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第2章 米沢真凛 - うまくいくようにするための魔法
第12話 キッズチアの出身者、マリン
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それからいつものように授業をこなしているとあっという間に時間が過ぎ、気がついたらお昼休みへと突入した。
「ユータ、今日は一緒にお昼を食べない?」
一人で弁当を食べようとすると、小泉さんから呼び止められた。いつもだったら下の階にある軽音楽部の部室へ向かうのに、一体どういう風の吹き回しだろう。
「今日は一体どうしたんだよ。いつもお昼休みになったらロッカーへ向かうのに」
「ちょっと、話したいことがあってね。弁当もちゃんとあるわよ」
何かと思って小泉さんの机の上を見てみると、地下鉄に乗って二十五分の場所にある北欧由来の家具店に置いてある二段弁当箱とどこにでも置いてありそうな食器入れが置いてあった。もちろん、スポーティーなマイボトルも一緒だ。
「お昼休みになるといつもこれを持ち歩いていたのか」
「そうよ。食べたら練習するか作曲して、予鈴のタイミングを見計らって教室に戻ってくるの」
「眠くならないのか?」
「大丈夫よ、食べる量を加減しているから。今日はチアの練習がないから少なめにしているわ」
なるほど、小泉さんがお昼休み明けの授業でも集中して取り組んでいるのはそのためか。
「それじゃあ、向かい合うように机をくっつけておこうか」
「そうね」
僕は小泉さんと向かい合うよう机をくっつけると、互いの弁当箱を広げて弁当を食べはじめた。
弁当を食べている間も、僕が気にしていたのは後藤のことだ。ここ二、三日はお昼休みに入ると教室を離れることが多くなった。月曜日は母親が寝坊したせいだと話していたけど、今日はどういう風の吹き回しなのだろうか。
僕は昨日の夕食の残り物と冷凍食品が入り交じった弁当を口にしながら、小泉さんに話しかけた。
「なあ、小泉さん」
「何?」
「ここ二、三日、後藤は変わったと思わないか? 今朝教室に入っていたら勉強していたし、お昼休みになったら外に出ることが多くなったから……」
「後藤? う~ん、確かに変わったと言えばそのとおりかもね。ユータとアタシに気を遣っているのかしら」
具がたっぷり入ったサンドイッチをつまみながら小泉さんは答える。
ここ最近の後藤はちょっと変わっている。お昼休みになると手ぶらで教室の外へ出るようになり、戻るのは予鈴が鳴る手前だ。それに加え、今朝教室に入ったときには勉強用具一式を用意して勉強をしていた。
何があったのか知らないけれど、本人が居ないところで詮索するのは無意味だ。後藤が戻ってきてから聞くとしよう。
「ごちそうさま」
弁当を食べ終えると、僕と小泉さんは後片付けをしてから互いにマイボトルの飲み物を口にした。小泉さんが幸せそうな笑顔を浮かべると、僕も笑顔になった。
「もうすぐ九月だというのにまだ暑い日が続くわね」
「ホントだよ」
空は若干曇りがちだが、ところどころで日が射している。あちらこちらで蝉が大合唱を続け、その合間を縫うように鈴虫のアンサンブルを耳にする。季節は変わりつつあるものの、まだまだ暑い日は続いている。少し歩いただけでも汗が噴き出て、あっという間にワイシャツは汗でべとべとになる。この暑さがいつまで続くのか気にしていると、小泉さんが口を開いた。
「ねえユータ、今日の放課後は空いている?」
「もちろん空いているさ。それに、今日は練習日じゃない……よね?」
「明日は練習日だけど、今日は大丈夫ね。それで、ユータに手伝ってもらいたいことがあるんだけど、いいかしら?」
「僕で良ければ」
そう答えると、小泉さんはどこからともなく取り出したスマホを弄ってから話しかけた。
「今日の放課後、チア部の部室前に来てもらえるかしら。明日からチア部へ入ることになったから、今日はその準備よ」
「じゅ、準備? それって一体どういうことだ?」
「チア部の部室に男を入れるわけにはいかないからよ。ほら、着替えしているときに間違いを起こしたら……その、まずい……じゃない」
間違いの光景を想像したのか、小泉さんは顔を真っ赤にしながらうつむく。普段は自信満々な表情を見せる小泉さんでもこういう表情を見ると、どこにでもいる年頃の女子高生だと感じるし、恥じらうその姿勢を見て少しだけドキッとしてしまった。
「それにね、アンタに紹介したい子が居るのよ。隣のクラスに居る米沢さんって知っている?」
「知っているさ。高橋さんから聞いたよ。確か怪我をしてセンターから外れたって話していた子だっけ?」
「そのとおりよ。マリン、いや、米沢さんはアタシと同じキッズチア出身の子でね、アンタたちの話を聞いて興味を持ったのよ」
「本当か?」
「ホントよ。昨日ね、彼女が今まで男の子とは縁遠かったナツを振り向かせた挙句、キスまでした男の子がどんな子か知りたい! ってアタシにたずねてきたの。彼女の焦る顔、最高だったわ。それと……」
小泉さんは身を乗り出して僕に耳打ちするように促した。それに応じると、僕は彼女の耳元に寄せるようにして一言つぶやいた。
「高橋さんとキスしたこと、か?」
「そう。アタシがキッズチアのグループチャットに流した写真のこと。当然、米沢さんはアンタとナツがキスしたことは誰にも話していないわ。ああ見えて口が堅いから」
互いの席に戻ると、小泉さんはいつもの悪戯心に溢れた笑顔を浮かべる。僕たちのことを知っていて、しかもその秘密を誰にも漏らしていないのであれば、断る理由なんてどこにもない。
「なるほど。それじゃあ、行ってみようかな」
「オッケー。それなら、米沢さんには伝えておくから」
「高橋さんはどうする?」
「もちろん、伝えてあるわ。帰りのショートホームルームが終わったら、チア部の部室前まで来てね。約束よ!」
小泉さんは僕を指さして力強い口調で話しかけた。今日は掃除当番ではないから、SHRが終わったら直ちに部室棟へ向かおう。
周りの生徒たちが机を元どおりにしはじめていたので何事かと思って腕時計を確認すると、午後一時十分を回っていた。五分後には予鈴が鳴るだろう。
それに続いて教室内には昼休みを思い思いの場所で過ごした生徒たちが戻ってきた。その中には見慣れたイケメン、もとい後藤の姿があった。今日も学食で定食を食べたのだろうか、満足そうな表情を浮かべていた。
「そろそろ準備しようか」
「そうね、机を元の場所に戻してから、ね」
僕は小泉さんと一緒に机を元の場所に戻すと、米沢さんがどのような女性なのか期待に胸を弾ませながら午後の授業の準備に取り掛かった。
「ユータ、今日は一緒にお昼を食べない?」
一人で弁当を食べようとすると、小泉さんから呼び止められた。いつもだったら下の階にある軽音楽部の部室へ向かうのに、一体どういう風の吹き回しだろう。
「今日は一体どうしたんだよ。いつもお昼休みになったらロッカーへ向かうのに」
「ちょっと、話したいことがあってね。弁当もちゃんとあるわよ」
何かと思って小泉さんの机の上を見てみると、地下鉄に乗って二十五分の場所にある北欧由来の家具店に置いてある二段弁当箱とどこにでも置いてありそうな食器入れが置いてあった。もちろん、スポーティーなマイボトルも一緒だ。
「お昼休みになるといつもこれを持ち歩いていたのか」
「そうよ。食べたら練習するか作曲して、予鈴のタイミングを見計らって教室に戻ってくるの」
「眠くならないのか?」
「大丈夫よ、食べる量を加減しているから。今日はチアの練習がないから少なめにしているわ」
なるほど、小泉さんがお昼休み明けの授業でも集中して取り組んでいるのはそのためか。
「それじゃあ、向かい合うように机をくっつけておこうか」
「そうね」
僕は小泉さんと向かい合うよう机をくっつけると、互いの弁当箱を広げて弁当を食べはじめた。
弁当を食べている間も、僕が気にしていたのは後藤のことだ。ここ二、三日はお昼休みに入ると教室を離れることが多くなった。月曜日は母親が寝坊したせいだと話していたけど、今日はどういう風の吹き回しなのだろうか。
僕は昨日の夕食の残り物と冷凍食品が入り交じった弁当を口にしながら、小泉さんに話しかけた。
「なあ、小泉さん」
「何?」
「ここ二、三日、後藤は変わったと思わないか? 今朝教室に入っていたら勉強していたし、お昼休みになったら外に出ることが多くなったから……」
「後藤? う~ん、確かに変わったと言えばそのとおりかもね。ユータとアタシに気を遣っているのかしら」
具がたっぷり入ったサンドイッチをつまみながら小泉さんは答える。
ここ最近の後藤はちょっと変わっている。お昼休みになると手ぶらで教室の外へ出るようになり、戻るのは予鈴が鳴る手前だ。それに加え、今朝教室に入ったときには勉強用具一式を用意して勉強をしていた。
何があったのか知らないけれど、本人が居ないところで詮索するのは無意味だ。後藤が戻ってきてから聞くとしよう。
「ごちそうさま」
弁当を食べ終えると、僕と小泉さんは後片付けをしてから互いにマイボトルの飲み物を口にした。小泉さんが幸せそうな笑顔を浮かべると、僕も笑顔になった。
「もうすぐ九月だというのにまだ暑い日が続くわね」
「ホントだよ」
空は若干曇りがちだが、ところどころで日が射している。あちらこちらで蝉が大合唱を続け、その合間を縫うように鈴虫のアンサンブルを耳にする。季節は変わりつつあるものの、まだまだ暑い日は続いている。少し歩いただけでも汗が噴き出て、あっという間にワイシャツは汗でべとべとになる。この暑さがいつまで続くのか気にしていると、小泉さんが口を開いた。
「ねえユータ、今日の放課後は空いている?」
「もちろん空いているさ。それに、今日は練習日じゃない……よね?」
「明日は練習日だけど、今日は大丈夫ね。それで、ユータに手伝ってもらいたいことがあるんだけど、いいかしら?」
「僕で良ければ」
そう答えると、小泉さんはどこからともなく取り出したスマホを弄ってから話しかけた。
「今日の放課後、チア部の部室前に来てもらえるかしら。明日からチア部へ入ることになったから、今日はその準備よ」
「じゅ、準備? それって一体どういうことだ?」
「チア部の部室に男を入れるわけにはいかないからよ。ほら、着替えしているときに間違いを起こしたら……その、まずい……じゃない」
間違いの光景を想像したのか、小泉さんは顔を真っ赤にしながらうつむく。普段は自信満々な表情を見せる小泉さんでもこういう表情を見ると、どこにでもいる年頃の女子高生だと感じるし、恥じらうその姿勢を見て少しだけドキッとしてしまった。
「それにね、アンタに紹介したい子が居るのよ。隣のクラスに居る米沢さんって知っている?」
「知っているさ。高橋さんから聞いたよ。確か怪我をしてセンターから外れたって話していた子だっけ?」
「そのとおりよ。マリン、いや、米沢さんはアタシと同じキッズチア出身の子でね、アンタたちの話を聞いて興味を持ったのよ」
「本当か?」
「ホントよ。昨日ね、彼女が今まで男の子とは縁遠かったナツを振り向かせた挙句、キスまでした男の子がどんな子か知りたい! ってアタシにたずねてきたの。彼女の焦る顔、最高だったわ。それと……」
小泉さんは身を乗り出して僕に耳打ちするように促した。それに応じると、僕は彼女の耳元に寄せるようにして一言つぶやいた。
「高橋さんとキスしたこと、か?」
「そう。アタシがキッズチアのグループチャットに流した写真のこと。当然、米沢さんはアンタとナツがキスしたことは誰にも話していないわ。ああ見えて口が堅いから」
互いの席に戻ると、小泉さんはいつもの悪戯心に溢れた笑顔を浮かべる。僕たちのことを知っていて、しかもその秘密を誰にも漏らしていないのであれば、断る理由なんてどこにもない。
「なるほど。それじゃあ、行ってみようかな」
「オッケー。それなら、米沢さんには伝えておくから」
「高橋さんはどうする?」
「もちろん、伝えてあるわ。帰りのショートホームルームが終わったら、チア部の部室前まで来てね。約束よ!」
小泉さんは僕を指さして力強い口調で話しかけた。今日は掃除当番ではないから、SHRが終わったら直ちに部室棟へ向かおう。
周りの生徒たちが机を元どおりにしはじめていたので何事かと思って腕時計を確認すると、午後一時十分を回っていた。五分後には予鈴が鳴るだろう。
それに続いて教室内には昼休みを思い思いの場所で過ごした生徒たちが戻ってきた。その中には見慣れたイケメン、もとい後藤の姿があった。今日も学食で定食を食べたのだろうか、満足そうな表情を浮かべていた。
「そろそろ準備しようか」
「そうね、机を元の場所に戻してから、ね」
僕は小泉さんと一緒に机を元の場所に戻すと、米沢さんがどのような女性なのか期待に胸を弾ませながら午後の授業の準備に取り掛かった。
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