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健全黒字経営目指します!
目が合うと寄ってくる
しおりを挟む第59話 目が合うと寄ってくる
「軍は怖そうだから近寄らないよ!」
「正解だな。んじゃ、まあ行くか。コウでも3タトありゃ着くさ。」
「りょーかい!あと前から気になってたけど、タトって時間の事?」
アーガが距離ならタトは時間っぽいよね。語感がタイムに似てるし。
「おう、そうだな。時はタトって言うんだ。俺らは陽見石でだいたいのタトを判断してる。」
ポーチからゴソゴソと陽見石を出して、俺に手渡してくれた。
「そこの液石のまわりに目盛りがあるだろ?そのひと目盛りがだいたい1タトだな。まあ、陽見石は朝晩がわかるだけの魔道具だから正確じゃねえよ。季節によって陽の長さが変わるからな。」
「なるほど。あ、そうだ1日は何タトあるの?」
「24タトだな。」
お、24時間制だ、わかりやすい。コッチが地球に似た世界ってほんとだな。
「地球もおんなじだよ。と、言う事は村まで3時間歩くのか…。」
「ま、頑張れ。3タト言っても15アーガなんてすぐさ。」
「はー、がんばります…。」
レオさんに陽見石を返して、トズの村を目指して街道を歩き始めた。
体感で2時間くらい、歩き詰めで少しだけ疲れが出始めた頃、周りの景色に変化が出てきた。今まではだだっ広い腰まである背丈の高い草っ原とたまに小さな林がポツリとある荒涼とした原野だったが、少しずつ草の丈が低くなり今は地球の牧草地といった感じの長閑な広い草原となった。
更に歩を進めると羊のモコモコした群れが草原に現れた。集団で草を食んでいる。
「おー、羊だ。いっぱい居るなあ。」
「ああ、この辺は毛織物が盛んでな。人より羊いるぞ。…だが、アレに囲まれると厄介だから少し急ぐか。」
「厄介?羊が?」
アレかな?よく外国で羊が道塞いで延々と立ち往生のやつ?
「ああ。アレらはやたら人が好きな性質でな。人が近づくと一気に集まって押し合いへし合いの末に、気が済むまで舐め回されるんだ…。数がいると本気で怖ええぞ…。」
レオさんはブルッと震えて腕を摩る。
おやおや、其方さん舐め回された御経験がおありなんです?…って、いやマジそれ怖いわ。小ちゃな仔犬ならまだしも、あのでかい羊がそれだとヤバい。
羊、漫画やぬいぐるみとかだとめっちゃふわふわで可愛いけど、リアル羊はそんなふわふわじゃないし結構デカいし、あとマイナス記号みたいなあの目ちょっと怖いんだよ…。動物園のおさわりコーナーにいたから俺知ってる…。
「いかない、のらない、お…さない?、す………、いや何でもないや。とりあえず羊にバレないよう静かに急ぐね…。」
勘付かれないよう、そっとたがかなり急ぎ足で羊ゾーンを抜けた…。
羊に怯えつつも牧草地から少し歩くと、街道脇に低めの石垣がでてきた。そして石垣が続く先にはポツリポツリと小さな石造りの民家。
民家は屋根が地面と繋がっていて、三角形と言うかサンドイッチ型。中々メルヘンだ。テラコッタカラーの屋根もまたいい味だしてる。
「ここがトズの入口だ。そこの道から村の広場に入ると乗り合い馬車屋があるんだ。」
石垣が少し高めに積まれた所が門で、馬車が抜ける為門扉はないらしい。
「コウ、それ。村にいる間は出来るだけ深く被ってくれ。」
パーカーのフードをチョイっと突かれた。
お?お?もしかして、定番の黒髪目立っちゃうヤツ?被っちゃう?フード被っちゃう?
フードを目深にかぶる。少し前髪を横に避ければ多分髪は見えないだろ。
「オッケー。コッチだとやっぱ黒髪って目立っちゃうかな?」
「いや、特には目立たんな。それよりその黒眼のほうが珍しい。あんまり人族にはいないと思うぞ。」
黒眼対策か~!メガネでも有れば良かったな!と言っても、俺、目がいいからメガネ持ってないんだけどね。
「目のほうだったんだ。出来るだけ見られないように俯くよ。」
「ん?ああ、違う違う、そうじゃねえんだ。トズにはやり手の押売りが居てな、乗り合い馬車の客を狙ってはあの手この手で土産モン買わすんだ。飾り旗程度で済みゃいいが、押しに弱えヤツなんかは絨毯まで買わされる。」
髪も目も関係なかったわ!くっころ…!
つーか、海外旅行の観光地押売りまんまじゃん…。絨毯まで買わすトズ村の押売りやべえな…。
「コウは特に騙されそうな顔してるから、フードで誤魔化しちまえと思ってよ。背嚢背負ってフード被ってればシーカーっぽく見える。さすがにシーカー様サマにちょっかいかける程アイツら困ってねえからな。」
特に騙されそうな顔って…。一気にスンッとなった。
村の広場は円形状で土産物屋や定食屋風の飲食店、生活雑貨屋などの店舗が外周に並び、内周は馬車用のバスロータリーっぽい感じだった。真ん中は馬車屋の駐車エリアらしく、すでに1台馬車が止まって…、いや、二頭のパンダが馬車横で草を食いながらゴロゴロしてる…。
「うわ、アレって軍の熊車じゃん。」
「そうだな…。通り過ぎたヤツみてえだな。どうりで広場に押売りが全然居ねえと思った。」
確かに広場に歩いている人がいない。店の中に人がいる気配はするが誰も表に出てこない。
「とりあえず馬車屋に入るぞ。次の便のチケットを買わねえとな。」
「了解。」
馬車屋は広場の1番奥にあり、1番デカい店構えだった。ここは貸し馬屋もやってるそうで、奥には厩舎もあるらしい。
店内は受付カウンターの他、木のベンチが何本か並べられちょっとした待合室になっていた。だが俺達以外には客は無く、カウンターにも人がいなかった…。営業してないのか?
ちょっとそこ座って待ってな、とベンチに促された。座って店内を眺めると壁には色々な種類のタペストリー。浅草とかにある外国人向け土産物屋なんかにある地名がバーンと刺繍された謎の風景タペストリー、あれに似たソウルを感じるやつ…。だって壁のタペストリー全部にトズって刺繍入ってるもん…。
タペストリーに見入ってる間にレオさんは店を出て行ってしまった。置いてかれた?っと焦ったが、カウンターへ近づくと『裏の厩舎にいます。ご用の方は厩舎へどうぞ。』と書かれた板切れがのっかっていた。どうやらコレを見て厩舎に向かったみたいだ。
安心したのでベンチに戻るとすぐに入口のドアが開き、黒い鎧を着た騎士風の厳つい男が入ってきた。
カウンターへ近づきさっきの伝言板を見た。
この人も馬車のお客さんかな?気にはなったが、あんまりジロジロ見ると絡まれそうだから俯いておく。が、何故か黒騎士が目の前までやってきた。
「そこの者、先程一緒にいた男はどこに行った?」
ひょえっ、なんか話しかけてきた!!足しか見えないけどめちゃめちゃ圧を感じるぅ…。
「え、ええと、多分厩舎だと思い…ます。」
「そうか、ならば丁度良い。私と一緒に来てもらおう。」
「は?」
は?え?何?
「そなたには謁見が許されている。すぐに参上せよ、との事だ。」
謁見?!?!
訳が分からずつい顔をあげて黒騎士を見上げてしまった。
オウ、こちらもラテン系のお顔なんですな。目力凄くて濃ゆいです。あと顎髭がダンディーですね。
でも無表情で如何にもお堅い職業騎士ポジションみたいな…。もしかして、ラノベによくいる騎士団長的なヤツだったりして。よくラノベ主人公が序盤の街で偶然騎士に助けられ展開に何故か現れる騎士団トップみたいな…。いや、こんな所に騎士団長は来ねえだろってね。うん、リアルじゃないない。
謁見とか言ってるから、この人貴族の専属護衛騎士さんかなぁ。話し方がレオさんみたいに崩れてないし。
「…え、いや、勝手に離れるとダメ、「そなたに拒否は許されない。」…、はい…。」
黒騎士が腰の剣に手をかけて、ハイかイエスかを求めてきたよ…。ソレははいと言うしかないじゃん…。
泣きそうになりながら席を立ち、黒騎士に続いて店を出る。ああああ、貴族とかめっちゃ会いたくない…。
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