの前で一礼しこちらを振り返る。
「武器、荷物は全てこちらで預かる。出せ。」
「ええええ?!?!」
ちょっと待って、展開に全然ついてけない!!
「皇子のお側に侍るのだ。そなたは身ひとつしか許されない。無駄な時間を取らせるな。」
早く、と圧をかけてくるハロルド将軍。めっちゃ無表情で睨んでくる。この人もレオさん並みにデカいので正直近寄られると恐怖しかない。コッチきてからこんなデカい男ばっかりで、そろそろ『デカい男性恐怖症』を発症しそうなんですけど!平均身長170センチの日本が恋しいです…。
だが!怯えていてはダメだ!!バックパックにはタブレットが入ってる!!ヤバいタブレットが入ってるんだよ!!!!
バックパックの肩紐をぐっと握りしめる。
「だ、ダメですッ!!これだけは渡せません!!渡さないとダメって言うなら…、」
「言うなら?」
え、え、ええと…、
「レオさーーーんッッッ!!助けてーーーッッッ!!!!」
"お"は大声を出す、だ!!
俺の叫びは広場に響き渡り、何事かと店舗から村人が何人か顔を出した。
「おいっ!ハロルド、お前何してるんだ?!」
皇子も大声に驚きまた外に飛び出てきた。
しかしハロルド将軍閣下様は、慌てず騒がす俺の手を捻り上げ地面に押し付けて拘束した…。あのよく、犯人確保ーッ!って警察の人が馬乗りになってるヤツ…。
「痛たたたたたたぁぁぁッ!!」
折れる!折れる!腕折れちゃううう!!折れちゃううう!!!!
「黙れ。抵抗すれば折る。」
「ヒッ…!!」
ガチで折られる?!?!
捻り上げられた腕が悲鳴をあげているが、リアルの悲鳴はぎりぎり飲み込んだ。だが痛すぎてかわりに涙が溢れてくる。
「おい!ハロルド、やりすぎだ!泣いてるではないか!離してやれ!」
皇子がオロオロしながら離せと命令しているが、将軍には一向に解放する気配がない。
「御身を傷つける意思がある者を離す訳ないでしょう?これを可哀想と思うならば皇子はさっさと中へお戻りください。」
「くっ、戻るからその者を、「離せよ、将軍様。」…、レオナルド!丁度良い所に!」
レオさん来たーーーーッ!!
地面からレオさんを見上げると、めっちゃお怒りの形相だった。不良の人がメンチをきるみたいにちょっと斜めに首を傾げ、手にはあのデカいククリナイフを下げている。助けてに来てもらって何だが、ヤのつく武闘派反社会勢力の人かな…?
「やはり来たか、アーロ公。」
「俺はアーロ関係ねえって言ってんだろうが。今のアーロはお前だ、アホ。とりあえずその人を離してもらおうか。俺の大切な契約主だ。これ以上その人を傷つけようもんなら、そこのキアニグもおんなじようにヤんぞ?」
レオさんがクイッと首を斬るジェスチャーをする。
「は?!私?!」
…皇子、完全に巻き込まれ事故である。
「…相変わらずであるな。ではレオナルド殿、その物騒な物はしまって頂こう。私にも護衛義務があるのでな。」
レオさんはナイフをしまいつつも、メンチを切るのはやめなかった。怖ええ…。
ナイフがしまわれるのを確認すると将軍は俺の上から退けた。すぐにレオさんが駆け寄り、俺を抱き起こして怪我はないかと確認される。捻られた腕はまだジンジンするが、他は怪我らしい怪我はしていなかった。
大丈夫と答えレオさんの手を借り立ち上がると、巻き込まれ皇子が将軍の背後から顔を覗かせニッコニコな笑顔で手を振っている。先程までの修羅場はどこに行った…。
ちなみに将軍の背後にいると言っても、皇子もまあまあデカいヤツだった。あれ180はあるな…。クッ、この世界の平均身長は何センチなんだ…。
「レオナルド、久しぶりだな!良かったら中で話そうではないか!」
…この皇子、懲りねえな。
「だってよ、ハロルド。」
お手上げポーズのレオさんに、将軍はため息をついた。
「…レオナルド殿が同席であれば許可する。但し、私も同席だ。」
「おう、じゃあついでにリオガまで送れ。次の便があと2タトしねえと来ねえんだ。」
「ははは、リオガと言わず城に来い。私がもてなすぞ。そうだ、兄上達も呼んで歓迎会を開こう!」
将軍の脇からするりと皇子が抜け出し、レオさんの肩をバンバン叩く。レオさんは心底うんざりだと、将軍に皇子を押し付ける。
「誰が城なんて行くか。俺はリオガに用があんだよ。ハロルド、コイツちゃんと躾しろ。自由にも程があんだろうが。」
「私は教育係ではない。さあ皇子、これ以上は面倒なので中にお入りください。」
ばっさり。
…何だろう、皇子に対して不敬しまくりなこのやり取り。皇子って一国の主の息子さんだよな?レオさん敬語すらないんだが?
…と言うか全員顔見知りなのか??
「(レオさん、知り合いなの?)」
「(…それ後でな)」
小声でレオさんに聞くが、苦笑いで誤魔化された。ワケありって事?
最初に皇子が楽しそうに熊車に乗り込み、後にレオさんが続いたので俺も乗り込んだ。
将軍が乗り込む前に御者さんが声を掛けてきた。
「将軍閣下、いつでも出発できます!」
御者さん、あの騒動の中しっかり働いてたらしい。えらいな…。
「よろしい。目的地はリオガだ。乗車後、直ちに出発せよ。」
「ハッ!承知致しました!」
熊車はトズからリオガへ向け走り出した。
…とまあ、走り出したのはいいんだが、熊車の中はミッチミチに男が詰まってめっちゃシンドい。
熊車の中は座席が向かい合わせで、広さは軽自動車サイズと想像してほしい。そんな中に180超えの男3人と普通の男1人(俺は168です…)、内2人は筋肉と鎧。
どう考えてもキャパオーバーです。ありがとうございました。筋肉と鎧に膝が擦り合う距離感辛いです。
そんなムンムンな男祭りの中、皇子がご機嫌で話し始める。
「やっと会えたな。ハロルドに頼んで熊車を飛ばした甲斐があったぞ。途中通り過ぎてハーナキまで行ってしまったがな!はっはっはっ!」
「わざわざこんなど田舎に何の用だ。さっさと話せ。」
し、塩対応!めっちゃ塩対応すぎんか、レオさん!
0
お気に入りに追加
279
あなたにおすすめの小説
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

俺が総受けって何かの間違いですよね?
彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。
17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。
ここで俺は青春と愛情を感じてみたい!
ひっそりと平和な日常を送ります。
待って!俺ってモブだよね…??
女神様が言ってた話では…
このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!?
俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!!
平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣)
女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね?
モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる