異世界如何様(チート)冒険記 ~地球で平凡だった僕が神の記憶を思い出して世界を元に戻すまで~

Condor Ukiha

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第三章 アオイと過去と存在意義と

#44 勇者召喚

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「・・・これは?」

 我ながらここまで低い声がでるとは。
 頭ではわかっている。この場で聞いてもしょうがないことは。でも聞かずにはいられなかった。なぜここにいるのか、僕のことを覚えているのか。そして、本当に夏希なのか。疑問はたくさんある。だが、まずは真偽の確認だろう。

「クロ」

「―――はっ」

 クロのことを呼ぶと即座に何もなかった空間に現れ、間髪入れずに返事を返す。

「教国について探れ。もし勇者と接触することがあったならば、葵という兄がいないか確認しろ。現状わかっていることがあれば、あとで報告書か何か読み返せるものにして教えてくれ」

「承りました」

 クロはそう言うと来た時と同じように姿を消した。僕も夏希と思わしき勇者についてさっさと調べるべきであろう。僕は一言断りを入れて食堂を出るとナビーを呼ぶ。

『今回の勇者召喚、事前に把握できていた?』

『いえ、今回指摘があるまで探知できていませんでした。それと今回、転移者の存在が世界書庫アカシックレコードに登録される以前の記録が一切残っていません。外部からWMOSへのアクセスログやWMOSのシステムログを確認しましたが、外部からのアクセスについては確認できず、勇者に関するログも出現感知から世界書庫アカシックレコードへの登録に関するログ以前のものを確認することができませんでした』

『またヤられたのか・・・まあ、ヤられたことに、とやかく言ってもしょうがない。僕は今回の勇者についての情報を収集して、その後世界書庫アカシックレコードのデータを精査するから、ナビーはどこから干渉されて何をされたのか調べてほしい。特に設定や管理者権限まわりを重点的にプログラム全てを初期状態と比較して。最悪、初期化後、再登録・再設定して、世界書庫アカシックレコードとかに再接続する形で復旧するから』

 ナビーの報告はある程度予想していた。まだWMOSを引き継いでから三週間も経っていないので僕もナビーも後手に回ってしまっている。しかも、まだWMOS全体を把握、制御できていない。原因は多いが、不正アクセスの痕跡が多く見つかっており、それによって何をされたのか分からないことが特に障害となっていた。今回も、勇者の登録という分かりやすい行動があったから不正アクセスを把握できたが、これが情報取得(こちらからすると情報流出)や直接影響しない設定変更などであったならば、事態の把握どころか不正アクセスがあったことにすら気づけなかったかもしれない。ログが残っていないとはそういうことなのである。
 僕らもWMOS本体の仕様やシステムについては把握済みであり、残りは設定やユーザー・管理者権限、後付けされたプログラムなのだが、それらがいつ誰に追加され何をしているのか分からないせいで全体の把握が遅れている。そもそもセキュリティーにこれをやっておけば大丈夫なんて特効薬はないのだから、把握が遅れてセキュリティーに手をつけられないのなら初期化して自分たちで設定、追加すべきだろう。
 とはいえ、初期化ということには不安もある。この世界はWMOSを中心として世界書庫アカシックレコード世界監視装置オブジェクトオブザーバー世界基礎情報ワールドベースデータなどの周辺機器によって動いている。WMOSを初期化すると思わぬトラブルが発生する可能性もある。もちろん繋ぎでWMOSの基礎機能のみで構成されたサブシステムを起動して切り替え時のシステムダウンの防止やトラブルの発生・初期化作業の延滞に備えるほか、万が一のバックアップからの復旧も視野に入れ準備を進めている。それでも、何があるかわからないのが初期化操作だ。
 また、今回、勇者の出現時点で不正アクセスを察知できなかったのは、大きな失態だ。僕が世界書庫アカシックレコードを監視できていなかった。何が行われたのか早急に確認して、対応する必要がある。しかし、外部からのアクセスを全て遮断していたはずなのにどうやって・・・

 部屋に戻るとすぐにベッドに横になる。この体勢が一番楽な姿勢であり、リソースを情報処理に全フリできる。
 さて、勇者の情報が登録されたのは6日前。名前は新名夏希。15歳。前籍地は地球。情報提供元はunknown。あとは行動履歴だけど、ここはあんまり関係ないから後回しで情報提供元の特定に全力を尽くすことにしよう。


▼△▼△▼△▼△▼△▼△


 その頃クロは、葵への報告書を書き終え、次の行動を検討していた。

「やはり、直接確認に行くべきですかねぇ?」

 そんな独り言をつぶやきながらも手元では世界各地から次々と入ってくる様々な情報を処理していく。情報と一口に行ってもピンからキリまであり、限りなく事実に近いものから事実ともフェイクとも言えないもの、完全にフェイクであるものまで、それらをまとめて取捨選択し真実に近づけていく作業をしているのだ。世界規模の情報のまとまりを別のことを考えながら止まることなく処理できるのだから、クロも常人(竜)から見れば異常である。そんな彼の手がある部分でとまる。

「これは・・・いやはや、これから忙しくなりそうですね・・・」

 クロのつぶやきは誰にも聞こえることなく曇天の彼方へ消えていった。
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