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レノアの知恵

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 俺達は気が付くと、あっという間にセカンドの森を抜け見知らぬ草原を駆け抜けていた。

 いや、厳密に言うと駆け抜けているのは【黒賢狼ダークファング】なのだが……。

 ユニコーン以上のスピードなのに足音と躍動感を感じない、何とも言えない不思議なこの感覚……。

 そう、俺達は現在、黒賢狼ダークファングの背に跨っているのだ。

 正直速すぎて風を感じる余裕が無かった。

『もうここらへんで良いだろう?』
「十分です!」

 レノアはにこやかに笑いながら、黒賢狼ダークファングの背から飛び降りる。

 当然俺もそれに習う。

『あとは、この【エザーネス草原】を真っすぐ南に下れば、【商業都市レザンジュ】に着く』
「なるほど、何から何までありがとうございます!」

 俺はお世話になった黒賢狼ダークファングに軽く頭を下げる。

 実はあれから俺達は黒賢狼ダークファングと交渉して、レノアの使い魔になる承諾を得たのだ。

 で、無事出口のここの草原まで連れてきて貰ったっていう。

 道中にいたモンスターも、黒賢狼ダークファングに乗った俺達には当然襲ってこなかったので、お陰様でとても楽が出来た。

『では、また何かあったら呼べ……』
「うん、ありがとう!」

 黒賢狼ダークファングは、俺が抱えているユキを見て満足そうに頷く。

 うん、まあ森の瘴気で弱ったユキ元気が草原に出て元気を取り戻したのを確認したかったんだろうとは思う。

『ではさらばだ……』

 悲しそうに俺の手元でバタついているユキを一瞥し、一瞬で見えなくなってしまう黒賢狼ダークファング。

 親である黒賢狼ダークファングは自らの体に纏った瘴気で子供が弱るのを恐れたのかも? とか考えるのは俺の深読みし過ぎだろうか……?

 それは兎も角。

「こ、怖かったあ……」
「だな。というか、俺いまいちここに安全に立っている現実味がないんだけど……」

 俺達は緊張の糸が切れどっと疲れが出たため草原の草むらの上にへたり込み、ひと休憩することにする。 

「でも上手くいって良かったな……」

 俺はペットボトルに入れていた牛乳を取り出し、それをタッパーにくみユキに飲ませる。

 美味しそうにそれを飲んで行くユキ。

「まあ、親の考えをくみ取るとこれが色々とベストな気がしてさ」

 レノアも俺が手渡した、ペットボトルから水を飲みながら話していく。

 そう、黒賢狼ダークファングがレノアの使い魔になった理由。

 それは「俺達がユキを無事一人前の狼として成長させること」だ。

「ほら! ユキ。特別にお前には焼き鳥の缶詰を上げよう!」

 俺はもう一つの空いたタッパーにそれを移して、ユキに食べさせる。

「まあ、召喚契約すれば、いつでも娘に会えるし、様子も見れるからな」 
「だね。僕達が万が一危険な目にあっても助けてくれるだろうし」

 問題は、黒賢狼ダークファングが強すぎてレノアが召喚する時に物凄いマナが必要ってことくらいか。

 なので、長時間の召喚は当然出来ず、緊急用にはなるというネックはある。

 だが、一瞬の機動力と並外れた戦闘能力が強力である為、切り札として優秀ではある。

 何といっても7魔将最強らしいからね。

 しかも、倒さずに仲魔に出来たのはデカイ。

 というのも倒したら次の7魔将がしばらくしたら、次に強い物が代わりにつくらしいしね。

 つまりは人にとって一番いい選択を俺達はしたってことだ。

「なあ? お前デカくなったらどんな見た目の狼になるんだろうな?」

 缶詰鶏肉をひたすらがっつくユキのもふもふした頭を撫でながら、俺もリュックから他の携帯食を取り出し、パクついていく。

「大人になったら、立派な漆黒の毛になったりして……」
「えっ! それはやだなあ……」

「まあね……。見た目、7魔将黒賢狼ダークファングまんまになるだろうし……」
「うう、その時はどうしようかなあ……」

 爽やかな草原の風を感じながら、俺達は携帯食を食べ終わり横になる……。

 というのも、なんでもこの森の出口付近は魔の森の近くなだけあって、アクティブモンスターが存在しない安全地帯らしい。

「で、これからどうする?」

 俺は青空を見ながらレノアに話しかける。

 というのも本当は魔の森でエリクサーなどの素材をしこたま手に入れて、加工して今から向かう商業都市で一儲けする予定だったのだ。

「うーん、そうだね……」

 レオナは俺同様横になりながらユキを撫で繰り回しながら、空を眺める。

 きっと予定変更したので、レノアも悩んでいるんだろう。

「あっ! そうだ!」
「ん、何かいい案でも?」

「うん! このエザーネス草原にもお金になりそうなものがあるんだよね!」
「お、どんな?」

 レノアは飛び起きて遠くに見える川を指さす!

「何が獲れるの?」
「エザーネスダークサーモン!」

「サーモンか……。確かに高そうではあるけど、何処にでもいるんじゃ?」
「甘いね! エザーネスダークサーモンはこの森と草原の境にしか生息しない希少種なんだ! 最も瘴気を吸っているから毒があるんだけどね!」

「え? じゃ、駄目じゃん」 
「甘いね。フグ系と一緒で毒抜きすれば上手いんだなあ。丁度今、産卵期だしね!」

「な、なるほど……。そこら辺の加工処理はレノア先生の十八番でしたね」
「そ! あとはユキちゃんがその生息場所を探せるハズなんでお任せしようかな」

(野生の勘かあ……。イノシシにトリュフみたいな感じなんだろうなきっと) 

 でも……ふと俺は疑問を抱く。

「へ? 狼って肉食じゃないの?」
「基本そうだけど、狼ってサーモンや果物も食べるんだよ」

 マジか……。

「し、知らんかった……」

 これにはビックリ仰天である。
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