異世界転職先がダンジョンな訳だが?

そーまこーた

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1.転職!転勤!→異世界

それは不思議パワーです

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第2話 それは不思議パワーです

 

 いまこのコーヒーどこから出てきた…?


「ははは、下のフロアからお取り寄せだよ。なんならチョコバーもどうだい?」

 パチンとイケオジ様がカッコよく指を鳴らすと、チョコバーが一本ローテーブル上に現れた。

「??!!」

お 取 り 寄 せ ? ! ? !

「は???? は???? お取り寄せ????」

 全く意味がわからなすぎてうっかり本音が出た。

「あーいいねー! その驚く顔が見たかった!!」

 俺はポカンとしたまま、チョコバーとコーヒー、そしてイケオジ様へと視線を彷徨さまよわせた。
 イケオジ様はその反応にニッコニコでマグカップを乾杯のように掲げ、コーヒーを一口満足気に飲んだ。

「ふふふ、いやあ、やっぱり地球界人との交流は新鮮でいいなあ。ここの連中ときたら私が何かしても全然驚かないし、むしろ無駄な事余計な事をするなと説教するんだ。酷いよね。このチョコバーをベンダーに入れるよう頼んだのは私なのにね。」

「いやいや、チョコバーの話じゃなくて!」

 チョコバーはどうでもいい。

「え? チョコバー、疲れた時に食べると…」

 チョコバーはほんとどうでもいい。

「冗談だよ、冗談。」

 半眼の俺に気づいて冗談終了のハンズアップポーズ。
 外国人特有のちょっとくどめのオーバーアクションすら様になってて、このハリウッド級イケメンは!! と言う感想しかない。
 このイケオジ様め!

「軽いチョコバージョークはこの辺にして…、ま、この状況に色々と疑問に思う事はあるだろうから、まず混乱を解く為ひとつふたつの疑問に答えよう。あと自己紹介もしようか。」

 イケオジ様がニカッと人懐っこく笑い、ゆっくり話しはじめた。

「先に疑問から。」

 まずはひとつとでも言うように人指し指を一本立てる。

「これは夢ではない。ちゃんと君は起きていて、ここに存在している。勿論私もここにいる。ちなみにここは私のオフィスだよ。」

 指が二本に増えた。話は二つ目に。

「そのお取り寄せコーヒーはね、君が座ってから私が力を使ってそこに移動させた。プロのハンドドリップとまではいかないが、サーバーから淹れたてのオモテナシの心だよ。」

「は、はあ…。」

 どうやら夢ではないようだ。ただコーヒーお取り寄せの件はよくわからない。力とはなんぞや…? 超能力的な…?
 しかし、詳しくは聞けないままイケオジ様の話はすすむ。

「では自己紹介を。私はこの地球界や隣接する幾つかの世界を管理、保守する団体の代表…えーと、君達の大まかな認識で言う神だ。管理する世界によって呼称は色々あるから、いち個人としての名前は特にないよ。部下たちからは大抵ボスとか役職呼びされてるかな。」

 目の前のイケオジ様が自己紹介と言う、とんでもない暴露爆弾を落としてきた。

「か、か、か、…神ぃ?!?!」

 いくら何でも自己紹介が自称神は爆弾がデカすぎだろう!
 夢じゃないって言われた手前、これは怪しい宗教団体の可能性しかないのだが?!
 だいたい地球「界」とかなんだよ? 隣接する世界を管理してる?! え、それは中二病並みにヤバい設定なんでは??

「ふふっ、まあ、私自身は神やボスよりは気軽な感じが好きだからイケオジとでも呼んでね。」

「い、イケオジ…、…ん?」


 …あれ?


 …いまこの自称神はイケオジと呼べ、って言わなかったか?
 …俺、自称神にイケオジって直接言ったか…?


 否、むしろほとんど会話していない。


 …もしかして、もしかして、


 心を読まれてる?!


 ゾクリと背筋を冷たい何かが走る。



 ーーー本当に、、なのか、?



「そう、だよ。」

 にこりと微笑んだ神。
 慈愛に満ちた笑顔で。

「しかしだね、神だからと言って君の全てを見透かしてる訳ではないんだ。さっきは円滑な会話の為一瞬だけ読んだけど。…でもこちらの呼称の件は、心を読んだと言うよりは、君がこちらを見る度に「イケオジ様!」って私の脳内に強く語りかけてきたんだよね。もう直接だから不可抗力みたいな? あ、あと他の思考は猫ちゃん可愛いとチョコバーくらいしか伝わってないから、心のプライバシー保護は安心して欲しい。」

 神コンプラ守ってますと目力バリバリにバチコーンっと神ウィンク。それは違う意味で俺の心に刺さった。

「うはあああ、俺が脳内に直接語りかけてたああああ!!!!」

 恥ずかしさのあまり頭を抱え横倒れにソファに突っ伏した…。

「ははは、本当に君と話すのは楽しいね。このままここでずっと話していたいよ。」

「…む、無理です…。神よ、もう、お許しください…。俺のライフはゼロよ…。」

 俺は神様相手にネットスラングまみれで会話するくらいライフが削れた。ひーん、完全にHP赤ゲージです!!

「そう言わずに。ほら、コーヒー飲んで落ち着こう? 猫ちゃん画像も見ていいよ?」

 神様ことイケオジ様が俺の隣にコーヒーを持って瞬間移動してきた。ついでに頭を撫で撫でされた。

 ああ、瞬間移動とか…。これは神…。

 神不思議パワーをはっきりと目の当たりにしストンと何かが嵌った気がした。色々な諦めがついたとも言うが。
 ノロノロと起き上がり、イケオジ様からにゃんこ柄のマグカップを受け取った。時間が経過したのに未だ温かなコーヒー、これもイケオジ様の神不思議パワーなのだろう。

 くっ…、30代頭撫で撫で…(諦め)

 一口ゴクリと感傷と共に甘党コーヒーを飲み込んだ。あ、これ程よく甘くて美味しいな。
 ちなみにネコチャン画像は見なかった。かわりに心のネコチャンを脳内で撫で撫でした。

「さて、落ち着いたようだから続けようか。」

 いつの間にかイケオジ様が向かいのソファーで長い足を組みこちらを見て微笑んでいた。
 俺も聞く姿勢へと座り直し、ひとつ頷いた。

「さっき神とは言ったけれども、実際は地球界で言う管理会社の取締役みたいな者なんだよ。決定権は私にあるけれど、直接的な実務などは部下がこなしてるんだ。サラリーマンな君ならわかるだろう?」

 まあわかる。
 零細ぜろさいな中小企業は除くが、ある程度大きな企業で決定権を持つようなボスが直接保守等に向かうのはあまりない。
 そんな大物が向かう時は会社になんならかの致命的な損害が出る、もしくはクライアントから指名の緊急呼び出しくらいか。しかし、

「まあなんとなく理解しました。けど、自分がそんな大役の神様となんでここにいるかはよくわかりませんが…?」

「うん、ここからが本題だよ。実は今、私の管理する世界のひとつから存続に関するオファーがあってだね…。」

「オファー、ですか?」

 オファーって…。
 管理する世界とか神様っぽい事言ってるけど俗世っぽい。めっちゃ会社の偉い人っぽい。

「…えー、コホン。鈴木航さん、君をダンジョンマスターとしてイミナルディア界に派遣する事になりました!」

「はい?」

 ダンジョンマスター?? 派遣??

「良い返事をありがとう! さすが私が見出した人間だ!」

 キラキラした笑顔でイケオジ様が感激してる。
 って、そうじゃない。

「いやいやいやいや! それ、イエスの返事じゃないですから! って言うかオファーの話どこいった?! イミナルなんとかって何です?!?!」

 イケオジ様がオーゥ…ちょっと失敗失敗…! と言うような仕草で軽く肩をすくめる。

「おっと、話を端折りすぎたね。オファーと言うのは、先程の派遣先のイミナルディア界、人族を主体とした地球界とちょっと似てる世界なんだけど。そこから文明が長いこと停滞していて世界の存続に問題が出てきたのでなんとかして欲しいと直訴されてねえ…。」

「え…、文明が停滞…?」

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