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1.転職!転勤!→異世界
そいつは世知辛い話ですね
しおりを挟む第3話 そいつは世知辛い話ですね
「え…、文明が停滞…?」
「そうなんだ。長い間停滞した文明はやがて八方塞がりになり尻窄みに滅びてしまうんだよ。」
流石にリアルタイムで文明が滅びる様は見たことはないが、アップデートをあまりしなくなったネトゲがサービス終了になるみたいな現象に似てるな。
「カタチあるものいつか滅びる、それは仕方ないみたいなところもあるんだけど問題はそこじゃないんだ。」
あ、滅びるのは問題じゃないんだ…。
「なんとなく君もわかると思うけど、私達神って言うのは信仰心と言うか恐れ敬う気持ちで存在を維持してる側面があってね。形はどうであれ神の存在が確立している文明が滅びると私達は維持、つまり食うに困るんだ。君も会社が倒産したら生活に困るだろう? イミナルディアはまさにいま倒産の危機、しかし下請けの神が次代の文明を準備してなくてニッチもサッチもいかなくなり泣きついてきた。そんな訳だね。」
「はあ、確かに倒産は困りますね…。」
下請けの神って…。倒産って…。
なんだか本格的に世知辛い話になってきたな…?
「まあ、下請けが倒産したら管理元でもあるうちにも少なからずダメージがくるからテコ入れしようってね。で、うちのプロジェクトチームが色々対策を練ってシミュレーションしてみたけれど、うちが直接干渉すると文明が進むどころか世界改変してしまうんだ…。簡単に言うと『神の奇跡』が過ぎるみたいで。例えるなら糸電話から一足飛びにスマフォ文化みたいな。世界創生時なら『神の奇跡』はそう言うモノって認識を植え込むだけだから簡単なんだけど、程々に存続してる世界ではねえ…。やりすぎって言うか…。うん…。」
「あー、確かに…。」
神の奇跡言っても、さっきまで江戸時代並みのアナログ生活をしてたのに、朝起きたらスマフォのハイテクデジタル世界とかだったら人類びっくり通り越してどうしていいかわからんよな…。と言うかそんな『神の奇跡』すごい。
「存続を望むオファーとかけ離れない程度の刺激策って言うのかな、うちじゃなく外部から人を入れて少しづつ叩いてみたらどうかとチームから進言されてね。」
「 刺 激 策 。」
「そうそう。君の会社で言うならお得意様に斬新な新商品を新規に売り込むより、既存の商品のバリエーションを提案するみたいなのかな。」
確かに認知されている商品なら抵抗も少ないし、若干の目新しさに刺激を受けてあわよくば新製品も、と言う事もある。なるほど。
「…それでそのバリエーション商品は俺、なんですか…。」
「ふふ、理解が早くて助かるよ。」
イケオジ様はコーヒーを一口飲み、マグカップをゆっくりテーブルに置いた。
「色々とツラツラと話したけれど、君にこんな無茶な派遣を頼むのは適材適所と判断したからだよ。私は見る目があるんだ、神だからね。」
またもや神ウィンクがバチコーンと発動した。
クッ、そろそろ背景に星のエフェクトが出そうだよ!
大事な話が霞むでしょ! イケオジめっ!
「ところで適材適所って…、どう言う所が適材適所なんです?俺、自社の食品商材は長く勤めてるからまあまあ詳しいけれど、他に至っては普通のサラリーマンですけど?」
普通の人間は世界の管理なんてわからないんですけど…。
「ハイッ! 君、箱庭ゲーム配信者のrinrin村長さんでしょ!!」
ビシィッ! と、こちらを指差しながらイケオジ様がとんでもねえ事を言い出した!!
「ええええ?!?!」
「私、実は君の配信見てるんだ! "かもん!rinrin村"!!」
まさかの 視 聴 者 。
神、マジか。
そう、俺は趣味で箱庭ゲームの動画を配信していた。先程暴露されたrinrin村長と言うアカウントで。
昔から街づくりなどの箱庭型シミュレーションゲームが好きで、いまは世界的にも有名な箱庭ゲームにはまり、そのゲームで色々な街並みやダンジョンを一から作る作業をネットに流していた。
現実にある有名な建造物をひと月くらいかけて精密に再現をしたり、ひと癖ふた癖あるマニアックな構造の街やダンジョンを創作したりと趣味全開でやっていたら、地味にチャンネル登録者が増えてまあまあ人気の箱庭配信者になっていた(※あくまでも個人の感想です!)
「それでね、前回配信してた地下ダンジョンにいたく感動したんだ。まさか既存の洞窟を使わず、穴を掘ってアレを作るなんて…。大迷宮と隠された地下都市…。はぁ…。アレすごい。何アレすごい。」
突然イケオジ様の語彙力が消滅した。
動画のコメント欄みたいになってる。
「えっ、いや、え?」
「その才能尊い。ヤバい。ありがとう、神様。」
目キラキラしながら神に感謝している。
…いや、アナタが神では??
動画のファンの方と同じ反応に俺は一体どうしたら…。
「あ、あの、ありがとうございます。えーと、よくわからないけどわかりました。ええと、それで俺はこれからどうすれば…?」
「ハッ?! …ああ、すまない。私とした事が感動に我を忘れてしまったね。」
ふうっと一息つき落ち着きを取り戻すイケオジ様。
よかった、普通の神様に戻ってきたようだ。流石にリアルで直接視聴者サマに褒められるのは恥ずかしい。そこはコメ欄だけにして欲しい。
「改めまして、鈴木航さん。貴方を私の御使いとしてイミナルディア界へ派遣します。是非あの素晴らしいダンジョン構築技術をイミナルディアで披露して欲しい。そしてダンジョンから世界を刺激してくれ。」
「ダンジョンから、世界を刺激、する?」
「君のダンジョンはイミナルディアの未来を作る。」
未来を、
作る。
背筋がブルりと震える。
恐怖ではなく、期待に。
ドクドクと心臓が高鳴る。
多分いま、俺の人生のスタートライン。
突然脳内に見た事がない世界が広がった。
いや、見た事がある。
俺が箱庭で作った初めての村。街。国。迷宮。
但し、画面の中だけに存在する『ワールド』ではない、
ーーー本物の『世界』。ーーー
俺はゆっくり頷いていた。
「ありがとう。」
神はそっと手を差し出した。
俺はその手を取った。
と、言う訳だが! だが!
安易に手を取った俺、今大後悔である。
あの後神々しい笑顔のイケオジに分厚い契約書へ10個くらいサインさせられた。
詳細をきちんと読み込まなかった俺が悪いのだが、サイン後のふんわりとした説明で地球の俺の身柄は神の会社?の社員へ転職した事となり、勤めていた会社も自動的に退職。ついでに住んでたアパートも解約。さらには戸籍もなかった事に…って言うか! 俺と言う存在がなかった事にされでますけど?! それはどうかと思いますケド?!?!
まあ、両親は幼い頃離婚していたし、親権がある母親は俺の高校卒業あたりで再婚し新しい旦那さんの実家(北の大地)へと引っ越し、一人暮らしの社会人となってからずっと疎遠だったので特に問題はない。
それに哀しきかな社畜人生だったので親しいと呼べる友人もネット界隈くらいしかいないし、何より恋人もいない…ので、白紙になってもあまり困らなかった…、困らなかったよ…、うん。
でも何故か俺の箱庭動画だけがネットの海に残っている。勿論、顔出しも声出しもしていないから俺と言う痕跡はないが。
神、rinrin村ガチファンか…。
そんな感じで地球関連すっきり身辺整理されて、神様会社の新人社員の俺、これからイミナルディアへ転勤です。異世界転生ではなく異世界転職転勤です。
朝、アパートから出て転職転勤するまで僅か数時間。
正直、年度末一週間前に地方転勤の辞令が出た時より意味がわからんかった…。
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