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告知なしのイベント

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 翌日、イザナギ学園にて……。
 
 何やらクラスが少し騒がしい。

「今日、桃井さん久しぶりに学校に来るってよ」
「【VRホログラム】じゃない登校って何か月ぶりなんだろうな?」

 桃井さんか……。

 ファンタジークエストの桃井さんは知っているけど、クラスの桃井さんは面識がないんだよな。

 理由はさっき誰かが話していた通り、ほとんどが【VRホログラム】での仮登校だしね。

 なお、【VRホログラム】での仮登校とは。

 体が弱かったりなど、特別な理由があり学校が許可した場合に許された仮登校のこと。

 俺らの席の真上に【VRホログラム】投影機が設けられており、ソレが当人を映し出す。

 また、その投影機は当人の家に写しだし、自宅で授業が受けられるって寸法だ。

 俺も1月に1回ほど心臓の具合が悪くなったりするので、ソレを使って授業を受けることがある。

「お、おはよう。無紅君……」
「う、うおおおお⁈」

 声からして女性みたいだけど、だ、誰だ?

 後ろから声をかけられ、慌てて後ろを振り向く俺。

 そこには小、いや中学生くらいの低身長かつ、度近眼メガネの三つ編みの女の子がチョコンと立っていた。

「えっと……? どちら様?」
「馬鹿っ! 桃井さんだろ! クラスの人の名前くらい覚えておけ!」

「てか、優お前いつの間に……?」

「桃井さん、お体はよろしいのですか……?」
「あ、うん……今日はね……」

「そ、そうですか、あまりご無理はなさらないように」
「う、うん……ありがとう優君。じゃ授業はじまるから……」

 そそくさと後ろの席に戻っていく桃井さん。

 ちっこい彼女はまるで小動物のようだ。

「お前、桃井さんのこと知ってんの?」
「当然だろう? クラスメイトだぞ?」

 俺は小声で優と話す。

「ふーん……クラスメイトねえ……」

 なんというか、ピンときた俺。

「な、なんだ? 何が言いたい?」

 俺はにやけながら、後ろの席に座っている桃井さんを見る。

「なあ、桃井さんの何処がいいの?」
「ば、馬鹿っ! おまっ何いって⁈」

 顔を真っ赤にし、うろたえる優。

(この感じ、ビンゴか……。桃井さん、なんかまあ優の好みっぽいしな……)

 なんか面白そうだし、後で優を問い詰めてみよう。

 ……で、時間はあっという間に過ぎ放課後。

「なあ、ちょっと話があるんだがいいか?」

 優は真面目な顔で俺を見つめている。

「あ? いいぜ? 俺の家でストイックファイターガチろうぜ!」

 多分、あのことだろうけど、俺もVのこととかの話とかしたいしさ。

 数時間後、俺の家でVRスーツセットを身に着け、例のごとく仲良く転がる俺と優。

 あ、この対戦した後転がっている理由なんだけど、俺心臓が生まれつき弱くってさ、過度な運動をすると眩暈めまいがするから、回復する為に転がってるってワケ……。

 優の奴はこの事を知っているから、気を使って俺の横に転がってるワケで……。

(コイツ、口は悪いけどホントいい奴なんだよな……) 

 んで、今日の対戦結果は珍しく、8勝2敗と俺の圧勝。

 何というか、こんなに弱い優は初めてだ。

 原因は間違いなくアレだろう。

 完璧超人に見えたコイツにも人間らしいとこがあるんだなと、俺は少し安心した。

「なあ、優」
「……なんだ?」

「俺が勝ったから教えてくれよ? 桃井さんの何処がいいの?」 
「全部だ……。しいて言うなら、あの透き通る綺麗な目と声だな」

 ……えっと、目って……あの人、年に数回しか登校してないんですが……?

 コイツどんだけ桃井さんのこと見てんだよ?

「……桃井さんの声ってさ、Vtuberの【ウサ天使ぴょこたん】の声になんか似てね?」

 って、よく考えたら、優のやつはアニメとかVにはあまり興味ないから知らないか。

 ストイックファイターだって、ゲームというより格闘技覚えるためにプレイしているしな。

「そうか、お前もそう思うか……」
「え……?」

(あの堅物の優がVに興味を持っている?)

 その事実に俺は驚いてしまう。
 
「声は少し違うが、こう雰囲気や仕草がな……」

 【ウサ天使ぴょこたん】についてジェスチャーを交え、熱く語っていく優。

(こ、コイツ……雰囲気や仕草って、ま、まさか……?)

「そ、そうか。ところで【ウサ天使ぴょこたん】の秘蔵映像あるんだが見るか?」
「是非!」

 や、やはり、ほ、本物だ。

 色んな意味でガチの追っかけや……。

 俺はストイックファイター以外で、生まれて初めて、優に親近感を覚えることになる。

 なんやかんやで、満足して帰っていく優。

 ……たく、アイツ本当に桃井さん大スキーなんだな……。

 それはいいとして、さてと……桃井さんといえば、こちらの桃井さんは来ているだろうか?

 俺は壁時計に、ふと目をやる。

 22時になっていることを確認し、俺はファンタジークエストの世界へとダイブすることに。

 VRスーツを装着し、スイッチオン!

 で、いつもの始まりの酒場に俺は飛ばされるが?

 いつものワイワイした活気がない。

 数人のバラけたプレイヤーが離れたテーブルでボソボソと小声で喋っている状態。

 早い話、なんだが寂れた酒場状態になっている。

 おそらく、サービス終了が近いということと、アルカディアアドベンチャーのテストプレイにプレイヤーが移行しちゃった関係だろう。

 だから、自分のギルドメンも誰もインしていない。

(瑠璃さんも仕事で忙しいって、昨日言っていたしな。皆がいないなら面白くないし、俺も落ちるか……)

 と思いきや、ん? 1人だけインしている人が、いる?

「無紅君ばわ――――――!」 

 可愛らしい声と共に、前から巨大なピンク垂れ耳ウサギが手をブンブカ振りながら、元気に走ってくる。 

 うん、まごうことなくファンタジークエストの桃井さんだ。

 対して俺の服装はエメラルドグリーン色に包まれたローブとスラックをまとっている。

 早い話がお気に入りの詩人服ってやつだ。

「桃井さん、おいすー!」

 俺は無造作に桃井さんとハイタッチする。

 女性に免疫のない俺だけど、桃井さんの場合勝手が違う。

 数年間、一緒にプレイしている関係と彼女の装着しているウサギアバターの関係で、そのなんだ……異性として見れていないのだ。

 俺にとって桃井さんは、なんというか、こう、可愛いらしい妹とかそんな感じなのだ。

「にひひ――――――!」

 何やら嬉しそうな声を出す桃井さん。

「ん? なんだか嬉しそうだね桃井さん?」
「え? 分かる?」

 そりゃまあ、長い付き合いだし、声の感じがもうね……。

(一体何があったんだろうな?) 

 正直、俺には乙女心というものはサッパリもってわからない。

「今日ね! 緊急でイベントがあるんだよ!」
「え? インした時に運営から何のメッセージも入ってなかったよ?」

「あ、ほら……始まったよ!」
「あ……」

 俺は思わず感嘆の声を上げる。

 酒場の窓際から見える複数の木々。

 その木の花が一斉に満開になったからだ。

 チラチラと舞い散る薄桃色の花ビラ……。

 何とも風情があり、窓の外は華聯で綺麗な風景に……。

 周囲の連中もソレに気が付いたからか、急いで外にでたり、大声で桜にまつわる歌を出したりと文字通り、ちょっとしたお祭り騒ぎになる。

(あれ? まだ季節は2月だというのに桜の花見イベントは早くないか?)

「えっと……? これって?」
「瑠璃お姉ちゃんがね! 特別に仕様をイジくってくれているの!」

「へ、へ――――――」

 思わず感心する俺。

 まあ、よくよく考えたら瑠璃さんは運営側の人間だし……って?

「る、瑠璃お姉ちゃん?」

 思わず目をまん丸くし、驚愕する俺。

「あ、姉妹だって言ってなかったっけ?」
「は、初めて聞きましたが……?」

(と、いうことは……桃井さんもかなりの美人さんナノカナ……?)

 ソレを意識してしまい、何だか急に緊張してしまう俺。

「行こ! 無紅君」

(えっと……? ど、何処に?)

 俺の言葉が出る前に、桃井さんの高速詠唱転移の呪文が発動し、何処かに飛ばされてしまう俺達。

 見渡す眼下には、先程自分らがいた木造りの酒場が見え、町が一望できる場所にいる。

「あ、ここは……」 
「うん、そう! 始まりの山の頂上……」

 桃井さんが言った通り、始まりの町からの一番近い山。

 レベルが低い弱いモンスターしか生息していないため、安全にお花見イベントをやる最適な場所。

 町はあたり一面桜の木々に覆われる。

 ここの山の木々も同様、緑の隙間から桃色の花がポツポツと紛れ、カラフルで風情がある情景に覆われている。

「綺麗だね……」
「ああ……」

 俺と桃井さんはしばらく無言で、その情景を楽しむ……。

 もともと2人とも口ベタだからってこともあるが……。

(だからこそ、異性なのに気があったんだよな俺達……)

 俺はそんな桃井さんの様子を横目でそっと見ようとするが……。

 その時、偶然にも突風が吹き、俺の目の前は桜吹雪に覆われる。

「うわっと……!」

 たまらず目を閉じ、悲鳴を上げる俺。

「び、ビックリしたね……桃井さん……」

 俺は再び、横目で桃井さんを見つめる……が。

「あ……あ……」

 俺は再び桃井さんを見て、更に驚いてしまうことになる。
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