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第9話 女の本能

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 街外れの古びた宿屋のベッドにて、2人して横たわっていた。

「はぁ、はぁ……マミ、相変わらずすごかったよ」

「ありがとうございます……けど、ホリミック様」

「何だい?」

「せっかくなら、もっと良いスイートな部屋で致したかったです」

「それは俺もだけど、あまりお金を勝手に使うと、父上たちがうるさいから」

「ならば、宮殿のお部屋ですれば良いじゃないですか。私はあなたの子供を身ごもった、王妃になる女ですから、当然訪れても問題ないでしょう?」

「う~ん、そうなんだけど……まだ、父上と母上がシアラサイドにきちんと謝罪が済んでいないから。それまで固く禁止されているんだ。相手に迷惑をかけておきながら、お前はのんきに腰振り人形になるのかって」

「そうなんですか~……」

 マミは髪をくるくるといじりながら、退屈そうに言う。

(はぁ、何か期待外れだな)

 元より、この乳のデカさで上玉の男たちをメロメロにして来た。公爵子息さえも。

 けど、せっかくだから、もっと上を目指したいと思った結果、このバカな王太子、ホリミックを篭絡したのだ。それは良いのだけど……

(正直、あまりかっこよくないし、アレもテクもイマイチだし……)

 マミは欲求不満状態にあった。また、まだお腹は膨らんでいないが、これから妊娠したせいで体型が崩れて行くことが嫌だった。

(でもまあ、妊娠するとお乳も大きくなるし。それでまた、もっと良い男を落とそうかしら)

 とは言え、お気楽でおバカなマミも分かっている。王太子の夫がいながら浮気をしたら、自分が国外追放、下手をすれば処刑をされてしまうことを。

(はぁ~、失敗した。こんなことなら、そんな偉くなくても、ワイルドでかっこいい男たちと遊びまくっておけば良かった。これから生涯、こんな冴えない男としかエッチ出来ないなんて……)

 マミは己の未来が閉塞して行くようで、とても気分が萎えていた。

「おっと、いけない、もうこんな時間か。マミ、出よう」

「……はい」

 着替えを済ませて、宿屋から出た。

「じゃあ、俺は宮殿に戻るから。安心しろ、君はちゃんと家まで送らせる」

「ありがとうございます」

「また会おう、ハニー」

 ちゅっ。

(……おえっ)

 マミは吐き気を催す。それくらい、ホリミックに対して嫌悪感を抱いていた。

 彼は馬車に乗り込むと、最後まで手を振りながら去って行く。

「……はぁ~」

「マミ様、どうぞお乗り下さい」

「あ、どうも」

 テンションがひどく下がった状態で馬車に乗り込む。

 ガタゴトと、揺れる振動の方が、先ほどのあの男よりもよほど気持ち良かった。

「――っ!?」

 ふと、ボーっと窓の外を眺めていたのだけど、

「ちょっと、停めて!」

「は、はい?」

 御者は戸惑いつつも、馬車を停めた。マミは慌てて馬車から降りた。

「マミ様、どうされましたか!? あまり慌てると、お腹の子に良くありませんよ!!」

 そんな御者の忠告など、どうでも良かった。マミは街を歩く1人の男に釘付けになっていた。それは非常に整った顔立ちながらも、ワイルドさを感じさせる。恐らく、旅人だろう。身に纏うローブは良い具合に年季が入っていた。

「うっ……」

 この時、マミは今までにないくらい、乳が張り、子宮が疼くのを感じた。既に、そこには先客がいるのに……

「あっ」

 そのイケメンは、気付けば姿を消していた。マミはしばらく、彼の残像を求めてまたボーっとしていた。

「マミ様、大丈夫ですか? もしかして、具合が悪いとか……」

「いえ、むしろ絶好調ですよ~」

 マミはにやりと笑う。

「あの、私やっぱり歩いて帰ります」

「えっ? それはいけません。王太子さまの子を身ごもっているんですよ?」

「知らないんですか? 妊娠した時は、むしろ適度な運動が大事なんですよ~」

「そうかもしれませんけど……」

「じゃあ、そういうことで」

「あ、マミ様!」

 御者の言うことを聞くのは、お馬さんだけよ、と言わんばかりに。

 マミは鼻歌を歌いながら、1人で歩いて行く。

「……欲しい、あのイケメンの子が」

 マミは自分のお腹に目を落とし、ゆっくりと撫でる。

「……ごめんね」




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