再創世記 ~その特徴は「天使の血筋」に当てはまらない~

タカナデス

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第4章

154 シド公国社交界前夜

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レイとレベッカは注目された。


幼い双子。アルダ隊。美しい芸獣を操る。人を助けた優しさ。そして、珍しいほどに黒い髪。
皮肉なことに、黒髪であるという点が2人を一層賞賛すべき対象へと押し上げた。

そして俺は関しては、4人の怪我を完璧に治したことにとても驚かれた。そもそも治癒ができるだけでも稀なのに、足が溶けるほどの重傷者4名を一度も休まず治しきったからだ。こんなに芸素量があるとは思わなかったのだろう。

この日に、我が家の護衛騎士にならないかという誘いが複数きた。すべて断ったが、力があれが髪色なんて気にしないという貴族がシャノン大公以外にもいると実際に知れたのは良い発見だったと思う。


次の社交は来週の6と7の日にシド公国主催のものがある。

しかし場所はシド公国ではなく、ここシャノンシシリー公国で催す。『公国の王』としてならシド公国でやるべきだが『シド家』としてパーティーを催すため、シャノンシシリーにある別荘でやるそうだ。というかシド公国は帝都から離れすぎているので社交をやるには向かないし、帝国最大の湖であるイミタラッサに面しているシルヴィア公国やシャノンシシリー公国は貴族の別荘地としてとても親しまれているので、人が集まりやすくパーティーを開催しやすいのだ。

それまでの数日間はシャノンシシリーの街を散歩したり、観光したり、双子の訓練に付き合ったりして時間を潰し、5の日にシドんちの別荘に俺とシリウスだけで向かい(ルシウスはマルガとお留守番)、そこでデボラと落ち合った。

「あれ?デボラ着いてたのか!早かったな!」

「アグニ!あ~よかった~!!!!」

シドの別荘の前の門に一つの馬車が止まっており、その隣にデボラは立っていた。俺が馬車から降りて話しかけると、それまでバキバキに緊張した様子だった芸素が若干和らいだ。

「ごめん待った?というか先に入れさせてもらえばよかったのに。」

「そんなことできるわけないでしょ?!!」

「えぇぇ…?」

門番に言えば中に入れてもらうことはできたはずだが、一人で入るのはちょっと怖かったのかな。

『へぇ~君がデボラか。』

馬車の中から顔を覗かせたシリウスにデボラは一瞬びくっとしたがすぐに綺麗な笑顔を返した。

「あ……初めまして。デボラと言います。アグニの……お姉さん?」

今シリウスはフォード公国の民族衣装を身に着けている。外見だけでは天使の血筋だとはわからない。

『あ~う~ん、まぁ~…お姉さんでいっか。』

「あれ?男性?お兄さん?それはすいません、大変失礼いたしました!」

『いいのいいの。ほら乗って。』

どうやらシリウスは自分の事を明かさないらしい。まぁ特に俺も困らないのでとりあえずはそのままシリウスに従っといた。門番にシリウスは身分を確認されたが、俺の侍従だと告げると素直に通された。

馬車で別荘の敷地内に入ったが……案の定馬鹿デカイ。

というか門を通ったはずなのに建物が見えない。緩やかで見晴らしのいい丘を馬車で登りきると、やっと馬鹿デカイ家が見えた。丘を降りた先にシャルト公爵邸と同程度の屋敷、そしてその横に巨大なホールと湖が見えた。

「え………この湖ってシド家専用ってことか?」

『そりゃそうだよ。門通ったでしょ?』

「っ……………」

デボラの芸素がまたバキバキになった。規模の大きさで驚いているのだろう。

「は~すっげぇなやっぱ!俺らここに泊まるのか~」

帝都以外で社交を行う場合、大体の場合は主催者側が泊まる場所を提供してくれる。シャノンシシリー公国の社交時はマルガの家が近くにあったので断ったが、ここは少し街から離れるのでお言葉に甘えて別邸に泊まらしてもらうことにしたのだ。

ガチャ・・・

「お待ちしておりました。アグニ様、デボラ様。」

馬車の扉が開かれるとそこには複数名の紳士が立っていた。

「どうもありがとう。」

「あ、ありがとうございます……あ、自分で運べます…!!」

荷物を運ぼうとした使用人にデボラはそう言った。

「デボラ、運んでもらって。」

「え、でも………」

迎える側は客人の荷物の中身を直接確認するわけにはいかない。なぜならそれは客人に対して失礼な行為になってしまうからだ。しかしその代わり、荷物を直接運ぶ時に重さだったり硬さだったりを確認して屋敷に変なものを持ち込んでいないかを確認している。
なので逆に信頼を得るためにも荷物を運んでもらう必要がある。俺もこのことは最近になってシリウスから教えてもらった。

メインの入り口から入り、執事長や侍従長から挨拶を受ける。主催者が直接出迎えてくれる場合もあるが、今日の主催者は天使の血筋なので、ゲストも天使の血筋じゃなければそれは行わない。

しかし・・・

『やぁアグニ!待ってたよ!』

「あれ?シド?!え、なんで??」

階上から堂々と降りてくるシドに少し驚きながらも返事を返す。シドはまずデボラを見てニコリと微笑み、その後に俺の後ろにいたシリウスを見て大きく目を見開いた。

『えぇ?!!!……‥あの、え、もしかして………シリウス様でしょうか?』

『……ちぇ。あーあ、バレちゃったか。』

「え……………………」

シリウスが髪と目にかかる布を取った。そしてこの場の誰よりも明るい色が現れた。

「ひぃっ………!!!!」

デボラが小さく悲鳴を上げた。そして芸素が全力で飛び出しまくっている。たぶん今相当心臓がバクバクなのだろう。

「あーごめん。侍従用の部屋をゲスト一人につき一つずつ与えられるって聞いて、そんでこいつがついてきたんだけど……」

俺の説明を聞いたシドは驚いた顔のまま俺を見ていた。

『いや、さすがに……。急いでシリウス様の客室を本邸に設けさせます。』

シドの一言で何人かの侍女が急いで去っていった。準備を始めるのだろう。

『僕アグニと同じ部屋にいるから必要ないよ。』

『え、いやしかし……。ではアグニの部屋を本邸に変えましょう。2つ続きの部屋を用意しますのでそちらをお使いください。』

『ん~ソファがあればいいんだけど。まぁじゃあそれでいいよ。』

シリウスは夜に寝ないからわざわざ寝室を設けてもらう必要はない。しかし招いてる者としてはそうもいかないのだろう。

「ご、ごめん。別に気を使わなくてもいいのに……」

『いやいやいやいや!!!それはできん!!』

「はぁそっか……なんかごめんな。」

『いいや、父がシリウス様にお会いしたいと言っていたからきっと喜ぶ。そうだ!もしよろしければ本日の夕食、ご一緒にいかがですか?』

シドの提案にシリウスはすぐに頷いた。

『いいよ。準備ができたら迎えにきて。』

『かしこまりました!デボラも是非参加してくれ。』

「は‥…………………はい……?」

デボラはずっと斜め45度で頭を下げていた。微塵も動かず、出来る限り空気に溶け込もうとしていたが、さすがに空気にはなれなかったようだ。

「そうだな!シリウスとデボラと3人でお邪魔させてもらおうかな!」

「え………?」

『ああ!時間がわかったら知らせるよ。デボラはその時に私の父と挨拶するといい。ではまた。』

「は………はい……???」


シドが去っていくのを見届けた後、デボラはゆっくりとシリウスの方を振り返った。

『僕、シリウス。』

「は、はい!!!天使の血筋様にご挨拶申し上げます!!第2学院第3学年のデボラでございます!!!先ほどまでの無礼、どうかお許しください!!!!」

デボラは秒で敬礼を行い挨拶と謝罪を口にした。前にシーラと会った時に挨拶をやり直しさせられたのが効いたのか、今回はきちんと文章を言い切った。

シリウスは美しく微笑んでからデボラに近づいた。

『別にさっきみたいに接してくれて構わないよ。シドと会って緊張したでしょ?』

「さすがにそれはできません!シド様もそうですが……天使の血筋様………の、神秘性に少し平静を失いました!」

たぶんシドよりも気づかず隣にいた天使の血筋シリウスの方にビビったのだろうが、デボラは素直に告げなかった。

『ははっ良い言い回しだね。ところで、身体を動かすのは好きかい?』






・・・・・・







「はっ!!ふっ!」

『ん~残念。』

「はあ!!!!!」

『軸がズレてるよ。』

「あっ!!!」

ズシャア・・・!!!

湖畔でシリウスとデボラが戦っていた。俺はそれを少し離れたところから見ている。剣を合わせてから、デボラの緊張の色が薄れた。きっとこれが狙いだったのだろう。

『あ、そういえば2人とも明後日の狩りは大丈夫?』

「え?あ、そういえばそんなのあったな。ちゃんと持ってきたはずだよ。」

「はい!ハーロー男爵様より頂きましたものを持ってまいりました!」

シド公国の社交はパーティーよりも狩りの優先度のが高い。だから狩り用の服もきちんと用意しておかなければならないのだ。

『よかったよかった。僕はパーティーにも狩りにも参加しないけど、頑張ってね。』

「え……パーティーに出られないのですか?」

デボラが不思議そうにシリウスに聞いた。

『僕、貴族社会にいないんだ。まぁけど狩りは外でやるわけだし、少し見に行こうかな。』

「そう………なのですか…?」

天使の血筋で貴族社会にいないのはシリウスだけだ。けれども貴族の娘ではないデボラは「そういうこともあるのかな?」といった感じなのだろう。

『ほらアグニ、デボラの傷治して。』

遠慮なくシリウスに転ばされていたデボラは擦り傷まみれだった。たぶん結構痛いだろうけど、首を横に振った。

「え、いえ!!そんな治癒なんてもったいない……!」

「なに言ってんだよ。明日パーティーだぞ?シドのパーティー、傷まみれでいいのか?」

「うっ………」

「別に治癒なんていくらでもないんだから遠慮するなよ。ギフト・・・治癒。」

デボラの身体を金の光が包んだ。

「…ありがとう。」

「おう!」




「『 アグニ~!!! 』」

後ろから昨日まで聞いていた声がした。

「え?!レイ、レベッカ?!」

すんごいスピードで近寄ってくる2人に俺は両手を広げ、その体を受け止めた。

「え?どうしてここに???」

「シャノン様の護衛!連れてってくれるって!」

『アルダ隊で私達二人を連れて来てくれたの!ここにシリウスとアグニもいるからって!』

シャノン大公が気をきかせて二人を護衛チームに入れてくれたらしい。そしてこの2人がいるってことはシャノン大公もこの場に到着したらしい。

そしてレイはデボラが凍るようなことを口にした。

「シャノン様、あとでアグニ達と夕食一緒に食べるって言ってたよ。」

「 え。 」

【速報】
天使の血筋が夕食会に1人増えた。

「デボラ………大丈夫か?」

「………………………………ダイジョブ。」

『あははははっ。たっのし~。』

「『 たっのし~!!! 』」

シリウスが茶化しながら去る。
それを見て双子も茶化しながら去る。


俺は顔色が真っ青になったデボラを一生懸命慰めつつ、夕食会の準備のため、屋敷へと帰ったのだった。





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