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第10話 バカの居ぬ間に、罵りまくる
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※ここから数話、センシティブな表現がございます。ご注意下さい。
ここ数日、ボーっとしがちな私だけど。今日はピシッと身を引き締めねばなりません。
なぜなら、国王と王妃がそろっていらっしゃるからです。
「この度は、我がバカ息子が、大変ご迷惑をおかけしました」
まずいきなり、国王と王妃が頭を下げて下さる。
私が婚約破棄をされたと知った時、大いに怒っていたお父さまとお母さまでしたが、さすがにその2人に頭を下げられると、逆にこちらが恐縮してしまう。
「そんな、滅相もございません。陛下、顔を上げて下さい」
言われて数秒後、国王は顔を上げた。
「本当に申し訳ない」
一国の王だけあって、精悍な顔立ちのお方ですが。やはり、今回の一件は堪えているようです。王妃さまともに、顔が疲れていらっしゃいます。
「あの子さえ、居てくれれば……」
「おい、それは言うな」
「あの子、とは……ご長男、元王太子の……」
「はい、ゼリオルでございます。あの子は知力、体力ともに優れ、また人に好かれる見た目と性格の持ち主でした。次期国王として、申し分ない逸材です。しかし……権力には興味がないと言って、旅だってしまって……」
王妃さまはハンカチで目元を拭う。
「おい、よさないか。これじゃまるで、マークレイン公爵夫妻に同情を乞うているみたいだ。今回の私たちは、彼らに謝罪をせねばならない。もちろん、一番謝らなければいけないのは、そのご令嬢、シアラだ」
「いえ、そんな。私はもう平気ですから、どうか気落ちなさらないで下さい」
「そういう訳には……」
「でも、そうね。最近、シアラはいつになくボーっとすることが多くなったのだけど……決して、疲れて不幸な感じの顔じゃないのよね」
お母さまが言う。
「あなた、もしかして……誰か良い人でも出来たの?」
「へっ? い、いえ、それは……」
「やだ、図星じゃない」
「本当か? シアラ、誰なんだ? 今度こそ、間違いのない男なのか?」
「だから、違いますって!」
私は自分でも珍しくムキになってしまい、声が大きくなった。
「あ、ごめんなさい……でも、そのお方は旅の人だそうで」
「何だ、そうか」
お父さまは少しがっかりしたように言う。
「けど、シアラがここまで呆けるなんて、それくらい魅力的な殿方なのかもしれないわね。その方は、まだこちらに滞在中なの?」
「分かりません。まるで、風のように現れて、消えるお方なので」
「風のように……まるで、ゼリオルそっくりね」
「ああ、そうだな」
国王と王妃が頷き合う。
あれ? そういえば、あの方はオルさんとおっしゃった。ちょっと、名前が似ているような……いや、そんな訳ないか。
「ねえ、シアラ。ちなみにだけど、そのお方の名前は……」
問われた時だった。
バァン!と玄関の扉が勢い良く開く。
「大変だあああああああああああああああああああああぁ!」
響き渡ったのは、出来れば2度と聞きたくない男の情けない声。
国王と王妃が、そして私の両親も同時に険しい顔付きになった。
「おい……ホリミック! 貴様、何を勝手に来ているんだ!」
「これ以上、我が王家に恥塗りをしないでちょうだい!」
「帰れ、バカ王太子!」
「そうよ、バーカ!」
「お、お父さま、お母さま、両陛下の前でさすがにそれは……」
私が何とかたしなめようとした時、泣き面の王太子がそばに寄って来た。
「どうしよう~、シアラ~」
「は、はぁ? 何ですか?」
何が悲しくて、婚約破棄を言い渡された男に、こんな風にすがりつかれなければならないのだ。
「娘に触れるな、この外道が!」
「シッシ!」
私の両親が尚も威嚇する。
「おい、ホリミック。何があった?」
少し落ち着きを取り戻した国王が尋ねる。
「マ、マミが、せっくすの後、急に具合が悪くなって……」
「お前、言葉を慎め……」
「で、慌てて医者を呼んで診てもらったら……流産したって」
王太子の言葉を、みんなすぐに飲み込めなかった。
「……何だって?」
ここ数日、ボーっとしがちな私だけど。今日はピシッと身を引き締めねばなりません。
なぜなら、国王と王妃がそろっていらっしゃるからです。
「この度は、我がバカ息子が、大変ご迷惑をおかけしました」
まずいきなり、国王と王妃が頭を下げて下さる。
私が婚約破棄をされたと知った時、大いに怒っていたお父さまとお母さまでしたが、さすがにその2人に頭を下げられると、逆にこちらが恐縮してしまう。
「そんな、滅相もございません。陛下、顔を上げて下さい」
言われて数秒後、国王は顔を上げた。
「本当に申し訳ない」
一国の王だけあって、精悍な顔立ちのお方ですが。やはり、今回の一件は堪えているようです。王妃さまともに、顔が疲れていらっしゃいます。
「あの子さえ、居てくれれば……」
「おい、それは言うな」
「あの子、とは……ご長男、元王太子の……」
「はい、ゼリオルでございます。あの子は知力、体力ともに優れ、また人に好かれる見た目と性格の持ち主でした。次期国王として、申し分ない逸材です。しかし……権力には興味がないと言って、旅だってしまって……」
王妃さまはハンカチで目元を拭う。
「おい、よさないか。これじゃまるで、マークレイン公爵夫妻に同情を乞うているみたいだ。今回の私たちは、彼らに謝罪をせねばならない。もちろん、一番謝らなければいけないのは、そのご令嬢、シアラだ」
「いえ、そんな。私はもう平気ですから、どうか気落ちなさらないで下さい」
「そういう訳には……」
「でも、そうね。最近、シアラはいつになくボーっとすることが多くなったのだけど……決して、疲れて不幸な感じの顔じゃないのよね」
お母さまが言う。
「あなた、もしかして……誰か良い人でも出来たの?」
「へっ? い、いえ、それは……」
「やだ、図星じゃない」
「本当か? シアラ、誰なんだ? 今度こそ、間違いのない男なのか?」
「だから、違いますって!」
私は自分でも珍しくムキになってしまい、声が大きくなった。
「あ、ごめんなさい……でも、そのお方は旅の人だそうで」
「何だ、そうか」
お父さまは少しがっかりしたように言う。
「けど、シアラがここまで呆けるなんて、それくらい魅力的な殿方なのかもしれないわね。その方は、まだこちらに滞在中なの?」
「分かりません。まるで、風のように現れて、消えるお方なので」
「風のように……まるで、ゼリオルそっくりね」
「ああ、そうだな」
国王と王妃が頷き合う。
あれ? そういえば、あの方はオルさんとおっしゃった。ちょっと、名前が似ているような……いや、そんな訳ないか。
「ねえ、シアラ。ちなみにだけど、そのお方の名前は……」
問われた時だった。
バァン!と玄関の扉が勢い良く開く。
「大変だあああああああああああああああああああああぁ!」
響き渡ったのは、出来れば2度と聞きたくない男の情けない声。
国王と王妃が、そして私の両親も同時に険しい顔付きになった。
「おい……ホリミック! 貴様、何を勝手に来ているんだ!」
「これ以上、我が王家に恥塗りをしないでちょうだい!」
「帰れ、バカ王太子!」
「そうよ、バーカ!」
「お、お父さま、お母さま、両陛下の前でさすがにそれは……」
私が何とかたしなめようとした時、泣き面の王太子がそばに寄って来た。
「どうしよう~、シアラ~」
「は、はぁ? 何ですか?」
何が悲しくて、婚約破棄を言い渡された男に、こんな風にすがりつかれなければならないのだ。
「娘に触れるな、この外道が!」
「シッシ!」
私の両親が尚も威嚇する。
「おい、ホリミック。何があった?」
少し落ち着きを取り戻した国王が尋ねる。
「マ、マミが、せっくすの後、急に具合が悪くなって……」
「お前、言葉を慎め……」
「で、慌てて医者を呼んで診てもらったら……流産したって」
王太子の言葉を、みんなすぐに飲み込めなかった。
「……何だって?」
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