乳だけ立派なバカ女に婚約者の王太子を奪われました。別にそんなバカ男はいらないから復讐するつもりは無かったけど……

三葉 空

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第8話 同じなのに、全然違う

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 ここしばらく、私は心ここにあらずだった。

「シアラお嬢様、申し訳ありません。こちらの書類、ミスがございまして……」

「えっ? うそ、ごめんなさい」

 私は慌ててチェックすると、確かに凡ミスを犯していた。

「大丈夫ですか、シアラお嬢様? やはり、あの一件があって、お疲れなのでは……」

「いえ、あのバカ王太子は関係ありません」

「へっ?」

「あ、いえ……ちょ、ちょっと、気晴らしにお散歩に行って来ます」

 私は席から立ち上がると、スタスタと歩いて行く。そのまま外に出た。その空気を目一杯吸った後、大きく吐き出す。

「ふぅ~……」

 おかしい、今までこんなこと無かったのに。どんなに嫌なことや辛いことがっても、仕事は冷徹なメンタルで取り組んで来たのに。

 今の私は、ずっと心あらずだ。あの日の晩、あのお方に会ってから……

(お買い物でもして、気分転換をしましょう)

 ちょうど、新しい髪飾りが欲しかったのだ。私はそう思って街へと向かう。貴族の令嬢が、馬車もなく護衛もつけずに叱られてしまうかもしれないけど。

 これ以上、恥ずかしい顔を見せたくないのです……

「いらっしゃい……まあ、シアラ公爵令嬢、いらっしゃいませ」

「ごきげんよう。ちょっと、店内を見てもよろしいですか?」

「ええ、ぜひ。あの、お付きの方はいらっしゃらないのですか?」

「あ、はい。今日は1人です」

 などと店主と雑談を交わしながら、商品に目を向ける。

「どれが良いかしら?」

「これが良いと思うよ」

「あら、素敵ね……って!」

 バッと振り向いて、ギョッとする。

「やあ」

「オ、オル……さん」

 あの晩に会って、それからずっと、私の心を惑わすお方が……何か唐突に現れた。

「あ、あなたって人は……神出鬼没なのですね」

「その方が、楽しいだろ?」

「こ、こちらの心臓が持たないので、おやめください」

「あはは、君は本当に可愛いね」

 ドキリ。

 今まで、美人とかきれいは言ってもらったことがあるけど。

 か、可愛いだなんて……

「ほら、これ、つけてみなよ」

「あ、はい……」

 言われるがまま、私は彼がチョイスしてくれた髪飾りをつける。

「ど、どうでしょうか?」

「うん、やっぱり。すごく可愛いよ」

 ま、また可愛いって言われた! どうしよう、頭がおかしくなりそう……

「店主、これをくれ」

「あ、お金は……」

「俺が出す。異論は認めない」

 彼はニカッと笑って白い歯をこぼす。すると、私の心臓は更に跳ね上がった。

 え、何この気持ち? こんな気持ち、嘘よ……

「ありがとうございました~!」

 お店を出ると、

「あ、あの、これからお茶をしませんか?」

「んっ?」

「こんな素敵な髪飾りを買ってもらって、そのままという訳には行かないので……せめて、お茶をごちそうさせて下さい」

「シアラ、すまない。俺はこれから、ちょっと用事があるんだ」

「えっ?」

「案ずるな、また会いに来る」

 彼が私に手を伸ばしたので、思わず目をキュッと閉じてしまう。

 すると彼の手は、彼が買ってくれた髪飾りに触れる。

 ぽわっと、何やら温かいオーラを感じるようだった。

「あ、あの、何かしましたか?」

「気のせいだよ」

 オルさんは、あくまでも微笑むばかり。

「じゃあ、俺はここで」

 そう言って、彼はまるで風のように消え去った。

 そのことにも驚きだけど……私は別の感情に支配されていた。

「……本当に勝手な人」

 言った直後、自分でも驚く。勝手なのは、あのバカ王太子も同じこと。けど、彼の行為はとても非常識だなと思いつつも、そこまで怒りを感じなかった、女としては。

 けど、オルさんに対しては、どうしてこんなにも……

「……バカ」

 ここしばらく、私の悩みの種である彼に対して、ほんの少しばかり愚痴をこぼした。


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