18 / 24
第18話 この世の誰よりも
しおりを挟む
この場に誰よりも勇ましく立つ彼は、私と出会ったいかにも旅人風の格好ではなく……正に次期国王としてふさわしい、風格のある出で立ちでした。
そのギャップとたくましさに、私は感動せずにはいられません。
「まず、みなに詫びたい。俺のワガママで、勝手に王太子をやめて、親愛なる家族、そして国民のみなに大変迷惑をおかけした。ここに謝罪する」
ゼリオル様は深々と頭を下げた。
「……だが、俺は決して己が楽しむためだけに、放浪の旅に出た訳ではない」
彼は頭を上げた。この場に集う大勢を前に、怯むことなく真っ直ぐに見つめて。
「この世は戦国。今は均衡状態が保たれているが、それがいつ崩れるかも分からない。王族はどうしても内に籠ってしまう所がある。外交も、外交官に任せてしまったりする。ただ、王として、国内外の事情はよく知っておかなければならない。だから、俺はより広く深くこの世界を知るために、旅に出たのだ」
まだ、語り始めたばかりなのに、みんな彼に見惚れていた。男は尊敬の眼差しを、女は……何かキラキラした目で彼を見ていらっしゃるわ。まあ、仕方のないことですけど。特に、マミさんは……いえ、もう見るのはやめましょう。
「とは言え、無理を通して放浪の旅に出たことは間違いない。そんな俺は例え戻ったとしても、王にはなれない。ただそれでも、俺が得た知識を次期国王に授けてやれば良いと思っていた」
彼は瞑目した。
「でも、ありがたいことに、国王も王妃も、俺のことを次期国王として迎えてくれた。家臣たちも……ただし、まだ国民のみなの声を聞いていない」
彼は両手を広げた。
「俺は丸腰だ。気に食わぬなら、槍でも矢でも、何でも投げて刺してくれ」
その場がどよめく。
「安心しろ。仮にそうしたとしても、反逆罪にはさせない」
ゼリオル様がニカッと笑うと、その場が静まり返った。
みな、新たな国王の破天荒さに驚きつつも……小さな拍手が起きて、それがやがて大きく広がって行った。
「……ありがとう、みんな」
彼は少しホッとしたように微笑む。
「それからもう1つ、大事な話をしておきたい」
彼の目が、先ほどよりも真剣味を帯びた。
「みな、もうお気付きだろう? 俺が王になるためには、王妃が必要だと」
みながざわつく。
「勝手ながら、もう相手は決めているんだ。彼女しかいない」
彼は言う。
「けど、もし断られたら……う~ん、恥ずかしいな」
少しお茶目に悶えたりするけど、
「まあ、それならそれで、仕方がない。けど、俺が彼女を愛していることに変わりはない」
そして、彼の目が――私を捉えた。
「シアラ……シアラ・マークレイン」
ドクン、と心臓が高鳴る。
「俺はお前を愛している。この世の誰よりも」
遠くから差し伸べられるその手を、今すぐに掴みたかった。
そのギャップとたくましさに、私は感動せずにはいられません。
「まず、みなに詫びたい。俺のワガママで、勝手に王太子をやめて、親愛なる家族、そして国民のみなに大変迷惑をおかけした。ここに謝罪する」
ゼリオル様は深々と頭を下げた。
「……だが、俺は決して己が楽しむためだけに、放浪の旅に出た訳ではない」
彼は頭を上げた。この場に集う大勢を前に、怯むことなく真っ直ぐに見つめて。
「この世は戦国。今は均衡状態が保たれているが、それがいつ崩れるかも分からない。王族はどうしても内に籠ってしまう所がある。外交も、外交官に任せてしまったりする。ただ、王として、国内外の事情はよく知っておかなければならない。だから、俺はより広く深くこの世界を知るために、旅に出たのだ」
まだ、語り始めたばかりなのに、みんな彼に見惚れていた。男は尊敬の眼差しを、女は……何かキラキラした目で彼を見ていらっしゃるわ。まあ、仕方のないことですけど。特に、マミさんは……いえ、もう見るのはやめましょう。
「とは言え、無理を通して放浪の旅に出たことは間違いない。そんな俺は例え戻ったとしても、王にはなれない。ただそれでも、俺が得た知識を次期国王に授けてやれば良いと思っていた」
彼は瞑目した。
「でも、ありがたいことに、国王も王妃も、俺のことを次期国王として迎えてくれた。家臣たちも……ただし、まだ国民のみなの声を聞いていない」
彼は両手を広げた。
「俺は丸腰だ。気に食わぬなら、槍でも矢でも、何でも投げて刺してくれ」
その場がどよめく。
「安心しろ。仮にそうしたとしても、反逆罪にはさせない」
ゼリオル様がニカッと笑うと、その場が静まり返った。
みな、新たな国王の破天荒さに驚きつつも……小さな拍手が起きて、それがやがて大きく広がって行った。
「……ありがとう、みんな」
彼は少しホッとしたように微笑む。
「それからもう1つ、大事な話をしておきたい」
彼の目が、先ほどよりも真剣味を帯びた。
「みな、もうお気付きだろう? 俺が王になるためには、王妃が必要だと」
みながざわつく。
「勝手ながら、もう相手は決めているんだ。彼女しかいない」
彼は言う。
「けど、もし断られたら……う~ん、恥ずかしいな」
少しお茶目に悶えたりするけど、
「まあ、それならそれで、仕方がない。けど、俺が彼女を愛していることに変わりはない」
そして、彼の目が――私を捉えた。
「シアラ……シアラ・マークレイン」
ドクン、と心臓が高鳴る。
「俺はお前を愛している。この世の誰よりも」
遠くから差し伸べられるその手を、今すぐに掴みたかった。
13
お気に入りに追加
1,223
あなたにおすすめの小説

皇太子殿下の御心のままに~悪役は誰なのか~
桜木弥生
恋愛
「この場にいる皆に証人となって欲しい。私、ウルグスタ皇太子、アーサー・ウルグスタは、レスガンティ公爵令嬢、ロベリア・レスガンティに婚約者の座を降りて貰おうと思う」
ウルグスタ皇国の立太子式典の最中、皇太子になったアーサーは婚約者のロベリアへの急な婚約破棄宣言?
◆本編◆
婚約破棄を回避しようとしたけれど物語の強制力に巻き込まれた公爵令嬢ロベリア。
物語の通りに進めようとして画策したヒロインエリー。
そして攻略者達の後日談の三部作です。
◆番外編◆
番外編を随時更新しています。
全てタイトルの人物が主役となっています。
ありがちな設定なので、もしかしたら同じようなお話があるかもしれません。もし似たような作品があったら大変申し訳ありません。
なろう様にも掲載中です。

婚約者を友人に奪われて~婚約破棄後の公爵令嬢~
tartan321
恋愛
成績優秀な公爵令嬢ソフィアは、婚約相手である王子のカリエスの面倒を見ていた。
ある日、級友であるリリーがソフィアの元を訪れて……。

初恋が綺麗に終わらない
わらびもち
恋愛
婚約者のエーミールにいつも放置され、蔑ろにされるベロニカ。
そんな彼の態度にウンザリし、婚約を破棄しようと行動をおこす。
今後、一度でもエーミールがベロニカ以外の女を優先することがあれば即座に婚約は破棄。
そういった契約を両家で交わすも、馬鹿なエーミールはよりにもよって夜会でやらかす。
もう呆れるしかないベロニカ。そしてそんな彼女に手を差し伸べた意外な人物。
ベロニカはこの人物に、人生で初の恋に落ちる…………。

辺境伯令息の婚約者に任命されました
風見ゆうみ
恋愛
家が貧乏だからという理由で、男爵令嬢である私、クレア・レッドバーンズは婚約者であるムートー子爵の家に、子供の頃から居候させてもらっていた。私の婚約者であるガレッド様は、ある晩、一人の女性を連れ帰り、私との婚約を破棄し、自分は彼女と結婚するなどとふざけた事を言い出した。遊び呆けている彼の仕事を全てかわりにやっていたのは私なのにだ。
婚約破棄され、家を追い出されてしまった私の前に現れたのは、ジュード辺境伯家の次男のイーサンだった。
ガレッド様が連れ帰ってきた女性は彼の元婚約者だという事がわかり、私を気の毒に思ってくれた彼は、私を彼の家に招き入れてくれることになって……。
※筆者が考えた異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。クズがいますので、ご注意下さい。

幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに
hikari
恋愛
侯爵令嬢アントニーナは王太子ジョルジョ7世に婚約破棄される。王太子の新しい婚約相手はなんと幼馴染の親友だった公爵令嬢のマルタだった。
二人は幼い時から王立学校で仲良しだった。アントニーナがいじめられていた時は身を張って守ってくれた。しかし、そんな友情にある日亀裂が入る。

王子様、あなたの不貞を私は知っております
岡暁舟
恋愛
第一王子アンソニーの婚約者、正妻として名高い公爵令嬢のクレアは、アンソニーが自分のことをそこまで本気に愛していないことを知っている。彼が夢中になっているのは、同じ公爵令嬢だが、自分よりも大部下品なソーニャだった。
「私は知っております。王子様の不貞を……」
場合によっては離縁……様々な危険をはらんでいたが、クレアはなぜか余裕で?
本編終了しました。明日以降、続編を新たに書いていきます。
【完結】「幼馴染が皇子様になって迎えに来てくれた」
まほりろ
恋愛
腹違いの妹を長年に渡りいじめていた罪に問われた私は、第一王子に婚約破棄され、侯爵令嬢の身分を剥奪され、塔の最上階に閉じ込められていた。
私が腹違いの妹のマダリンをいじめたという事実はない。
私が断罪され兵士に取り押さえられたときマダリンは、第一王子のワルデマー殿下に抱きしめられにやにやと笑っていた。
私は妹にはめられたのだ。
牢屋の中で絶望していた私の前に現れたのは、幼い頃私に使えていた執事見習いのレイだった。
「迎えに来ましたよ、メリセントお嬢様」
そう言って、彼はニッコリとほほ笑んだ
※他のサイトにも投稿してます。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
婚約破棄の慰謝料を払ってもらいましょうか。その身体で!
石河 翠
恋愛
ある日突然、前世の記憶を思い出した公爵令嬢ミリア。自分はラストでざまぁされる悪役令嬢ではないかと推測する彼女。なぜなら彼女には、黒豚令嬢というとんでもないあだ名がつけられていたからだ。
実際、婚約者の王太子は周囲の令嬢たちと仲睦まじい。
どうせ断罪されるなら、美しく散りたい。そのためにはダイエットと断捨離が必要だ! 息巻いた彼女は仲良しの侍女と結託して自分磨きにいそしむが婚約者の塩対応は変わらない。
王太子の誕生日を祝う夜会で、彼女は婚約破棄を求めるが……。
思い切りが良すぎて明後日の方向に突っ走るヒロインと、そんな彼女の暴走に振り回される苦労性のヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:29284163)をお借りしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる