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第2章 米沢真凛 - うまくいくようにするための魔法
第17話 (奏音視点)アタシが居るんだから
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定期試験と聞いて、アタシは中間試験から今日までの出来事を思い出した。
アタシとナツこと高橋奈津美、マリンこと米沢真凛の三人で図書室に集まって勉強をしていたら、見覚えのある男子生徒が入ってきた。男子生徒はユータで、その隣にはユータがいつも話している幼なじみが居た。
その子は見た感じでは誰にでも好かれそうな感じがした。しかし、いざ二人が座って勉強をすると彼女はユータを下手に見ては言いたい放題だった。ユータは私が居ないと何にもできない、同じ高校に入れたのは私のおかげだ、などと性悪という言葉すらかわいく思えるほどでとても気分が悪かった。
ユータは彼女の自己中心的とも取れる態度にうんざりしている様子だったが、手を差し伸べようにも差し伸べることすらできなかった。
普段は怒りを見せないアタシでも、例の幼なじみの態度には怒りに満ちた表情を見せた。
幼い日にアタシを励ましたユータはどこへ行ったの、アンタはあの幼なじみと一緒に居るような人じゃないでしょ……。
アタシの中には、ユータに毒舌の限りを尽くす幼なじみへのどす黒い感情が噴き出しそうになった。苛立ちを抑えきれず、シャープペンシルの替芯を何度折ったことか。
あと少しであの二人に割って入ろうと思った途端、ナツがアタシのことを察して席を立った。ギシッと椅子のきしむ音が聞こえるのとほぼ同じタイミングでアタシのところに来たナツは、アタシの耳元である噂を囁いた。
「ねえ、奏音が見ていて腹が立つ子って、もしかしてあの子?」
ナツの言葉に耳を傾けるとアタシは無言でうなずき、同じようにしてナツの耳元で囁く。
「そうよ。いつもユズキが、ユズキがって言っているから……」
「そっか……」
「どうかした?」
「私と同じクラスで吹奏楽部に入っている子が噂していたんだけど、同じクラスの沼倉って子と付き合っているらしいよ、その子」
「え、本当?」
ナツは無言でうなずく。いつもユータを下手に見て自分のことを持ち上げようとしている子に彼氏が居るなんて、アタシには信じられなかった。しかも、相手の男子はチア部でも話題に出るほどのイケメンだ。そんな彼があの性格の悪い子と付き合っているなんて、アタシには考えられなかった。
「その子の話によると、こないだ中央の映画館で二人の姿を見かけたそうだよ。しかも、仲良く手を繋いでいたって……」
呆気に取られたアタシに対してナツは話の続きをする。
ユータはここ最近幼なじみの様子がおかしいと何度も訴えていて、アタシはその都度様子を見たほうがいいと答えてきた。だけど、アタシ一人でこのことを抱えるには限界があった。幸い、アタシにはチア部の仲間とキッズチア時代の友達が居る。友達を積極的に活用すれば、困ったときにユータのことを手助けできるはずだ。果たしてユータに声をかける機会はあるのだろうか。
それから時は過ぎ、文化祭の日が訪れた。演技発表でセンターに選ばれたマリンは、文化祭一日目の朝から一生懸命練習をしていた。しかし、不幸なことにマリンは練習中に足を捻挫した。
「ごめん、足を挫いた……」
マリンはそう言いながら、アタシと一緒に保健室へと向かった。軽い捻挫で済んだものの、本番に臨んだ場合に響くかもしれないと思ってマリンは大事を取って休むこととなった。そこで日野先生と相談したところ、彼女の代わりとしてマリンの弟子であるナツがセンターを任されることとなった。
七月の時点で、ナツが本格的にチアをやるようになったのはここ三ヶ月だった。演技発表でのセンターなんて務まるはずがない。しかし、ナツは本来マリンがやるはずだった演技を必死になって練習していた。無論、いつもお世話になっているマリンへの恩返しも兼ねてだ。
そして次の日、ナツは見ているこっちが緊張する程に顔が強張っていた。このままではキッズチア時代からの友人であるマリンにも顔向けができない。
その時、アタシの頭の脳裏を掠めたのは幼い頃の記憶だった。あの日、悩めるアタシを導いてくれたのはユータだった。
いい機会だ、ユータに彼女のことを励ましてもらおう。泣き虫だったアタシに応援することの楽しさを教えてくれたのはユータだ。だから、きっとうまくいくはずだ。
アタシは出店の店員をしている先輩たちの影でうずくまっているナツの手を取り、こう言った。
「ナツを励ましてくれる人が近くにいるわ。全てアタシに任せなさい!」
緊張状態だったナツが無言でうなずくと、アタシはチア部の出店の裏で吹奏楽部の生徒のことについてたずねた。吹奏楽部の生徒が立ち寄ってから音楽室へと向かったという話を聞いて、アタシたちはそちらへと向かった。
引き戸を開いて中を覗くと、そこには上級生を含む吹奏楽部の男子生徒数名がお昼を食べていた。その生徒たちの中で、スマホを片手にアタシたちの出店で提供されている焼きそばを食べている男子生徒を目にした。ユータ本人だった。彼なら、幼い頃アタシを励ましたように彼女を励ますことができるはずだ。
アタシは覚悟を決めて、ナツに話しかけた。
「ナツ」
「何?」
「アタシがいいというまで、絶対にここを動かないで。分かった?」
「う、うん……」
恥ずかしながらも、ナツはうなずいた。大丈夫、なるようになる。アタシは決意して、ノックをしてから音楽室の引き戸を開けた。
「はい、どちら様ですか」
校内靴のラインの色から、三年生と思われる上級生がアタシたちに声をかける。アタシは大きく深呼吸してから上級生に話しかけた。
「お取込み中のところ大変申し訳ありません。私は一年三組の小泉奏音と申します。ここにユータ……、いえ、清水優汰君が居ると聞きました。どうか、彼とお話しできないでしょうか」
「分かりました。今からお呼びします」
先輩はそう話すと一旦その場を離れた。
それから間もなくして、ユータはアタシたちの前に姿を現した。ユータの表情は連日連夜の練習のせいか、少しだけ疲れていた。何せ生徒に無茶をさせるあの先生のことだ、相当しごかれたのだろう。
アタシが声をかけると、ユータは仏頂面でアタシに応答した。アタシはユータに事情を伝えると、ユータは渋々ながら了承してくれた。ナツが音楽室に入ると同時に吹奏楽部の先輩たちがアタシの横をすり抜けていったのは、気を遣ったためなのだろうか。
結論から言わせてもらうと、ユータが励ましたおかげでナツは見事に大役を果たすことができた。少しヒヤッとする場面もあったけれど、最後までできたから問題なし。全てはユータが励ましてくれたおかげだった。
あの時ナツを励ましたユータは紆余曲折を経て、マネージャーとしてチア部に転入部した。表向きはアタシたちのボディガードとして、そしてマネージャーとしてではあるけれど、今日からアタシたちと一緒に汗を流すこととなる。もちろん、みんなのためにいろいろと尽くしてもらうことになるけど。
「……ですから、皆さんはチア部の部員として、各クラスの応援をしてくれる生徒たちの指導をお願いいたします。分かりましたか?」
「はいっ!」
日野先生の話が終わると、アタシを含めて皆が一斉に声を挙げた。もちろん、ユータも。
これから柔軟とサイドキック二十回、それから今日はスタンツの練習か……。大変だけど、全てはアタシたちの演技を見てくれる全ての人たちのためだ。
「今日も練習、頑張ろう」
小さな声でつぶやくと、アタシは柔軟でペアになるリホこと久保田莉穂の元へと向かった。
リホはアタシよりも身長が一センチ小さく、スタイルはいつも一緒に居るナツとマリンに引けを取らない。ただし、胸の大きさではアタシよりもひと回り小さいけど。
「リホ、今日もよろしくね」
「カノちゃんもね」
お互いに声をかけると、アタシたちはいつものように柔軟体操を始めた。四月の時点では内気だったリホも、アタシたちの前では笑顔を見せるようになった。
だけど、まだまだ彼女はこれからといったところだ。あと一押しあれば、彼女はもっと素敵になれるはずだ。
アタシは信じている。ユータだったら、自分に自信のない子をアタシのように自信満々で活発な子に変えられる。
そう、あの日ユータに話した実績とはまさにそのことなのだ。泣き虫だったアタシを活発な女の子に変えたのは、何を隠そうユータだ。
これからは心配しないで、ユータ。ユータを必要としている子はここにも居るし、ひょっとしたら先輩たちもユータのことを頼りにするかもしれない。無論、ユータとキスしたナツとマリンも、ね。
日野先生と話すユータを見た後、アタシはリホとの柔軟に集中していった。
アタシとナツこと高橋奈津美、マリンこと米沢真凛の三人で図書室に集まって勉強をしていたら、見覚えのある男子生徒が入ってきた。男子生徒はユータで、その隣にはユータがいつも話している幼なじみが居た。
その子は見た感じでは誰にでも好かれそうな感じがした。しかし、いざ二人が座って勉強をすると彼女はユータを下手に見ては言いたい放題だった。ユータは私が居ないと何にもできない、同じ高校に入れたのは私のおかげだ、などと性悪という言葉すらかわいく思えるほどでとても気分が悪かった。
ユータは彼女の自己中心的とも取れる態度にうんざりしている様子だったが、手を差し伸べようにも差し伸べることすらできなかった。
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アタシの中には、ユータに毒舌の限りを尽くす幼なじみへのどす黒い感情が噴き出しそうになった。苛立ちを抑えきれず、シャープペンシルの替芯を何度折ったことか。
あと少しであの二人に割って入ろうと思った途端、ナツがアタシのことを察して席を立った。ギシッと椅子のきしむ音が聞こえるのとほぼ同じタイミングでアタシのところに来たナツは、アタシの耳元である噂を囁いた。
「ねえ、奏音が見ていて腹が立つ子って、もしかしてあの子?」
ナツの言葉に耳を傾けるとアタシは無言でうなずき、同じようにしてナツの耳元で囁く。
「そうよ。いつもユズキが、ユズキがって言っているから……」
「そっか……」
「どうかした?」
「私と同じクラスで吹奏楽部に入っている子が噂していたんだけど、同じクラスの沼倉って子と付き合っているらしいよ、その子」
「え、本当?」
ナツは無言でうなずく。いつもユータを下手に見て自分のことを持ち上げようとしている子に彼氏が居るなんて、アタシには信じられなかった。しかも、相手の男子はチア部でも話題に出るほどのイケメンだ。そんな彼があの性格の悪い子と付き合っているなんて、アタシには考えられなかった。
「その子の話によると、こないだ中央の映画館で二人の姿を見かけたそうだよ。しかも、仲良く手を繋いでいたって……」
呆気に取られたアタシに対してナツは話の続きをする。
ユータはここ最近幼なじみの様子がおかしいと何度も訴えていて、アタシはその都度様子を見たほうがいいと答えてきた。だけど、アタシ一人でこのことを抱えるには限界があった。幸い、アタシにはチア部の仲間とキッズチア時代の友達が居る。友達を積極的に活用すれば、困ったときにユータのことを手助けできるはずだ。果たしてユータに声をかける機会はあるのだろうか。
それから時は過ぎ、文化祭の日が訪れた。演技発表でセンターに選ばれたマリンは、文化祭一日目の朝から一生懸命練習をしていた。しかし、不幸なことにマリンは練習中に足を捻挫した。
「ごめん、足を挫いた……」
マリンはそう言いながら、アタシと一緒に保健室へと向かった。軽い捻挫で済んだものの、本番に臨んだ場合に響くかもしれないと思ってマリンは大事を取って休むこととなった。そこで日野先生と相談したところ、彼女の代わりとしてマリンの弟子であるナツがセンターを任されることとなった。
七月の時点で、ナツが本格的にチアをやるようになったのはここ三ヶ月だった。演技発表でのセンターなんて務まるはずがない。しかし、ナツは本来マリンがやるはずだった演技を必死になって練習していた。無論、いつもお世話になっているマリンへの恩返しも兼ねてだ。
そして次の日、ナツは見ているこっちが緊張する程に顔が強張っていた。このままではキッズチア時代からの友人であるマリンにも顔向けができない。
その時、アタシの頭の脳裏を掠めたのは幼い頃の記憶だった。あの日、悩めるアタシを導いてくれたのはユータだった。
いい機会だ、ユータに彼女のことを励ましてもらおう。泣き虫だったアタシに応援することの楽しさを教えてくれたのはユータだ。だから、きっとうまくいくはずだ。
アタシは出店の店員をしている先輩たちの影でうずくまっているナツの手を取り、こう言った。
「ナツを励ましてくれる人が近くにいるわ。全てアタシに任せなさい!」
緊張状態だったナツが無言でうなずくと、アタシはチア部の出店の裏で吹奏楽部の生徒のことについてたずねた。吹奏楽部の生徒が立ち寄ってから音楽室へと向かったという話を聞いて、アタシたちはそちらへと向かった。
引き戸を開いて中を覗くと、そこには上級生を含む吹奏楽部の男子生徒数名がお昼を食べていた。その生徒たちの中で、スマホを片手にアタシたちの出店で提供されている焼きそばを食べている男子生徒を目にした。ユータ本人だった。彼なら、幼い頃アタシを励ましたように彼女を励ますことができるはずだ。
アタシは覚悟を決めて、ナツに話しかけた。
「ナツ」
「何?」
「アタシがいいというまで、絶対にここを動かないで。分かった?」
「う、うん……」
恥ずかしながらも、ナツはうなずいた。大丈夫、なるようになる。アタシは決意して、ノックをしてから音楽室の引き戸を開けた。
「はい、どちら様ですか」
校内靴のラインの色から、三年生と思われる上級生がアタシたちに声をかける。アタシは大きく深呼吸してから上級生に話しかけた。
「お取込み中のところ大変申し訳ありません。私は一年三組の小泉奏音と申します。ここにユータ……、いえ、清水優汰君が居ると聞きました。どうか、彼とお話しできないでしょうか」
「分かりました。今からお呼びします」
先輩はそう話すと一旦その場を離れた。
それから間もなくして、ユータはアタシたちの前に姿を現した。ユータの表情は連日連夜の練習のせいか、少しだけ疲れていた。何せ生徒に無茶をさせるあの先生のことだ、相当しごかれたのだろう。
アタシが声をかけると、ユータは仏頂面でアタシに応答した。アタシはユータに事情を伝えると、ユータは渋々ながら了承してくれた。ナツが音楽室に入ると同時に吹奏楽部の先輩たちがアタシの横をすり抜けていったのは、気を遣ったためなのだろうか。
結論から言わせてもらうと、ユータが励ましたおかげでナツは見事に大役を果たすことができた。少しヒヤッとする場面もあったけれど、最後までできたから問題なし。全てはユータが励ましてくれたおかげだった。
あの時ナツを励ましたユータは紆余曲折を経て、マネージャーとしてチア部に転入部した。表向きはアタシたちのボディガードとして、そしてマネージャーとしてではあるけれど、今日からアタシたちと一緒に汗を流すこととなる。もちろん、みんなのためにいろいろと尽くしてもらうことになるけど。
「……ですから、皆さんはチア部の部員として、各クラスの応援をしてくれる生徒たちの指導をお願いいたします。分かりましたか?」
「はいっ!」
日野先生の話が終わると、アタシを含めて皆が一斉に声を挙げた。もちろん、ユータも。
これから柔軟とサイドキック二十回、それから今日はスタンツの練習か……。大変だけど、全てはアタシたちの演技を見てくれる全ての人たちのためだ。
「今日も練習、頑張ろう」
小さな声でつぶやくと、アタシは柔軟でペアになるリホこと久保田莉穂の元へと向かった。
リホはアタシよりも身長が一センチ小さく、スタイルはいつも一緒に居るナツとマリンに引けを取らない。ただし、胸の大きさではアタシよりもひと回り小さいけど。
「リホ、今日もよろしくね」
「カノちゃんもね」
お互いに声をかけると、アタシたちはいつものように柔軟体操を始めた。四月の時点では内気だったリホも、アタシたちの前では笑顔を見せるようになった。
だけど、まだまだ彼女はこれからといったところだ。あと一押しあれば、彼女はもっと素敵になれるはずだ。
アタシは信じている。ユータだったら、自分に自信のない子をアタシのように自信満々で活発な子に変えられる。
そう、あの日ユータに話した実績とはまさにそのことなのだ。泣き虫だったアタシを活発な女の子に変えたのは、何を隠そうユータだ。
これからは心配しないで、ユータ。ユータを必要としている子はここにも居るし、ひょっとしたら先輩たちもユータのことを頼りにするかもしれない。無論、ユータとキスしたナツとマリンも、ね。
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