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第17話 我が名は……

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 こんなにドキドキするのは、人生で初めてかもしれない。

 あの晩、彼に抱かれた時よりも、より一層ドキドキしているかもしれない。

「シアラ、そのドレスよく似合っているわよ」

「ありがとう、お母さま。エリーも、よく似合っているわ」

「えへへ。公爵子息さまにも、褒めてもらったの」

「そうか、そうか、良かったな」

 馬車の中で、家族みんなが笑顔になっている。元から仲のいい家族だったけど、こんな風に幸福をもたらしてくれたのは……




      ◇




 宮殿に着くと、私たちはとても丁重にもてなしてもらいました。

「マークレイン公爵方、よくぞお越し下さった」

「そんな、陛下自ら……恐縮の至りでございます」

「気にするでない。そなた達には大変ご迷惑をおかけしたからな」

 国王は神妙な面持ちで言います。

「陛下、そろそろ準備のお時間です」

 執事に呼ばれた。

「ああ、分かった。では、また後ほど」

 国王がこの場を後にする。私たちは一礼をしてから、

「来賓席にご案内いたします」

「ありがとう」

 その場にやって来ると、名だたる貴族たちが集っていた。

「おお、これはマークレイン公爵」

「これはこれは、ディズロッド公爵。我が娘のエリーが色々とお世話になっているようで」

「いやいや、こちらこそ。ロイ、こっちに来なさい」

 呼ばれて、スラッとした美男子がやって来る。まずは一礼をしてから、

「ごあいさつが遅れて申し訳ございません。ロイ・ディズロッドでございます。エリーさんとの婚約を認めていただき、大変感謝いたします」

 彼はそう言って、エリーとアイコンタクトをする。はにかむ妹の様子を見て、私も何だか胸がキュンとしてしまう。

「いやいや、こちらこそ。ディズロッド家の後継者に見初めてもらえるなんて、父親として鼻が高いですよ」

「また近い内に、改めて懇親会でも開きましょう」

「ええ、そうですね」

 などと和やかに会話する親たちの様子を見守っていると、見覚えのある顔を見つけて胸がざわついた。

 ここ、来賓席ではない、一般の立ち見の場所に姿を見つけた。

 マミ・ミューズレイさんの姿を。

「んっ? シアラ、どうした……って、おい、あれは」

 お父さまが気付く。

「なぜ、あのアバズレがここにいるんだ!?」

 その声に気付いたのか、マミさんはこちらに振り向き、私の姿を見るとわずかに目を丸くしつつも、すぐにニタリと笑います。

 何だか、ちょっと嫌な予感が……ふいに、あの時の光景が蘇ってしまう。

 彼女がオルさんに抱き付いていた時の姿を。あれは私の勘違いだったって、もうちゃんと分かっているけど……

「ご安心下さい、シアラ様」

 ふと、案内してくれた執事が言い添えてくれる。

「えっ?」

「あの女は、新たな王を狙って来たのでしょうが……無駄な話です。本来であれば、立ち見さえ許されない立場。それでも呼ばれたのは……罰を受けるためです。本人は、気付いていないようですがね」

「罰……ですか?」

「ええ。それから、もう1人いますので。どうぞ、お楽しみに……と、陛下が申しておりました」

「そ、そうですか」

 私は苦笑してしまう。まあ、それも楽しみでないと言ったら嘘になるけど。

 でも、それ以上に――

「――間もなく、王族が登壇いたします。みなさま、どうか静粛にお願いいたします!」

 この場を守護する騎士団長の声が響き渡ると、みな静まり返った。

 厳かな空気の中、コッコッ、と靴音を鳴らして、王族がやって来た。

 国王と王妃、そして――

「……あっ」

 はためくマントにまず目が行く。

 けど、すぐにそのスラッとしつつもたくましい体付き、凛々しくも穏やかで爽やかなその面立ちを見て、私は――

「――我が名はゼリオル・ストラティス!」

 彼は勇ましく声を轟かせる。

「みんな、俺の話を聞いて欲しい。少しだけ、長くなるがな」

 もう分かっていました。あなたは……

「……オルさん……ゼリオル様」

 しかと、彼の勇姿を見届けたいのに。

 私の視界は涙でぼやけてしまった。


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