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第十九夜 悪の騎士と囚われの姫

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第十九夜 悪の騎士と囚われの姫



 先行してボス部屋に潜りこむ。
 やはり残念ながらシェイプシフターはいまだリスポーンしておらず、ボス部屋はもぬけの殻だった。むしろ何もない。インテリアも何もないがらーんとした殺風景な石室だけである。まあシェイプシフターが勝手に擬態しないように作られた部屋とは思うが…。
 軽く打ち合わせをした後、勇者君達がくる前にちょっとした遊び心のおもてなしに死蔵していたゴーレム(インテリアの置物)を壁に沿って並べたり、髑髏どくろの土台の大型燭台(エル所有)を意味深に飾ったりした。映え的にゴージャスな赤絨毯でも敷きたいところだが、バトルでボロボロになってしまう未来しか見えないのでやめた。

「うむ、ちょっとラスボス部屋っぽいぜ。あとはエルがどーんと待ち構えれば…、」

「サイ見てー。これでめっちゃボスっぽいよね!」

 部屋の奥にどーんと設置されたのは『魔王の玉座』。
 尚、今世の魔王のではない。ナイミリのおもしろインテリアのひとつだ。
 赤の天鵞絨ビロードが張られた金ピカのゴツい王様椅子で、肘掛けの握りに牛骨みたいな頭蓋骨があしらわれ、背もたれの天辺に骨だけのスカルドラゴン2頭が頭を突き合わせ羽をぐわっと広げてる。勿論各種骨オプション金ピカだ。

「…まさかの魔王椅子じゃん。」

「んふっふっふー、トンデリング(※ナイミリの超有名木工プレイヤー)作の魔王椅子でーす! 実はトンデとは初心者時代からのフレで、たまにお試しで作ったヤツ貰えるんだ。まあだいたいは手に余ったゴミみたいなの押し付けてくるだけなんだけど…。」

「おわ、トンデリングさんとフレかよ。すげえな。…って事はこの魔王椅子、めっちゃお高いヤツでは…?」

 トンデリングさんって最新レシピをいち早く作る上、常に最高品質だし、装備の追加効果の組み合わせなんかは神すぎて、バザール(※ナイミリ内個人売買の場)のオークションに出たらすげえ高値で取引されてるんだ…。

「高額っぽいよ。いつか金に困ったら売り飛ばそうと思ってしまってたけど、あんまりにもこの椅子に興味無さすぎてすっかり存在忘れてた。だって魔王椅子だよ? 俺の趣味にはちょっと…。」

「…あー、うん。ないな。」

 エルのマイルームはモノクロの上品な感じでまとめてある。男子憧れ大人シャレオツ部屋だ。
 そこに金ピカの魔王椅子…、完全に草生えるヤツじゃんw

「トンデには悪いけど魔王椅子に未練はないね。バトルで吹き飛んでも粉々になっても無問題モウマンタイ~。勇者はよ、はよ~。」

 悪役よろしくドスンと魔王椅子に腰掛ける。
 …溢れるセリフはアホだけど、足を偉そうな感じで組んで頬杖ついてんのがボスっぽくてめっちゃサマになってんな…。ならば、

「じゃあ、…俺が倒してしまっても構わんな? 」

 ニヤリと笑ってザッと武器を暗黒騎士に向ける。いざ魔王ソロ戦、なーんてな!

「……ほお、貴様が俺を倒すと言うのか。…面白いヤツだ。暇つぶしがてら相手をしてやろう。はっはっはっー。」

 椅子にふんぞりかえったエルが俺のおふざけに乗ってきた。高笑いした瞬間に黒い邪気のモヤがブワッと追加で噴き出る。まるで正体バレした時の悪役みたいだ。
 つーかアレ、どう言う仕組みなんだろ…? 俺の持ってる大罪のスロウスの杖なんて笑おうが何しようが、あんな黒いの出なかったけど…。

「ハッ、この青月あおつきの賢者も舐められたもの。…では挨拶がわりに麗しの地獄を見せてやろう。ーーー"闇夜に囚われし黒き海、日輪ひのわに捨てられし白き月、我が身に虚ろに、混ざり混ざれ、青のいしずえに…"」
「えっ?!  それって"青月あおつき"?! マジ?!」

 エルがガシャンっと鎧を鳴らし立ち上がる。

「"来たれ、あ…、と思わせて! ただの"パワーダウン"、"パワーダウン"、"パワーダウン"、"パワーダウン"!!」

 ヴゥゥゥン!

「ウゲッ?! 」

 筋力を奪うデバフ魔法が低い唸りをあげエルを襲う。筋力を制限されたエルが鎧の重さからかグラリと前につんのめる。が、すっ転ぶ前になんとか持ち直し膝をついた。
 
「わっはっはっはー! どうだ、俺のデバフは? ただのパワーダウンだけど四掛けはなかなか効くだろ~?」

 跪くエルまで歩み寄り、コツンコツンと杖でヘルムを小突く。
 お約束のとびっきりデバフだぜい☆彡
 さあ思う存分弱体化してくれい!
 
「騙されたぁぁぁぁ!! 今絶対青月あおつきくると思ったのにぃぃぃ!!」

「うえ?!?!」

 ガション! と大きな音を立てながら鎧の騎士は立ち上がった。そして俺の腰を引き寄せ、杖を持った手を掴まえた。えええ、マジか。
 …さすが近接ランカー。俺のデバフを耐え切るとは。アレ四掛けしたら普通立てないぞ?
 筋力ダウン×4の上、エンヴィー装備で呪われてるのにぶっ倒れないとかどんだけSTR強化…。PvP(※対人戦)当たりたくねー!

「サイ、騙すなんて酷い…。しかも四掛けデバフエグい…。STR村人レベルなんだけど…。俺、勇者に倒されちゃうじゃん…。」

 暗黒騎士様ヘルムの隙間から泣き言が漏れる。まあ、四掛けはやりすぎた。

「ごめんて。ネタとして全力デバフかけた。ほら、すぐ解くから。…勇者戦のデバフは二掛けでいいか?」

 掴まれてない方の手でヘルムをよしよしする。

「…うう、なんでヘルム被ってる時にヨシヨシ…! もっと違う時にヨシヨシしてほしいですぅ! あっ、デバフは三掛けでオネシャス!」

 三掛けでいいんかい! ランカーこわっ!

「オッケーオッケー、デバフ三掛けな。"クラリファ(※ナイミリの異常回復魔法)"。」

 パチンと指を鳴らしクラリファでデバフを解除する。…別に指鳴らさなくても解除できるけどな。ノリだ、ノリ。

「ねえサイ、勇者戦終わったらご褒美にヨシヨシして?」

 禍々しいオーラの暗黒騎士は掴んでた手にヘルム越しからキスの真似事をする。隙間から覗く碧眼がフニャリと微笑んだ。

 …チッ! 暗黒騎士様のくせに、可愛いんだよコノッ!(惚れた弱み)

「しっかりキッチリ決めたらな。ほら、もう一回デバフかける離れて。」

 ぐいっとエルの胸を押したが、

「サイ大好き~!」
「グワッ、痛えっ!! やめろっ!」

 鎧ヤロウは鎧のまま抱きついてきやがった!鎧、固えし痛てえわっっ!!

「うあああああ!! 貴様ぁぁぁ、エルフ様から離れろーーーっ!!」

ドバアアアンッ!

 爆音とともに魔王椅子が吹き飛んだ。粉々になって。

「え?」
「は?」

 なんと勇者君が聖剣から聖なるナントカを飛ばして魔王椅子にぶつけたらしい。

 って、勇者君ボス部屋にもう来てたの? うっかり感知切ってて気づかなかったアーッ!

「エルフ様ぁっ! 今俺がお助けしますッ! そこの緑ヤロウ、エルフ様から今すぐその汚い手を離せええッ! エルフ様に苦痛を、これ以上エルフ様に無体をはたらくならコロスッッッ!! 」

 勇者君はいつものふんわり勇者君と打ってかわり、見た事ないくらいガルガルにイキり立ってエルに向かって聖剣をかざし吠えている。

「…(ねえサイ、勇者ってあんなイキりキャラだっけ?)」
「…(いやもっと綿飴的なふわふわ男子だったが?)」

 …俺がエルに絞められるのを見て、彼の正義魂に火でもついたのかな?

「エルフは至宝! 世界の唯一無二の宝! 推しとか言うつまらない言葉で収まらない至高の存在! つまり神! 尊い!! そんな神に抱きつくなんて…、断罪あるのみ!!」

 あ、違う。ガチのエルフ沼の子だ…。むしろ狂信者…。

 勇者君(エルフ狂信者)の豹変っぷりに、後ろに続いていた王子達は驚きを隠せない…。が、勇者君(エルフ狂信者)に恐ろしい勢いで戦闘配置の命令をされ、よくわからないまま武器を構えた。

「ふっ、何かつまらぬモノがキャンキャン吠えてると思えば、勇者とか言うチンケな駄犬ではないか。…駄犬には理解が出来ぬだろうが、この美しいエルフは俺の妻になる者。愛しい妻に夫が触れるを何を持って罪と? バカめ。断罪とは片腹痛いわ!」

 わーはっはっはっはーっ!と高らかに大笑いのエル。

「…(え、ちょっとエルさん?  これどんなシナリオ?)」
「…(攫われたヒロインって感じでヨロ♡)」
「…(雑すぎる…)」

「エ、エルフ様を妻にだと?! 羨ま…いや、許さん!! 悪は完膚なきまで叩きのめす!!…緑ヤロウ、エルフ様から早く離れろ!」

 勇者君(エルフ狂信者)はどうやら俺に攻撃が当たるのを懸念して、緑ヤロウ(笑)に飛びかかりたいのをギリギリ抑えてるようだ。
 そう言う優しいとこは勇者なんだよな~。エルフ強火狂信者だけど。

「ククク、俺から取り返す力もないとは哀れなものだ。さあ我が妻よ。お前に纏わりつく害獣をここで始末してやろう。高みの見物を楽しむがいい。」

 エルは腰につけたアイテムポーチから小さな玉を取り出し、俺の体にチョンと押し付けた。

「うわっ?!」

 玉からロープが飛び出し体にグルグルと巻き付いた。あっと言う間に体の自由を奪われる。

 …ええ、モンスター捕縛玉じゃん。これリアルだと人にも使えるのかよ。

 自由を奪われた俺は、エルに姫抱っこされ奥のゴーレムの近くに座らされた。ちな、エル所有のフカフカクッションをこっそりケツに敷いて貰った。ありがたい。

「…(おい、まだデバフかけてないけどやれるか?)」
「…(何とかするよ。ダメな時は声かけるね。)」

 エルは痛くないよう軽くハグして勇者の元へ向かった。
 去り行く背中から黒いモヤがやばいくらい立ち昇ってるのは何故…。魔王か…?

「来い、雑魚が。」

 手でクイッと挑発ガチ煽りをキメると、ブチ切れた勇者君(エルフ狂信者)が襲いかかってきた。

 ナイミリランカーエル様による手抜きいや接待バトルの始まりである…。
 がんばれ、勇者パーティー。ある意味魔王戦だ。

 バトルは想像通りエルの掌で転がされる展開。
 つーか、エルよ。呪いで素早さ下がってるんじゃなかったのか? たまに早すぎて残像出てますけど?
 物理攻撃を全く当てられない勇者パーティー。たまに振るわれるエルのへなちょこ剣がパーティーのラインを崩す。頼みの綱の魔法使い君も魔法を撃つタイミングを上手く掴めない。神官君も結界を厚くする以外なかなか攻勢に打ってでる手が回らない。
 エルの素早さに翻弄され、ただじわじわと体力が削られていく。

「クッ! コイツただの暗黒騎士じゃない!」
「光魔法が効かないよ?!」
「チッ、動きが早すぎて詠唱が間に合わないっ!」
「落ち着けっ! 俺が囮になって惹きつける!」

 あー、あまりの強敵っぷりに若干恐慌状態だ…。ゴブリン戦の連携はどこいった…。


「勇者様! ソイツに状態異常を死ぬほどかけて!」

「「「「「えっ?!」」」」」

 突然の鶴の一声に全員がコチラをふりむいた。
 特にエルは驚きすぎたのか、安物の剣を取り落とした。

 ふっふっふ、いくらなんでも勇者君達が可哀想すぎたのでアドバイスする事にきめたんだよ!
 さあさあ、勇者のターン始めようぜ!



<次回予告>

至宝と呼ばれるかの人は悪の腕に囚われた。
彼らはなす術もなく巨悪の牙に倒れるのか?
次回、見出した活路に。『第二十夜 選択は』
お楽しみに。

「哀れなシャチクに魂の救済を!」

※次回予告はあんまり本編に関係ありません。
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