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困ったぴょん

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「あ、あのっ! それで2人に話があるんだけど……」
「えっ! 俺にも……ですか?」

 その言葉を聞いたためか、俺の肩からすんなり手を放す優。

(……た、助かった。つ、爪が食い込んでめっさ痛かったんですが?)

「で、でね! もうすぐ授業が始まっちゃうから、時間が無いし、学校じゃ言いにくい内容なので、その良かったら2人の寮に行き話をしたいかなーって」
「えっ!」

 俺と優は驚き、互いに顔を見合わせる。

「チャンスじゃん優」

 俺はニヤリとほくそ笑む。

「えっ! ば、馬鹿っ! 部屋に上げるとか、ま、まだ俺の心の準備が出来てないっ!」

 顔を真っ赤にし、うろたえる優。

 うん……普段冷静沈着な優がくずれる様は、正直見てて楽しいな。

 小声でヒソヒソと話す俺と優。

「……じゃ断るの?」
「そ、そうじゃない! そ、そうだ! とりあえずお前の寮室でその話をしよう! な……?」

「……このヘタレ」

 そんな俺達のやり取りをキョトンとした顔で眺めている桃井さん。

「も、桃井さんっ! い、今決まりましたっ! 放課後、無紅の部屋でそのお話をしましょう!」
「ほ、本当っ! わー楽しみだなあ!」

 手を合わせ、俺らに微笑む桃井さん。

 満足したためか、桃井さんは小動物のように小走りで自分の机に戻っていく。

(しかし、優のヤツ……恋愛関係は本当にポンコツなんだな……)

 優の部屋で話をすれば、好感度とか上げれるチャンス沢山あるだろうに……。

「はっはっはっ! 俺も楽しみです!」

 そんな俺の思いをよそに笑顔で舞い上がっている優。

 コイツ、リアルじゃ強キャラだけど、ほんま恋愛に関してはぶっちぎりの弱キャラだろうな。

 まあ、相手が桃井さんだからかもしれないけど。

 で、時間が過ぎ、放課後、俺の部屋に3人が集うことに……。

「お、お邪魔しまーす! って、あ、すごーいVtuberのポスターが沢山貼ってある!」

 玄関で、いそいそと靴を脱いでいる桃井さん。

 よく見るとその茶色の革靴にも、ウサギ柄のマークが。

 ほんと桃井さん、ウサギが好きなんだなあ。

「どうぞどうぞ! ささ、小汚い部屋ではありますが!」

 壁から剥がれかけのポスターをチラリと見つめ、優がなんか言ってますが……。

「お、お前な……」

 俺が文句を言いかけたその時、とんでもないアクシデントが起こることに……。

「わ、わあ! 嬉しい! 私のポスターも貼ってある!」

 童のような笑顔で桃井さんが見つめるその先には、元気に両手をバンザイし、飛び上がる【ウサ天使ぴょこたん】のポスターが……って?

(え、い、今なんて言った……⁈)

「……えっ! 桃井さん……?」
「あ……」

 しばらく、なんともいえない時間が流れる……。

(えっと……まあ、俺達は昨日の段階で、何となくだけど【ウサ天使ぴょこたん】が桃井さんじゃないかって、疑ってたわけだけど……)

 まさか、昨日の今日で、桃井さん自ら大曝露するとは流石に思ってなくて。

 しかも、玄関内の開幕一番で……。

 そんなことを考えながら、俺は優と桃井さんの姿を横目でチラ見する。

 うん……2人ともまるで電池が切れたカラクリ人形のように、微動だにしない。

 あと、なんかね、目がね、どっか遠くを見つめてるんだよね。

「……ナシで……」
「え」

 意識が帰ってきたのか、桃井さんが何か言ってますが……?

「今のナシで……」 

 若干の涙目になりながら、震える声で、俺らに何か訴えかけようとしている桃井さん。

 その様子はまるで、エサを欲しがっている愛くるしいウサギさんのようだ。

「……なるほどわかりました」
「へ?」

 このメガネ何が分かったの? 正直、意味がわかんないんですけど……?

 俺はメガネ、じゃなかった優を怪訝そうに見る。

「桃井さん、もう一回玄関から入って来て貰っていいですか?」
「う、うん!」

 コクリと頷き、玄関から静かに出ていく桃井さん?

 その様子を暖かい目で見つめる優は、まるで飼育係のお兄さんのように俺は思えたがって……?

 え、ナニナニ? 何が一体始まるの?

「お、お邪魔しまーす! って、あ、すごーいVtuberのポスターが沢山貼ってある!」

 玄関で、いそいそと靴を脱いでいる桃井さん。

「どうぞどうぞ! ささ、小汚い部屋ではありますが!」

 壁からはがれかけのポスターをチラリと見つる優。

(こ、この感じ、ま、まさか?)

 そんな俺の考えをよそに、何かを期待するように俺をジッと見つめる2人。

(な、なるほど、さっきのヤツをやり直して、なかったことにするシナリオって奴ですね……。し、仕方ない……)

「お、お前な(棒)……」

 乗り気がしない俺は、棒読みのセリフで先ほど言った言葉をマンマ読み上げる。

「ば、馬鹿野郎! そんな感情がこもってないセリフがあるかあっ! ね、ねえぴょこ、じゃなかった桃井さん?」
「そうだぴょん! それじゃ駄目だぴょん!」

「も、桃井さん! だ、駄目ですよ! セリフに『ウサ天使ぴょこたん』時の語尾がついてしまってますよ!」
「あっ! ご、ごめんなさい! ついうっかり!」

 舌を出し、てへぺろする桃井さん。

「……だ、駄目ですよ。そ、そんな悩殺ファンサービスしてしまったら……もう」

 なんか知らんが、メガネは懐からハンカチを取り出し、自身の鼻を抑えている……。

 い、色々だ、駄目だこの人達……。

 特に優。

 桃井さんの天然のポンコツっぷりを限界まで引き出そうとしてしまっている。

(もう、頼むから、優の寮室で気が済むまで、コント劇場をやってきてくれないかな……?)

 優しさ故の天然ポンコツ全開の桃井さん。

 桃井さんの前だとスーパーダメ夫に変貌を遂げてしまう優。

(さて、色々どうしたもんかな……) 

 俺は頭を悩ませる。

(あ、待てよ? よくよく考えたら桃井さんのお姉さんって瑠璃さんだよな?) 

「あのぶっちゃけた話なんですが、桃井さんのマネージャーって?」 
「うん、瑠璃お姉ちゃん」

 一切の迷いなく、サラリと述べる桃井さん。

(も、もう突っ込みはいい、想定内だしね、うん……)

「桃井さん、あの実は……」

 俺は思い切って自分が最近Vtuberになったことを話す。

「あっ! じゃあ!」
「うん、結果的に同門同社の関係者になるのでOK! マネージャーも瑠璃さんだから身バレじゃない」

「そ、そっかあ、良かったあ……。私もこんな感じで色々やらかしちゃうから、学校も【VRホログラム】多様しているんだよね」
「そ、それで頻繁ひんぱんにこれなかったわけですか……」

 桃井さんの言葉に納得し、頷く優。
 
(な、なるほど……。多分マネージャー兼お姉さんの瑠璃さんの考えだとは思うけど。こ、この惨状じゃ、怖くて生身で学校に出せないわな)  

「あ、俺も実は無紅のマネージャーになってでですね……」 
「え! いいなー! 私も優君みたいに優秀なマネージャーがもう1人欲しい!」

「え? じ、じゃあ……」

 話が盛り上がり、嬉しそうに笑う優。

 そ、それは色々まずいんじゃないかな……?

 申し訳ないが、さっきの感じだとこの2人は違う内容でゴールデンコンビ。

 正直、色々炎上する未来しか見えねえ……混ぜるな危険だ!

 こ、こうなったら、と、とりあえず、別の話題を……。

「と、いうことで桃井さん良かったら俺らの先輩として色々Vの事教えて欲しいのですよね」
「あ、うん! 是非! 良かったあ……私もVで相談出来る身内が欲しかったんだよねえ……」

 正直、これが言いたかった。

(これで色々な問題が解決する、うん……)

 それから俺達は早速桃井さんと色々とVのことで相談することに。

 数時間後……。

「じ、じゃあ、帰るね!」
「あ、うん今日はありがとう桃井さん」

「うん、困ったことがあったら、レイン等で連絡いれてねー今日は楽しかったー」
「は、はい是非!」

 満足して、帰っていく桃井さんと優。

 それを見て、安堵する俺。

( いやー良かった良かった……って? あ……よくよく考えたら、桃井さんって何しにここに来たんだっけ?)

 で、翌日の放課後……。

「今日桃井さん、【VRホログラム登校】だったね」 
「ああ、多分、Vの収録関係とは思うけどな」

 俺と優は学校帰宅後、国津アルカディアのビル内に来ていた。

 地下内に天高くそびえ立つ、白き摩天楼……。

 その一室にある、テスター専用部屋。

 その中にはテスター用の机にイス、更には10台近くのPCやゲーム専用機が机の上にズラリと置いてある。

 それとは別に、その半分に何も置いていない空間があり、俺達はそこにVRスーツを装着して立っていた。

「ふむ、待たせたな。セットアップ完了だ」
「はい!」

 PCに向かい【アルカディアアドベンチャー】の起動準備をしていた瑠璃さん。

 そうなのだ、今日は【アルカディアアドベンチャー】の初テストプレイの日だったのだ。

「とりあえず、今日は初プレイなので、お前達にプレイの仕方を実戦を通して教えていく。お前達も、VRメットのスイッチを入れて私について来い」
「はい!」

 俺達は元気な大声と共に、瑠璃さんに言われた通り、メットの横にあるスイッチを入れる。

(うーん! 正直ワクワクが止まらない!)

 俺が好きだったファンタジークエストを昇華した、最新のVRソフト。

 一流ゲームメーカー国津アルカディアの技術の粋を集めて作成した【アルカディアアドベンチャー】。

 遂にプレイ出来ると思うとね。

 俺は、たまらず腰をひねったりなど、ストレッチをして今か今かと画面の切り替えを待つ。
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