上 下
6 / 24

第6話 きれいですね

しおりを挟む
 私がバカ王太子に婚約破棄を言い渡されてから数日後……

「全く、失礼しちゃうわ。こんな素敵なお姉さまに、婚約破棄を言い渡すなんて、あのエロボケ王太子!」

 妹のエリーは怒りのせいか、がっつがっつと料理を食べながら言う。

「ありがとう、エリー。私のためにそんな風に怒ってくれて。けど、あなたの品位が下がってしまうから。落ち着いてちょうだい」

「でも、お姉さま……」

「それに、あなたの方からも大事な報告があるんじゃない?」

「えっ? お姉さま、どうして分かるの?」

「姉妹だからね」

 私は軽くウィンクをして言う。

「何だ、エリー。言ってみなさい」

 父も促す。

「あの、実は……勤め先の公爵子息さまに見初めていただきまして」

「まあ、本当に?」

「それは誠か!? あの優秀な男に!?」

「う、うん。最初、私なんてまだまだ未熟だから、お断りしようと思ったんだけど……これから、彼のために成長出来れば良いかなって」

「そうか、そうか。嬉しいなぁ……あっ」

 父は顔を綻ばせてから、ハッとして私を見た。

「お父さま、気になさらないで。お母さまも、エリーも。これはめでたいことなんだから」「お姉さま……でもやっぱり、悔しいわ。こんなにも優しくて、優秀なお姉さまが……」

「でも、私はそんなに胸が立派ではないので……」

「そんなことないわ! 私、知っているもん! 確かに、大きさこそあのバカ女には及ばないけど、お姉さまのお乳はとてもきれいよ! 美乳だわ!」

「あ、ありがとう。でも、恥ずかしいから落ち着いてちょうだい」

「あ、ごめんなさい……」

 エリーは顔を真っ赤にしてうつむいた。

「正直、もう平気なんて言ったら、嘘になるかもしれない。でも、私はもう前を向いているから。こんな風に優しくしてくれる、素敵な家族がいる訳だし」

 私が言うと、家族みんなが瞳を潤ませてくれた。

「ちょっと、夜風に当たって来ます。今日は少し飲み過ぎたわ」

「大丈夫? 付き添おうか?」

「ありがとう、エリー。でも、平気よ」

 私は1人で席を立った。家の外に出ると、今日は満月だった。

「きれい」

 私はふと、思ってしまう。こんな素敵な満月をとなりで一緒に見てくれる、素敵な殿方が居てくれれば、と。まあ、そんな都合の良い話がすぐ転がり込んで来る訳が……

「――きれいですね」

 ふいに響いた声に、ビクッとしてしまう。

「えっ、誰?」

 普段、あまり物怖じしない私だけど。酔いが回っているせいだろうか?

 その時、木陰の方から人影が歩み寄って来た。

 私は警戒するけど……月明かりに照らされるその人物を見て、ハッとする。

 目の覚めるようなイケメンだった。美形なんだけど、でもそこまで繊細過ぎないと言うか……プチワイルドみたいな。そんなひげボーボーでゴリマッチョって訳じゃないんだけど……男らしい、みたいな。

「あの、どちら様でしょうか?」

「旅の者です、お嬢さん」

 彼は余裕の笑みを浮かべてそう言った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

たった一度の浮気ぐらいでガタガタ騒ぐな、と婚約破棄されそうな私は、馬オタクな隣国第二王子の溺愛対象らしいです。

弓はあと
恋愛
「たった一度の浮気ぐらいでガタガタ騒ぐな」婚約者から投げられた言葉。 浮気を許す事ができない心の狭い私とは婚約破棄だという。 婚約破棄を受け入れたいけれど、それを親に伝えたらきっと「この役立たず」と罵られ家を追い出されてしまう。 そんな私に手を差し伸べてくれたのは、皆から馬オタクで残念な美丈夫と噂されている隣国の第二王子だった―― ※物語の後半は視点変更が多いです。 ※浮気の表現があるので、念のためR15にしています。詳細な描写はありません。 ※短めのお話です。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません、ご注意ください。 ※設定ゆるめ、ご都合主義です。鉄道やオタクの歴史等は現実と異なっています。

泣き虫令嬢は自称商人(本当は公爵)に愛される

琴葉悠
恋愛
 エステル・アッシュベリーは泣き虫令嬢と一部から呼ばれていた。  そんな彼女に婚約者がいた。  彼女は婚約者が熱を出して寝込んでいると聞き、彼の屋敷に見舞いにいった時、彼と幼なじみの令嬢との不貞行為を目撃してしまう。  エステルは見舞い品を投げつけて、馬車にも乗らずに泣きながら夜道を走った。  冷静になった途端、ごろつきに囲まれるが謎の商人に助けられ──

婚約破棄と追放を宣告されてしまいましたが、そのお陰で私は幸せまっしぐらです。一方、婚約者とその幼馴染みは……

水上
恋愛
侯爵令嬢である私、シャロン・ライテルは、婚約者である第二王子のローレンス・シェイファーに婚約破棄を言い渡された。 それは、彼の幼馴染みであるグレース・キャレラの陰謀で、私が犯してもいない罪を着せられたせいだ。 そして、いくら無実を主張しても、ローレンスは私の事を信じてくれなかった。 さらに私は、婚約破棄だけでなく、追放まで宣告されてしまう。 高らかに笑うグレースや信じてくれないローレンスを見て、私の体は震えていた。 しかし、以外なことにその件がきっかけで、私は幸せまっしぐらになるのだった。 一方、私を陥れたグレースとローレンスは……。

【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね

との
恋愛
離婚したいのですか?  喜んでお受けします。 でも、本当に大丈夫なんでしょうか? 伯爵様・・自滅の道を行ってません? まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。 収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。 (父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる) ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 32話、完結迄予約投稿済みです。 R15は念の為・・

わがまま妹、自爆する

四季
恋愛
資産を有する家に長女として生まれたニナは、五つ年下の妹レーナが生まれてからというもの、ずっと明らかな差別を受けてきた。父親はレーナにばかり手をかけ可愛がり、ニナにはほとんど見向きもしない。それでも、いつかは元に戻るかもしれないと信じて、ニナは慎ましく生き続けてきた。 そんなある日のこと、レーナに婚約の話が舞い込んできたのだが……?

この死に戻りは貴方に「大嫌い」というためのもの

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
侯爵令嬢ロゼ・フローラは第一王子の婚約者候補の一人だった。 そして愛し合うようになり二年が過ぎたある日。 晴れて二人は婚約者となるはずだったのだが……? ※作者独自の世界観です。 ※妊娠に関するセンシティブな内容を含みます(ヒロイン、恋人の立場に不妊が関係します)。辛い方は避けてください。 ※5/25 お話をより分かり易くするために文を修正しました。話の内容に変更はありません。 ※6/11 21話のタイトル(前回1→前回)と文(西の国→西の大国)を訂正します。 ※6/27 完結しました。この後カタリナ視点の話を別作品として公開予定です。そちらはドロドロの話の予定ですが、よろしければあわせてお読みいただけると嬉しいです。 ※6/28 カタリナ視点でのお話「空っぽから生まれた王女」を公開しました。(あわせて読んでいただけると嬉しいですが、あっちはダークです。ご注意を)

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

さようならお姉様、辺境伯サマはいただきます

夜桜
恋愛
 令嬢アリスとアイリスは双子の姉妹。  アリスは辺境伯エルヴィスと婚約を結んでいた。けれど、姉であるアイリスが仕組み、婚約を破棄させる。エルヴィスをモノにしたアイリスは、妹のアリスを氷の大地に捨てた。死んだと思われたアリスだったが……。

処理中です...