再創世記 ~その特徴は「天使の血筋」に当てはまらない~

タカナデス

文字の大きさ
上 下
152 / 174
第4章

140 新たな共犯者

しおりを挟む


刻身こくしんの誓いは血脈を通して鎖を繋ぐ。
そして片方が死するまで契約は維持されることが多い。
法や国家が形成される前、現在のように契約に紙や芸石を用いる「社会」が形成される前に存在した方法だ。

『カール、まず自分の腕を切ってくれるかい?』

シリウスがさも何事でもなさそうにカールにナイフを渡した。受け取ったカールはナイフを見て困惑している。自分で自分を切ったことなど当然ないのだろう。

「………おれが切ろうか?」

「いや、アグニは遠慮なくザックリ切りそうだからいい。自分で切る。」

「おいこら。」


   冗談言う余裕があるなんて~
   このこの~


ザクッ・・・

「っ!!」

宣言通り、カールは自分の腕の内側を切った。血は遠慮を知らず流れ落ち、絨毯に赤い滲みがいくつもできた。
シリウスはすぐに赤色で染まったカールの腕を掴み、ニコッと笑った。


  もう1つ、この契約の最大の特徴で
         この方法が廃れた最大の原因


『私からギフトを、汝の身に刻む 身契縛しんけいばく 』

「くっ………うわああぁあぁあぁぁぁぁ!!!!!」


   被契約者に大変な痛みを伴うのだ。


カールが思い切り身体を退けぞり、シリウスから懸命に腕を引き、逃げようとする。シリウスの芸素が傷口から体内に無理やり流れているのだ。けれどもシリウスは表情を一切変えることなく、暴れるカールの腕を離さず、じっと芸素を流し続けている。

「ギッ わあアああアああぁああ!!!!!!」

カールは暴れ続け腕を振り払おうとしている。

『アグニ、カールを抑えて。』

「え、あ、うん……これ、本当に大丈夫なのか?!」

『大丈夫。もう終わるよ。』

数秒後、悲鳴は止みカールは膝から崩れ落ちた。刻身が終わったのだ。カールをソファに座らせると、カールの腕に細かな鎖のような柄が光で描かれた。

   これが「身に刻む鎖」なのか!!!!!

「…………… え?」

シリウスの方を見ると、シリウスの身体も光っていた。
それもカールのように1つだけの鎖ではなかった。
頭も、顔も、首も、腕にも……シリウスの身体中に金色の鎖が描かれている。それはシリウスが鎖で繋がれて動けなくなっているようにも見えた。

刻身の誓いで描かれる鎖は一本のはず。けれどもシリウスの身体には数十本も描かれている。つまりそれだけ別の人とこの誓いを交わしているということだ。

俺とカールはただ呆然とシリウスの身体中にある金色の刺青を見ていた。その視線に気づいたシリウスはにこっと笑うと身体中をさすって言った。

『この鎖ね、今は金色でしょ?僕が誅した場合、この鎖は赤茶色に変わるんだ。つまり、見ての通り僕はまだ誰の命ももらったことがないよ。まぁみんないい子だからね。』

「お前は……一体何人の鎖を持ってるんだ?」

『必要数だよ。』

正確な数字を教える気は無いらしい。しばらくするとカールとシリウスの光が消え、契約が肌に溶け込んだ。

「消えた…………。」

カールが自身の腕を見ながら呟くとシリウスは再度紅茶を飲み始めた。

『別の誰かと契約する時にはまたその紋は浮き出るから気をつけてね。今の僕みたいに。』

「…………わかりました。」

刻身の誓いなんてできるのお前くらいしかいねぇよ、とカールも思ってるだろうが素直に頷いたようだ。

『さて、カール。話を戻すけど先程の君の不注意さには呆れたよ。』

急にまた部屋の温度が下がった。いや、部屋自体に重さがかかったようだ。シリウスが金の瞳でじーっとカールを見続けている。

『いいかい?君は貴族社会のもう一歩深いところに足を進めたんだ。今以上に言葉に気をつけなさい。証拠を誰でも撮れる時代に変わったんだ。』

「はい………。」

『そして君は今から神話の時代からずっと隠されてきた事実を暴こうとしているんだ。このことが発覚したら…君の命程度、すぐ摘ままれるよ。』

「……………はい。今以上に、気をつけます。」

カールは騎士の誓いのように立て膝をつき、シリウスの瞳を見返して宣言した。

「カール・ブラウンはシリウス様に害ある行動をしないことを、この身で誓います。」

カールは今、もし自分が害ある存在となればいつでも身に刻んだ鎖を絶ってくれていいと言っているのだ。

『見事だ、カール・ブラウン。では、まず最初の命令だ。刻身の誓いをしたこと、誰にも伝えてはならぬ。』

「はい、わかりました。」

『いい子だ。アグニ、君も言っちゃだめだよ。』

「おう、わかった。」

『よし。それでねカール、』

「はい、なんでしょう?」

シリウスは何事でもないように告げた。


『アグニは、天使の血筋なんだ。』 


「‥‥…‥‥……………え………………はい??」

『この世界にある迷いの森…妖精の森の奥には天空の血を引くものしか入れない場所がある。そしてその場には天空の遺跡がある。今度アグニに見せてくるから、その遺跡の様子をアグニから聞きなさい。』

「……………って、うおぉぉぉいいぃ?!!!何ぽろっと伝えてんだよ?!!!」


   びっくりした!びっくりしたー!!!!
   え、ちょっ……えぇ?!!!
   今ずっと隠してきたこと普通に伝えなかった?!


俺は隣にいるカールを見ると、口を開けっ放したままシリウスを見続けていた。そしてギギギ・・・っと徐々に顔がこちらに回転して俺の顔をガン見している。

「え、…………アグニ、ほんと?」

「え、あ、まぁ、うん。あの………驚いた…よな?」

驚いた、というか信じてないかもしれない。だって俺の髪は黒色で、今まで誰一人としてそんな存在はいなかった。それに俺が芸石を使えることも知ってるだろうし。
一度全部芸石を取って芸を使えること見せた方がわかりやすいかとも思ったが、カールの飲み込みは早かった。

「…………めちゃくちゃ驚いてるよ。けど…ほんのちょっとだけだけど…そうじゃないかなとも思ったことがあるんだ。お前の瞳はシルヴィア様よりも明るいし、シリウス様と同じ色だからな。」

「………まじで? 信じて……くれるの?」

予想外だ。頭のおかしいやつだと思われると思ってた。

前例のないものを認めるのはとても難しい。特にそれが宗教的・神話的な話に繋がると、ほぼ不可能だ。
なぜなら神というのは揺るがない『絶対』の象徴だからだ。最も変わることのない存在だからだ。例外を認めにくく、それゆえに論争の火種にもなりやすい。

けれどもカールは、俺のことを認めてくれた。

「なんで………信じてくれるんだ?」

ぼぞっと聞いた俺の問いに、カールはこの場で初めての笑顔を見せた。


「俺が、信じたいからだ。」


『………ちなみにどうして刻身の誓いを受けたの?』

シリウスの質問に対し、カールは勝ち気に笑った。

「これから、面白くなりそうだと思ったからです。」

「……ふふっ。 カール、あなた意外と大胆ね?」

ずっと沈黙を貫いていたシーラがカールの発言で初めて声を出した。シーラはシリウスの隣でずっと事の成り行きを見ていた。
シーラの言葉を聞いてシリウスがふわっと笑った。

『ほんとだね。新しい一面をみれた。………カール、これからよろしくね。クルトにお酒を持ってきてもらおうか。』

「いいわね。すぐ頼んでくるわ。」

『ありがとう。では、新たな共犯者の誕生を祝おう。』







・・・







「言ってよかったの?」

軽く祝杯を上げ今後の話を重ねた後、アグニはカールを見送りにいった。私の隣に座るシリウスはクルクルとグラスを回して穏やかな笑顔を携えていた。

『うん、まぁね。最初に伝えるのはコルネリウスかと思ってたから意外だったけど。まぁ彼にもそのうち教えるだろうし、もしそうなったらその時も契約するから。』

「…………少しずつ、動いていくわね。」

この世で最も変化を嫌うはずのあなたが、進んでいく

『ははっそうだね。けどもう……次を待つ時間は残されてない。この機会を逃さぬためなら僕は大嫌いな変化も大好きになるよ。』

そういって、また綺麗な綺麗な笑顔をみせる。

 誰のことも寄せ付けない笑顔

 気づいてないの?
 あなたのその笑顔で私は悲しくなるのよ

 全部1人で抱え込んで、それなのに笑顔で壁を作って

「……シリウス、私は離れないわよ?」

『ふふっ。 知ってるよ。』


意地っ張っりな私の言葉に、やっと顔を崩して笑って

その顔を見て、私もやっと安心できた。




・・・・・・




6の日

またまたパーティーだ。貴族はほんとに宴会が好きだな

『アグニ、前に言ったと思うけど夏は社交界シーズンだからね。君も毎週色々なパーティー出るから、そのつもりでね。』

「へぇ?!!!!!!!」


   まてまてまて。そんな話してたか?!!
   …………してたかもしれん。
   え、けどそんなに?!毎週?! 


「ちょっとアグニ!前向いてちょうだい!」

「あ、ごめん。」

パーティーのためにシーラが俺の髪の毛を格好良くいじってくれてる時だった。シリウスの爆弾発言に思わず後ろを向いてしまった。

『僕たぶん前に伝えたよ?社交界っていうのは簡単に言うと、各家が主催するパーティーが連続で起こる期間のことね。だからもちろんシャルトが主催するパーティーもある。もうそろそろアグニ宛てに色々なところから招待状が届くはずだけど、シャルトのは優先して参加してあげてね。』

「え、え、え??俺にも招待状って届くの?……貴族でもないのに?」

社交界ってのは貴族同士の集まりだ。苗字すらない俺に招待状が届くとは思えない。

『当たり前でしょ?君の保護者、誰だと思ってるの?』

「あ、そうでしたね……。」

保護者パワーがここで出てくるらしい。ぶっちゃけ社交界とか聞いてるだけでもだるいから参加したくないんだけどな……けど招待状が一通も来なかったらそれはそれで悲しいな…。

「俺に招待状って届くのかな…?」

俺が遠慮がちに聞くとシリウスはにやっと笑った。

『君を友達だと思ってなかったら来ないかもねぇ?』

「シリウス!アグニが本気で落ち込んじゃうでしょう?大丈夫よアグニ。少なくともコルネリウスやカールは招待状くれるでしょうから。」

「おぉ…よかった…。」

『ちなみにシーラ様はもうすでに招待状届きまくってるからね。』

「なんだと?!!!」

シーラの方を振り向くと、そのまま首をまた前に回された。

「後ろ向かないで!まだ途中なの!」

「あ、ごめん。……え、シーラはもう行くところ決めたの?」

「まだよ。あなたも招待状届いたらスケジュール一緒に立ててあげるから、早めに教えてちょうだいね。」


   うわ~!!助かる!!!
   その言葉が欲しかった!!!!


「まじでありがとうシーラ!!!」

『え?僕にもありがとうは??』

「なんでだよ!」


訳の分からない会話をしつつも俺は着々と準備を終わらせ、セシルを迎えに行った。







しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

(改訂版)帝国の王子は無能だからと追放されたので僕はチートスキル【建築】で勝手に最強の国を作る!

黒猫
ファンタジー
帝国の第二王子として生まれたノルは15才を迎えた時、この世界では必ず『ギフト授与式』を教会で受けなくてはいけない。 ギフトは神からの祝福で様々な能力を与えてくれる。 観衆や皇帝の父、母、兄が見守る中… ノルは祝福を受けるのだが…手にしたのはハズレと言われているギフト…【建築】だった。 それを見た皇帝は激怒してノルを国外追放処分してしまう。 帝国から南西の最果ての森林地帯をノルは仲間と共に開拓していく… さぁ〜て今日も一日、街作りの始まりだ!!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

家族もチート!?な貴族に転生しました。

夢見
ファンタジー
月神 詩は神の手違いで死んでしまった… そのお詫びにチート付きで異世界に転生することになった。 詩は異世界何を思い、何をするのかそれは誰にも分からない。 ※※※※※※※※※ チート過ぎる転生貴族の改訂版です。 内容がものすごく変わっている部分と変わっていない部分が入り交じっております ※※※※※※※※※

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

処理中です...