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伝承の地へ
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そんなこんなで道中適当に野宿し、翌朝俺達はベレス山の中腹に辿り着く。
本当は頂上に用事があるんだけど、風龍エグゼニが嫌がって頂上には直で行けなかったんだよな。
(そんな事よりも……)
周囲は兎に角真っ白の銀世界……。
遠くに見える木々も積雪して、白いものがもっさりしてるし、空も雪雲に覆われ今にも雪が降ってきそうな雰囲気がある。
当然吐く息も白い……。
「冷えるな……」
「ホント、装備を新調してて、良かったね!」
俺達はお互いの服装を見て、深く頷く。
いつもの風揺らぎシリーズの上に着こんだ黒いモフモフのダークウルフの毛皮服と靴と手袋。
親切魔法加工で、水をはじくため重くならない優れもの。
当然すっげーあったかぬくぬく仕様です!
「ウォン!」
俺が背負ったリュックの上に乗っかっているユキもなんだか嬉しそうなのが、とても複雑な気分だったりする。
更にはバグナバクナのお店から買った、魔道具【ホットペンダント】。
現代の首に下げるチャージ式ホッカイロみたいなもので、何でもファイヤードラゴンの火炎袋を上手く加工して作った物で1回魔力チャージすると数時間は持つらしい。
魔法アイテムだったからか、値段は合計で金貨2万枚くらい吹き飛んだけど、俺ら7魔将討伐や領主関係で、たんまり謝礼金もらっているので、お店とその品物揃えるくらいはお金はまだ潤沢にある。
「雪がやんでる今が登山するチャンスだね!」
「おう!」
俺達は楽しく話しながら、なだらかな雪道を登山していく。
「なあ、レノア? この山ってどんなとこなんだ?」
(というのも、何故か冒険者や商人の間でも話題にならないんだよね……)
あの物知りなギルド長からも何にも聞いたことが無いしね。
「昔ね……私が小さい時にパパから一度だけ聞いた話なんだけど」
「うん」
「ここは昔バグナウ族が住んでいた故郷なんだって」
「えっ!」
だからか、俺はバグナバクナから聞いた伝承の話を思い出してしまう。
「故郷だったって……。確かバグナウ族と魔族達の争いはバグナウ族が勝利したって聞いたんだけど?」
「それね、なんでも戦争に勝利する為にこの地を犠牲にしたんだって……。詳しくは知らないけどね」
「そっか……なんか色々あったんだろうな」
「うん……」
(もしかしたら、話題にならないのもなにかしろ意味があるのかもな……)
そう、例えば誰も近づけさせないために……とかね……。
(それでなくても、亡びた故郷とか不気味で寄り付きたくはないだろうし……)
話の内容が暗いからか、俺達はしばらく無言で坂道を登って行く。
植物以外の生物の気配を感じないからか、周囲は不気味なほど静まり返っている。
それから数十分後……周囲の景色はひたすら白い雪景色……。
なんというか、モンスターの気配すらないのが正直、不気味だ。
(はあ……こりゃ、まだ魔の森の方がましだな……って?)
「あっ! よくよく考えたら黒賢狼ダークファングを呼べばよかったんじゃ⁈」
最強の使い魔だしね。
「す、杉尾それなんだけれど……」
「うん?」
「ここ、魔法が一切使えないっぽい……」
「え? ええっ!」
俺の大声が真っ白い銀世界に響き、隣の山の木々に積もっていた雪が少し、どさり……と音を立てて静かに落ちる……。
「しっ⁈ 杉尾っ、しっ⁈」
「ご、ゴメン! 大声だと雪崩が起きるよね?」
俺達は色々ビビッて、小声でボソボソと話していく。
(それはさておき、魔法が遮断される何かがここにはあるってことか……)
「なんか俺、ここにモンスターが住み着いていない理由が分った気がする」
「僕も……。これじゃ、色々めんどくさくて誰も寄り付かないよね……」
「道中何も無いからつまんないしね」
「僕も杉尾がいなかったら、リタイヤしてたかも……」
「えっ⁈」
レノアのさりげない一言に、俺は思わず足が止まってしまう。
「お、俺も、レノアがいなかったら、さっさとリタイヤしてたかな……」
(というか、こんなに頑張れていなかったとつくづく思う)
「あっ!」
その時、気が緩んだ為か、レノアは氷が張った場所を歩いてしまい、ずっこけそうになる。
「あ、危ないっ⁈」
俺は咄嗟にレノアの手を引っ張り、力強く引き寄せる!
結果、レノアを思いっきり抱きしめてしまう俺。
「ほ、ほら? ボーっとしてると危ないぞ?」
「う、うん……」
(……って、あれ? レノアさん?)
何故か、俺からなかなか離れようとしないレノア。
「ご、ゴメン、なんだか足がすくんじゃって……。しばらくこのままいいかな?」
「えっ! あ、うん……」
確かに、少し驚いたからかレノアは少し震えていた。
(あ、そっか、冒険者とはいえ、よくよく考えたらレノアは女性なんだよなあ……)
しかも、現在はこの大自然が厳しい雪山のど真ん中で、頼りの召喚魔法が使えないと来たもんだ。
(皮肉な話だが、ギルド長に剣術を習っといて正解だったな……)
実際、そこそこの自信はついているので、「俺がなんとかしなければ」というエネルギーが湧いて来るしね。
「よしよし、安心しろレノア……。魔法が使えなくても俺にはボウガンとギルド長に習った剣術がある」
「う、うん……」
(それにいざという時は……例のスキルを使ってお前とユキを守り抜いて見せるさ……)
俺はレノアの華奢な体を優しく片手で抱きながら、そっと肩をたたき励ますのだった……。
本当は頂上に用事があるんだけど、風龍エグゼニが嫌がって頂上には直で行けなかったんだよな。
(そんな事よりも……)
周囲は兎に角真っ白の銀世界……。
遠くに見える木々も積雪して、白いものがもっさりしてるし、空も雪雲に覆われ今にも雪が降ってきそうな雰囲気がある。
当然吐く息も白い……。
「冷えるな……」
「ホント、装備を新調してて、良かったね!」
俺達はお互いの服装を見て、深く頷く。
いつもの風揺らぎシリーズの上に着こんだ黒いモフモフのダークウルフの毛皮服と靴と手袋。
親切魔法加工で、水をはじくため重くならない優れもの。
当然すっげーあったかぬくぬく仕様です!
「ウォン!」
俺が背負ったリュックの上に乗っかっているユキもなんだか嬉しそうなのが、とても複雑な気分だったりする。
更にはバグナバクナのお店から買った、魔道具【ホットペンダント】。
現代の首に下げるチャージ式ホッカイロみたいなもので、何でもファイヤードラゴンの火炎袋を上手く加工して作った物で1回魔力チャージすると数時間は持つらしい。
魔法アイテムだったからか、値段は合計で金貨2万枚くらい吹き飛んだけど、俺ら7魔将討伐や領主関係で、たんまり謝礼金もらっているので、お店とその品物揃えるくらいはお金はまだ潤沢にある。
「雪がやんでる今が登山するチャンスだね!」
「おう!」
俺達は楽しく話しながら、なだらかな雪道を登山していく。
「なあ、レノア? この山ってどんなとこなんだ?」
(というのも、何故か冒険者や商人の間でも話題にならないんだよね……)
あの物知りなギルド長からも何にも聞いたことが無いしね。
「昔ね……私が小さい時にパパから一度だけ聞いた話なんだけど」
「うん」
「ここは昔バグナウ族が住んでいた故郷なんだって」
「えっ!」
だからか、俺はバグナバクナから聞いた伝承の話を思い出してしまう。
「故郷だったって……。確かバグナウ族と魔族達の争いはバグナウ族が勝利したって聞いたんだけど?」
「それね、なんでも戦争に勝利する為にこの地を犠牲にしたんだって……。詳しくは知らないけどね」
「そっか……なんか色々あったんだろうな」
「うん……」
(もしかしたら、話題にならないのもなにかしろ意味があるのかもな……)
そう、例えば誰も近づけさせないために……とかね……。
(それでなくても、亡びた故郷とか不気味で寄り付きたくはないだろうし……)
話の内容が暗いからか、俺達はしばらく無言で坂道を登って行く。
植物以外の生物の気配を感じないからか、周囲は不気味なほど静まり返っている。
それから数十分後……周囲の景色はひたすら白い雪景色……。
なんというか、モンスターの気配すらないのが正直、不気味だ。
(はあ……こりゃ、まだ魔の森の方がましだな……って?)
「あっ! よくよく考えたら黒賢狼ダークファングを呼べばよかったんじゃ⁈」
最強の使い魔だしね。
「す、杉尾それなんだけれど……」
「うん?」
「ここ、魔法が一切使えないっぽい……」
「え? ええっ!」
俺の大声が真っ白い銀世界に響き、隣の山の木々に積もっていた雪が少し、どさり……と音を立てて静かに落ちる……。
「しっ⁈ 杉尾っ、しっ⁈」
「ご、ゴメン! 大声だと雪崩が起きるよね?」
俺達は色々ビビッて、小声でボソボソと話していく。
(それはさておき、魔法が遮断される何かがここにはあるってことか……)
「なんか俺、ここにモンスターが住み着いていない理由が分った気がする」
「僕も……。これじゃ、色々めんどくさくて誰も寄り付かないよね……」
「道中何も無いからつまんないしね」
「僕も杉尾がいなかったら、リタイヤしてたかも……」
「えっ⁈」
レノアのさりげない一言に、俺は思わず足が止まってしまう。
「お、俺も、レノアがいなかったら、さっさとリタイヤしてたかな……」
(というか、こんなに頑張れていなかったとつくづく思う)
「あっ!」
その時、気が緩んだ為か、レノアは氷が張った場所を歩いてしまい、ずっこけそうになる。
「あ、危ないっ⁈」
俺は咄嗟にレノアの手を引っ張り、力強く引き寄せる!
結果、レノアを思いっきり抱きしめてしまう俺。
「ほ、ほら? ボーっとしてると危ないぞ?」
「う、うん……」
(……って、あれ? レノアさん?)
何故か、俺からなかなか離れようとしないレノア。
「ご、ゴメン、なんだか足がすくんじゃって……。しばらくこのままいいかな?」
「えっ! あ、うん……」
確かに、少し驚いたからかレノアは少し震えていた。
(あ、そっか、冒険者とはいえ、よくよく考えたらレノアは女性なんだよなあ……)
しかも、現在はこの大自然が厳しい雪山のど真ん中で、頼りの召喚魔法が使えないと来たもんだ。
(皮肉な話だが、ギルド長に剣術を習っといて正解だったな……)
実際、そこそこの自信はついているので、「俺がなんとかしなければ」というエネルギーが湧いて来るしね。
「よしよし、安心しろレノア……。魔法が使えなくても俺にはボウガンとギルド長に習った剣術がある」
「う、うん……」
(それにいざという時は……例のスキルを使ってお前とユキを守り抜いて見せるさ……)
俺はレノアの華奢な体を優しく片手で抱きながら、そっと肩をたたき励ますのだった……。
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