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第二章 王都と孤児院

#29 青臭い幻想と葵

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「さて、君の名前は?」

「ひぅ・・・」

 僕は一旦考えることを止めて、黒竜の少女を見る。見た目は僕より幼く、12,3歳といったところ。そんな彼女が涙目でこちらを見ているものだから別に何もしていないのにもかかわらず罪悪感を感じる。だが、これは演技なのか、はたまた天然なのか。黒竜という種族の特徴からそんなことも疑わなくてはならない。まったくなんでこんなことまで疑わなければならないのか。
  いや、これは演技などではない。それは彼女の目を見ればわかる。そこに映るのは緊張とおびえ。僕はこれからどんなことを聞かされるのか。

「えっと・・・そのぅ・・・ナナはナナなのです」

「ナナちゃんだね。僕は葵、よろしく」

「よ、よろしくお願いします・・・」

 とてもじゃないが、黒竜の一族とは思えないほどビクビクしている。まったく、この場面だけを見られたらナナの容姿や言動もあってなにか色々と誤解されそうだ。こういうのはさっさと終わらせるに限る。

「それで、どうしてナナは僕らのあとをつけていたんだい?」

「それは・・・あの、怒らないで、聞いてくれます、か?」

「ああ、怒らないで聞くよ」

「その、昨日、各地に散らばっている黒竜が、全員集まる会議?みたいなものがあって、それでご主人さまのそばに女の人が多いから、黒竜からも一人献上すべきだってなって、それで一番年の近いナナが、その役目になって―――」

「大丈夫、もう大体わかった」

 黒竜たちよ、子供になんちゅうことを聞かせてんだ。僕の周りに女性が多いことは認めるが、気づいたらこうなっていただけで別に女漁りをしているわけではないんだが。そもそも献上とは?他人にそばにいろって言われてここにいるんなら自分の意思を尊重してほしいし、自分の意思でここにいるにしても別にその人自身にしか優遇とかしないし意味ないと思うけど。
 と、こんなことはどうでもいいや。今はナナのことだね。

「それで、ナナはどうしたいんだい?」

「え?」

 僕の言葉にナナはどういうことなのかわからない、という顔をした。“そうなの、じゃあよろしく”と、でも言うと思われていたのだろうか。もしそうなのなら一度みんなの中にある僕の人物像を問わなければ。

「だから、それを受けてナナはどうしたいんだい?今、ナナが言ったのは種族の都合。でも、それを受けてナナがそれを全うする義務はない。でしょ?・・・だから、ナナ自身がこれからどうしたいのか。それを僕に教えてほしいんだ。別に何を言っても僕は怒らないし、接する態度を変えるつもりもない。単純にナナの意思が聞きたいんだ」

「ナナは・・・ナナは・・・」

 僕の言葉はナナの心に届いたのか、それとも届いていないのか。いずれにしてもナナは真剣に悩み、僕の問いに答えようとしてくれている。
 さっきの言葉は僕の本心だ。僕は望まれた通りに生きるなんてしなくていいし、そんなことをさせる周囲に嫌悪する。別に周りから望まれた通りに過ごすことを悪いとは言わないが、自らの意思を捻じ曲げてまでする価値はないと思っている。なんなら、それを受け入れた時点で僕は人という優れた知能を持つ種族の最大の利点である自らで考えることを放棄したと考える。人は考える生き物だ。この世界にも様々な生物がいるが、エルフやドワーフ、魔族といったファンタジーな人種を含むヒト族は例外なく考え、工夫し、学ぶことで繁栄してきた。それを自らの意思以外で操り人形になることで自ら捨ててしまうのはいかがなものか。
 もちろんそれが有効な場合はあるだろう。でもそれに慣れ本当に思考を停止して、うまくいかなかったときにそのシナリオを描いたモノを責めるようになったのならそれは自らの可能性を自らでつぶした愚か者なのではないだろうか。
 もっともこれは青臭い幻想で現実はもっと複雑でもっと汚く意地くさいドロドロとしたものなのだろう。だが、強大な力を持ち正しさを求められる現世でなら少しぐらい理想論を追い求めてもいいのではないだろうか。
 そんなことを考えている間にナナの中で自分の進みたい道が見つかったのだろう。先ほどとは違いその目にしっかりとした意思が感じられる。

「アオイさま、ナナをおそばに置いていただけませんか?」
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