上 下
36 / 52

祝勝会

しおりを挟む
「では、いただこうか」

 バレウム=リセル公はフォークでトロサーモンの握りを優雅に刺し、自身の口元に運ぶ……。

(ど、どうだろうか?)

 俺達は生唾を飲み込み、緊張しながらその反応を見守る。

「森の様々な栄養を育んだ結晶……そのうま味か……。エザーネスダークサーモンは産卵前に魔の森で餌を食べるのは有名な話だしな……」

 バレウム=リセル公は深いため息をつき、片手に持っていた白ワインを飲み干す。

「君……すまないが、おかわりと炙りもいただけるかな?」 
「あ、すまんが儂は甘エビに卵を乗せた奴を頼む」
「私は主人と同じものを……」
 
「は、はいっ! 喜んで!」

 バレウム=リセル公とその家族達は俺の握った様々な寿司を所望している。

「や、やった!」

 俺はレノアやオヤジさん達とハイタッチし、急いでブースに戻り、おかわりを作っていく。

(成功だ! 俺達の握った寿司はここの領主に認められたのだ)

「どうぞ! 他にもまぐろやウニなどの握りもありますので良ければ……。当然炙りもあります!」

 俺はバレウム=リセル公御一行に様々な寿司を提供していく。

「おお……この寿司というのは素晴らしいな……。この酢飯とやらで美味しく沢山食べれる……」
「儂はこのライスと魚の間に挟まっている、ワサビとやらが好きじゃな……」
「私はこのマグロの握りが好きですわ……。口の中でとろけるのが、もうたまらなくて……」

「お、俺にもその寿司とやらをくれ!」
「儂もエザーネスダークサーモンの握りを!」

「は、はいっ! 直ちに! 杉尾君、頼む!」
「はいよっ!」

 バレウム=リセル公御一行が大讃美するもんだから、俺達のブース前に物凄い大行列が出来てしまう!

 よく見ると最後尾は、アホみたいに広い領主の入り口門まで伸びている感じだ。

(ま、まあ、魚はアホみたいに取ってきているから、何とかなりそうかな……)

 俺は逆転の発想でこの状況を楽しむことにした!

 こうして、俺達は日が暮れるまで、寿司を握ったり、他の料理を作ったりととても忙しく、充実した時間を送るのだった……。

 それから数時間後……。

「カンパーイ!」

 俺とレノアは乾杯の声と共に、ワイングラスを互いに合わせ、美味しくビンテージものの赤ワインを飲み干す。

 俺達はトイズデリッシュの対面にある肉料理専門店「ミートガフリエル」にて、レノアとユキと俺で祝勝会の打ち上げを行っていた。

 この肉料理専門店は昼間俺達のブースの対面に合った、この街でも有名なお店であり、料理も美味しそうだったので、俺とレノアは食事用の整った服装に着替え此処に来たってわけだ。

 といっても、例のお揃いの風揺らぎ服一式なんだけどね……。

 ユキは俺達の足元で、厚切りの極上ステーキをとても美味しそうにパクついている。

 まあ、ユキがいる関係で、例の如く2階の個室部屋にいる訳だが……。

「でも良かったね! 大成功して!」
「だな、元々トイズデリッシュのオヤジさんが頑張っていたから知名度もあったし、環境も色々良かった」

 俺達は厚切りの極上ステーキを食べながら、楽しく会話していく。

 楽しい会話に極上の料理、それに窓から見える闇夜の街明かりがとても美しく感じられる。

(本当に良かったな……)

 俺はワイングラスに注がれた透き通ったルビーのようなワインを眺めながら物思いにふける……。

『①職業チャラ男スキルの内訳 【チャラ男エンジョイ7】777スキルの運がアップ』

(そう、俺はこの瞬間をスゲー楽しめている……) 

「でも、凄いね杉尾! バレウム=リセル公から『後日邸内で寿司を握ってくれ』て頼まれるとか!」
「ああ! エザーネスダークサーモンの魚卵も大好評だったんで、他国のキャビア好きに高く売れそうだしな」

 そう、あれから俺達はバレウム=リセル公御一行から大賛辞を頂き、そのお陰で個人的に付き合う中になれたのだ。

 バレウム=リセル公が特に気に入っていたのは、加工して毒抜き出来たエザーネスダークサーモンの魚卵、別名『黒曜の宝石』。

 何でも、バレウム=リセル公が後日世界をまたにかける大商人を紹介してくれるらしいし……。

 というのも、まず、エザーネスダークサーモンが希少だし、加工出来る者も少なく、探すのも難しい。

 更には大粒の極上品の目利きもいる。

 だが、俺達ならそれを簡単に、しかも大量に仕入れることが出来る。

 ユキが探し、レノアが高速移動兼毒抜きや冷凍加工し、俺がそれを大量に運び寿司として調理することが出来る。

 目利きはトイズデリッシュのオヤジさん達に頼めばいいしね。

 というか、今日もうオヤジさん達とはその話をしてきてたりする(速っ)。

「しばらくトイズデリッシュのオヤジさん達とはウィンウインの関係になれそうだな……」
「うん! その代わりに杉尾は寿司の握り方とかをオヤジさんや従業員に教えないとね!」

 俺は、ステーキをフォークで切りながら苦笑する。

「そうだな、まさか俺がここで寿司握りを教えることになるとは……」
「大丈夫! 杉尾は人に教えるの上手だから、きっと上手くいくって。その……私にも泳ぎを教えてくれたように……」

 ちょっと照れくさそうにうつむき笑うレノアは、何だかとても魅力的に見えて……。

「そうだな……」

 俺も思わず照れながら、ワイングラスをそっと前にかざす。

「うん! じゃ、上手くいく様にもう一回カンパイ!」

 レノアは俺のグラスに自らのグラスを軽く当て、とても美味しそうにワインを飲み干すのだった……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~

厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない! ☆第4回次世代ファンタジーカップ  142位でした。ありがとう御座いました。 ★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。

妹に陥れられ処刑決定したのでブチギレることにします

リオール
恋愛
実の妹を殺そうとした罪で、私は処刑されることとなった。 違うと言っても、事実無根だとどれだけ訴えても。 真実を調べることもなく、私の処刑は決定となったのだ。 ──あ、そう?じゃあもう我慢しなくていいですね。 大人しくしてたら随分なめられた事態になってしまったようで。 いいでしょう、それではご期待通りに悪女となってみせますよ! 淑女の時間は終わりました。 これからは──ブチギレタイムと致します!! ====== 筆者定番の勢いだけで書いた小説。 主人公は大人しく、悲劇のヒロイン…ではありません。 処刑されたら時間が戻ってやり直し…なんて手間もかけません。とっととやっちゃいます。 矛盾点とか指摘したら負けです(?) 何でもオッケーな心の広い方向けです。

エーリュシオンでお取りよせ?

ミスター愛妻
ファンタジー
 ある男が寿命を迎え死んだ。  と、輪廻のまえに信心していた聖天様に呼び出された。    話とは、解脱できないので六道輪廻に入ることになるが、『名をはばかる方』の御指図で、異世界に転移できるというのだ。    TSと引き換えに不老不死、絶対不可侵の加護の上に、『お取り寄せ能力』という変な能力までいただいた主人公。  納得して転移した異世界は……    のんびりと憧れの『心静かな日々』を送るはずが……    気が付けば異世界で通販生活、まんざらでもない日々だが……『心静かな日々』はどうなるのか……こんなことでは聖天様に怒られそう……  本作は作者が別の表題で公開していた物を、追加修正させていただいたものです。その為に作品名もそぐわなくなり、今回『エーリュシオンでお取りよせ?』といたしました。    作者の前作である『惑星エラムシリーズ』を踏まえておりますので、かなり似たようなところがあります。  前作はストーリーを重視しておりますが、これについては単なる異世界漫遊記、主人公はのほほんと日々を送る予定? です。    なにも考えず、筆に任せて書いております上に、作者は文章力も皆無です、句読点さえ定かではありません、作者、とてもメンタルが弱いのでそのあたりのご批判はご勘弁くださいね。    本作は随所に意味の無い蘊蓄や説明があります。かなりのヒンシュクを受けましたが、そのあたりの部分は読み飛ばしていただければ幸いです。  表紙はゲルダ・ヴィークナー 手で刺繍したフリル付のカーバディーンドレス   パブリックドメインの物です。   

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

魔導書転生。 最強の魔導王は気がついたら古本屋で売られていた。

チョコレート
ファンタジー
最強の魔導王だったゾディアは気がついたら古本屋に売られている魔導書に転生していた。 名前以外のほとんどの記憶を失い、本なので自由に動く事も出来ず、なにもする事が無いままに本棚で数十年が経過していた。 そして念願の購入者が現れることにより運命は動き出す…… 元最強の魔導書と魔導が苦手な少女の話。

処理中です...