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良き指導者再び

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「あ、そう言えば今日、奥さんは?」
「ん? 昨日同様、コンビニでバイトしながら索敵してもらっている」

「えっ! そんな事出来るんですか?」
「うん、出来るよ。なんてったってうちの嫁、天使ちゃんだからね? 陽菜ちゃんが回復出来るように、俺の嫁さんは索敵に特化してるってわけ!」

 これを見ろと言わんばかりに、自分の携帯のレインを見せつける力丸さん。

 『現在異常ナシ! そちらも無紅君の修行頑張ってね!』

 な、なるほど、これは心強い……。

 ということは、この前の戦闘もある程度感知して構えたってことか。

 それで石灰散布する余裕あったんだな。

 すげえよ、力丸さんの天使ちゃん。

「ちなみに、どれくらいの範囲まで感知できるんですか?」
「ある程度範囲が限られているけど、学校内くらいまでは感知出来るかな?」

 ……何故、力丸さんペアがココに配置されているか、痛い程理解出来た。

 広い範囲でも瞬時に索敵出来、かつ機動力もあり火力の高いペア。

 ……うってつけ以外の何物でもない。

「ちなみに俺らの『天使の刻印』の能力って、相方の天使の能力に左右されるのも覚えておいてな」

 再び、ブランコをキコキコいわせ、こいでいく力丸さん。

「え? じゃ力丸さんのホーミング飛び道具能力って?」
「そ! うちの天使ちゃんの能力と相性がいいから伸びた」

 じゃ、じゃあ、俺の歌の能力って、名も知れぬ、あの天使との……。

 俺は胸のペンダントを力強く握りしめる。

(……って、あ、あれ? 隣にいたハズの力丸さんの姿が見えない?)

 良く見ると、まるで振り子のように大きくブランコを漕いでいる力丸さん……って、危ないっ!

 空中に放り出されたその身は、まるで身軽な豹のようにクルリと一回転し、砂地へ華麗に着地する。

「じゃ、雑談を交えたレッドサン並びに『天使の刻印』の基礎知識入門編を終えたので、修行いってみようか!」
「あ、ハイ……」

 俺は力丸さんの、色んな規格外の説明と行動に唖然としながら静かに頷くしかなかった。

 という事で、砂場の近くまで移動する俺達。

 当然良い子の皆は、この深夜だとグッスリおねんね状態で俺達の貸切だ。

「えっとね、無紅君。結論から言わせて貰うと、キミは『天使の刻印』を現在の最大出力でしか出せてない」
「なるほど、だから、1回でガス欠になってしまうんですね……」

「そう! ということでね、今日は最小出力を頑張ってみようか!」
「え? どうやって?」

「……百聞は一見に如かず。見てな!」

 腰から例の刀を抜き、静かに上段に構える力丸さん。

「行くぞ! 蛇ッ!」

 力丸さんの気合と共に、青白い刃が目にも止まらぬスピードで振り下ろされる。

 更には右目の天使の刻印が浮かび上がり、ソレは白い天使の羽を模し……ってありゃ?

 前の天使の刻印と比べて、随分と小さいんですが……?

「え? 今回の蛇小っちゃ!」 

 そうなのだ、しかも前回は8匹いたものが今回は蛇1匹のみ。

 その黒き蛇は、砂場にあった人の姿? を模したデクに食らいつく!

 小さくても刻印は刻印、そう言わんばかりに四散するデク人形。

「……どうだ? 俺が砂で作ったレッドサンデク人形は?」

 クルリと振り向き、自慢げに親指を立てる力丸さん。

「自慢するの、そ、そっち?」

(あ、相変わらず面白い人だな) 

 ……でも、お陰で何だか余計な肩の力が抜けたような気がする。

「じゃ、次は無紅も一緒にね! 今の脱力を忘れずに、歌は【インクリスドアタックパワー】で」

 てかね、気が付くとズタ袋が複数枚、砂場近くに置いてある

 そのぼろ雑巾の様なズタ袋に砂をいそいそと詰め、レッドサンデク人形2号を手際よく作って行く力丸さん。

「はいっ!」 

 そうか! 俺が『天使の刻印』を発動した時って、ここぞという場面ばかりだった気がする。

 面接の時も、レッドサン試験の時も、そして力丸さんと共闘したこの前も。

 すげえよ力丸さん、こんな俺を無料で導いてくれるなんてさ……。

 俺は肩の力を抜き、ボリューム最小で【インクリスドアタックパワー】を歌っていく!

 俺の左目がエメラルドグリーンに輝き、ソノ光はまるで天使の羽のように広がっていく。

 今回はその羽えらい小さいケド……。

 すると不思議な事に、一刀の大きな青く光る刀は少しばかり大きくなる。

「お、コツ分ったようだね! では2発目行くぞ! 蛇ッ!」

 気合と共に、上段に構えていた青き刀を目にも止まらぬスピードで振り下ろす!

 力丸さんの右目に怪しい光が浮かび上がる。

 ソレは白い天使の羽を模し、刀にあっという間に絡みついて行く!

 やや大きめの黒き大蛇、それに大きなムカデの2匹がレッドサンデク人形2号に食らいつく!

 前回同様、砂をぶちまけ激しく四散するデク人形。

 でも、心なしか今の方が威力があった気がする。

「お、一発OKとか、流石だね? 無紅君?」
「いや、教える人が上手すぎるんで……」

 謙遜けんそんじゃなく、ホントにそうだと俺は思っている。

「またまた……口が上手いな無紅君は。じゃ、乗ってきた所で、次は中間くらいの刻印使ってみようか!」
「は、はいっ!」
  
(この人の指導でなら、きっと刻印を上手く使える様になる!)

 俺は何故か天使と歌の修行をした楽しいあの時を思い出していた。
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